「ふう、結構回りましたねー」
「そうですわね。わたくしもいいものが手に入りまして嬉しい限りですわ」

 デパートを出たわたくし達は、呪文のような飲み物を口にしながら再び通りへ足を運ぶ。この後のことを考えて服は購入せず、鞄に入るお化粧品とイヤリングだけ買いましたわ。

「いや、うん、服は荷物になるから買わないというのはわかったし、コスメをイヤリングもわかります。だけど――」
「だけど?」
「ヌンチャクとか木刀はどうなんですかね!? どう考えても邪魔でしょうに……!!」
「ああ、これですか? まさかこの世界で武器屋があるとは思いませんでしたわ。これがギョウザというやつですわね」

 デパートの中に木剣や『ぬんちゃく』といった武器を置いているお店をお見かけしたので、中に入ると見たこともない得物がたくさんあって久しぶりに興奮しましたわね。
 特にニンジャ? だったでしょうか。暗殺を生業とする本当にこの日本にいた職業のカタナとシュリケンは『美』がありましたわ。
 向こうの世界でも暗殺者は居ますが、ダガーが主な武器なので、今考えると情緒もなにもありませんわねえ。

「いや僥倖なのでは……? 女の子が振り回せるようなものじゃないと思うけど、どうするの?」
「弟を鍛えるために必要ですの。まずは木剣の素振りを500回からですわね」
「エグくない? さて、それじゃ次はどこへ行く……行きますか?」
「そろそろ十八時……。では、わたくしの行きたいところへついてきてくださいますか?」
「ん、わかりました!」

 ということで、やはり服は買わなかった彼女が元気よく返事をして頷いた。それではと、わたくは足早に歩き出す。

 そして人の様子が学生や普段着の者から『すぅつ』というお父様やお母様が着て出かける服の者へと変化していく。オフィス街へと入ったようですわね。

「えっと、ここに用事が? お父さん関係、とか?」
「いえ、そうではありませんわ。それにしてもこの辺りは賑やかですが、寂れているところもある。珍しい場所ですわね」
「……そう、ね」
「表と裏。人間の外観と内面みたいだと思うのは少々乙女チックでしょうか」
「……」

 青い顔をし、段々と足が重くなる里中さん。この道がどこへ続いているのか、察知しているようですわね? 黙り込んでしまった彼女としばらく無言で歩いていると、不意に立ち止まり口を開く。

「ま、まだ、かな? 遅くなるって家に電話したいんだけど、いい?」
「構いませんわ」

 少し距離を取る里中さんの背中を見ながらわたくしはこれからのことを考える。
 この時点でわたくしが犯人について『気づいている』のは間違いない。
 電話は救援を呼ぶためと見ていいでしょうね。

 わたくしに仲間が居ないと考えているかどうか? それでかなりこの後の流れが変わってくるのですが。

「……」

 視界の端で動く人影を確認する。三つ……ということは織子達でしょうね。
 できれば彼女達がケガをしないよう立ち回るとしましょう。

「お待たせ! 今日は遅くなるって言っておいたから、晩御飯もどこかで食べない?」
「いいですわね。わたくし、はんばんがあというものを食べてみたいですわ」
「じゃ、ハンバーガーにしましょうか! 用事、早く終わらせましょう」
「そうですわね」

 電話をして気が楽になったのか明るくふるまえるようになりましたか。さて、それでは最後の舞台へ参りましょう。
 わたくしが前を歩き、もうすぐ見えてくる廃墟のビルへ。
 この一角ではこのビルと他にもう一つ人の居ない廃ビルがあるそうですが、今は関係ありませんわね。

 そして――

「到着ですわ」
「ここ……?」
「ええ。この屋上ですわ」
「……入ったら怒られるんじゃ、ない?」
「少し前にわたくし、入りましたから」
「……っ」

 わたくしが微笑むと、里中さんは不安げな笑顔でこちらを見ていましたわ。お互い黙ったままビルの階段を上っていく。
 一段、また一段と暗闇で靴音だけが聞こえてくる。なにを考えて上っているのか?
 答えはこの扉を開けた後に聞いてみましょうか。

「……丁度、月が上がってきたようですわね」
「そうね。……それで、こんなところに私を連れてきてどうしたいんですか? 誰かに見つかったら大変――」
「――大変ですわね? わたくしと、以前ここから突き落とした本人が一緒に居るのを見られるのは」
「……! あんた、やっぱり記憶が戻って……」
「ふふ、そう睨みつけないでくださいまし。というか、もう少し誤魔化すかと思いましたが……。余裕がありませんわよ?」

 月明りを背にしているわたくし。屋上の扉に居る里中さんの顔は月明りでハッキリ見え、口は笑っていますが目は大きく見開かれていますわ。
 一言、『なんのこと?』でも返せば少しは誤魔化せるのですが、彼女はわたくしの記憶が戻っていると思い込んで口にしたようですわね。

「くっ……。でも、私にはあの日のアリバイがある。あれから時間も経っているし、突き落としたことがわかるはずがない」
「確かにわたくしがあなただと証言しただけではそうかもしれませんが……このスマホの写真があれば、どうでしょうか?」
「それ……!」

 瞬間、彼女の顔が青ざめる。
 やはりこれが急所ですか。では、『お話合い』といきましょう。