スマホには『かめら』というスキルがついているそうでそれで『しゃしん』というものがとれるそうです。
　常識を覚える方が先でしたから機械はまだまだ覚えることが多いんですのよね。
　でもそんな便利なものがあるなら警察が先に調べているのでは、とグランドキャメルクラッチソースクエストアームホイップホワイトモカを飲みながら涼太の方に視線を移す。
　
「これも違う……これも……てか、意外と姉ちゃん写真撮ってるな！？」
「なんですの？　まあ、美しい景色。この絵が写真ですの？」
「写真を知らねえってどういうこった？」
「い、いや、姉ちゃんは色々頭がやばくて……！」
「飛び降りた影響か？　可哀想に……」

　何故か二人に生暖かい目で見られて居心地が悪くなるわたくし。
　それはそうと、涼太が言うには写真はカメラというスキルを使って今、その場の風景や人物をそのまま残すことができるそうです。
　……便利ですわ。画家に長い時間をかけて書く必要が無いんですもの。できればこの技術は持って帰りたいくらいです。

「風景が多いですわね。もしかしたら警察はすでに確認していて、手がかりを見つけることができなかったのでは？」
「そうかなあ。でも、なにか相手にとって実害になりそうなものを姉ちゃんが持っているという仮説が無いと狙われる理由がやっぱり分からないんだ」
「それはその通りですが……おや？」
「ん？　どうしたの姉ちゃん」

　スマホの画面。その写真というものを指でスライドさせていく中、やけに暗いものが目に入り涼太の手を止めさせました。
　
「これ、なんだかブレているし暗いからよく分からなかったんだ。あんまり関係なさそうだけど――」
「いえ、よく見なさい。ここ……これは人じゃありませんか？」
「ええー……？　ちょっと大きくしてみるよ」

　指を二本画面に上に乗せて外側に広げると写真が拡大される。そして人だと思っていた部分は、やはりそうだった。

「本当だ……！？　よく気づいたな姉ちゃん。これは女の子とスーツを着たサラリーマン……？　それもカメラ目線？」
「そのようですわね。激昂しているように見えますわね……なるほど」
「なにかわかったのかい？」

　二本目の煙草に火をつけている桧垣が肩を竦めて尋ねてきた。なのでわたくしは静かに頷いて返事をします。

「こっちの派手な格好をした女子はわかりませんが、制服はわたくしの通う服ですわね。こっちのサラリーマンはなんとなく、知っている人物に似ていますわね」
「なんだと……？」
「……美子が隠していたモノ、なるほど読めましたわ。後はこの状況を――」

　制服の女子、それとサラリーマン……この二人がこちらを向いているということは恐らくこれが『犯人』の欲しい情報ですわね。
　となると彼女の行動は意味が出てくる。ただ、そうなると状況的に――

「姉ちゃん、姉ちゃん」
「ん？　どうしましたか涼太？」
「いや、すんごい怖い顔でブツブツ言ってるから大丈夫かなって……」
「ああ、すみません。つい癖で。向こうの学院でも暗躍をする輩は多かったですからね」
「にしちゃ怖かったぞ……」
「ふん、こんな美人を前に情けないことを言いますわね。ごちそうさまでしたわ」

　わたくしは一旦考えをまとめるためドリンクを飲み干して目を閉じる。
　制服の娘はぼやけていますが見知った感じではありません。サラリーマンもブレていますのでなんとなく程度のものしかありません。

　それと。

　『彼女』が犯人だとしても、この写真一つでそこまで追い詰められるものでしょうか？　

「……サラリーマンと写っているのがまずいとか？　そんなことがあり得るのかしら？」
「あー、無くもないんじゃあねえか？」
「どういうことでしょう」

　面倒くさそうな顔をし、煙草を一気に吸いこんでから煙を吐く桧垣。そしてニヤリと笑みを浮かべて口を開く。

「……援助交際ってやつじゃねえか？」
「それはなんですの？」
「兄貴、今だとパパ活ってやつじゃないですかね」
「くく、兄貴の頭も古いぐればあぁぁ！？」
「うわ」

　桧垣が細い方の男、ヤスの頭を掴んでなんちゃらモカへ叩きつけた。その瞬間中身が飛び散り、前に座っていた涼太が慌てて飛びのいた。
　それはともかく、

「『えんじょこうさい』と『パパ活』について詳しく聞かせていただけるかしら？」
「ああ。まーいいぜ。俺達としちゃあいつらは邪魔な存在だからな――」

　そういって首を鳴らしながら話してくれたことはそこそこ分かる話でした。
　要するに女性という武器を使ってお金を稼ぐ『お仕事』と言って差し支えないことですね。
　向こうの世界で言うなら『娼館』で働く娘というところ。
　だからサラリーマンと一緒に居るところを見られたのは、非常にまずい。
　未成年が体を使うことは法で罰せられるから。ゆえに焦っているのだと、現状が繋がりました。

「でも、だったら秘密裏に先生にでも言えば良かったんじゃないかな。姉ちゃんはどうして」
「坊主の言う通りだな。なんでまた――」
「ちょっと待ってください。考えをまとめているので」
「あ、ああ……」
「や、っぱ怖いぞこの姉ちゃん……」

　ヒロという大男が冷や汗を流すのをよそに、わたくしは考えをまとめる。
　
　援助交際……写真を撮られる。涼太の言う通り第三者へ言えばいい……それをなぜしなかったのか――

「……そうですわ、そういうことなら話が繋がる」
「どうしたんだい姉ちゃん？」
「いえ。この一連の話。その正体が見えましたわ」
「ほ、本当に！？」

　わたくしはその言葉に頷く。
　さて……それでは反撃と行きましょうか。最初で最後の、わたくしからのお礼を渡さねばなりませんからね？

美子の部屋にあった推理物の漫画のような決め台詞が欲しいですわね。
そんなことを思いながらどう追い詰めるかを考える――