「どこへ行ったのでしょうね」
「こっちに来たのは間違いないと思うけど……」
わたくしと涼太は早足で里中さんの後を追っていく。しかし、少しの時間だったのですが人の多さもあり視認が難しいですわね。
「もう一度戻ってあのナンパ男をぶちのめしましょうか」
「腹いせ……!? やめとこう、さっきのでも十分目立ってたし。日本で暴力事件は不味いからね?」
チッ、そういえばそういう世界でしたわね。このまま見つからなかったらどうしてくれましょうか。
そんなことを考えながら『ああけえどがい』とやらを歩いて行くわたくし達。
それにしても商店街のような感じですが、案外道が枝分かれしてますわね。
「こっちの方は……?」
「そっちはあんまり行かない方がいいよ」
「あら、どうしてですの?」
あの日、才原さん達を探すため足を踏み入れた誘拐犯が現れた時のような通りを指差して尋ねると、涼太は静かな通りを見ながら口を開く。
「この辺って表通りは人が多いから賑やかでいいんだけど、裏に入るとヤンキーとか如何わしい外国人が居たりして割と危ないんだよ。レミ姉ちゃんも誘拐されそうになった時も裏通りだったろ?」
そう言われて確かにあそこも人影が少ない場所だったと記憶を呼び起こす。
「ふむ。そういえばあの時も……。わかりました。このまま行きましょうか」
「話聞いてた!?」
「もちろんですわ。むしろこの先に興味が出てきました。わたくしの強さは先ほど見せた通りなのでなにかあっても対処できます」
なんとなくですが、この先へ行く必要があると勘が告げています。どこかの店に入っているなどで里中さんが居るとは思えませんけれどね。
そのままアーケードの通りを外れて裏路地へ。涼太も慌てて追いかけてきました。
「俺もあんまり来たことないけど、本当に静かだな」
「お店はチラホラありますけど表にあるようなお店と違って、こう、よくわかりませんわね」
「マニアックなお店が多いっぽいもんね。あれなんて香辛料だけ扱っているだけみたいだし、あっちは楽器専門店かな?」
「ほう、それは面白いですわね」
むしろ向こうの世界は『こんびに』のような色々な品物を揃えているのは格式の高い商家にしかなく、だいたいは専門店ですからね。
「『かれえ』とはなんですか?」
「カレーライスっていう料理だよ。香辛料と野菜、肉を煮込んだ食べ物。そういえば母さん作ってないね」
「なかなか美味しそうですわね」
「ならお昼はカレーにする? この辺だと結構ある――」
と、いい提案をする弟に笑いかける。
そのまま少し奥へ歩いていくと、あまり素行のよく無さそうな男が三人、建物に背を預けてこちらを見ていることに気付きました。
「……」
「目を合わせない方がいいよ。絡まれると面倒だし」
無駄な争いは望むところではありませんのでその意見には賛成したいところです。
が、向こうはそういうつもりは無いようで、三人の内一人がスッと立ちはだかりました。
「なにか?」
「あんた、美人だな。そっちは彼氏?」
「弟ですわ。美人とは光栄なお言葉ですが、先を急ぐのでどいていただけませんか?」
「まあまあ、少しだけ話を聞いてくれよ。いい儲け話があるんだ」
「……姉ちゃん!」
目の前の男がそういうと残りの二人が背後に回りこんできて挟まれる形になりました。涼太が視線を向けながら小さく叫ぶ。
しかしわたくしは焦ることなく目の前の男に尋ねる。
「儲け話、少し興味がありますわね。話を聞く代わりにこちらの質問にも答えてもらうことは可能でしょうか?」
「お……?」
「そんなのはいいからついて――」
「イエスかノーか。それだけお答えください」
「……っ」
背後の男がわたくしの肩に手をかけたので、振り返らずに手を抓って返事を促す。
こういう時、ブラフだとしても相手に主導権を渡さないのが基本ですわ。
すると目の前の男は片目を細めて少し考えた後、親指を後ろに差して口を開く。
「こっちで話すぞ。……あんたの顔、ずいぶん変わったけどよく見りゃ会ったことあるな?」
「そうなんですの?」
「覚えていないのか……?」
「残念ながら。そのあたりも聞かせていただければと思います」
わたくしの言葉に頷き、ついてこいという感じで振り返りそのまま歩き出す。背後にいた二人も脇をすり抜けて彼に合流。
「どうする? 今なら逃げられそうだけど」
「行きましょう。あのリーダー格の男はわたくしを知っているようですし」
「嘘かも」
「その時はその時でしょう。大丈夫、あなたは守りますから」
「それは俺のセリフなんだけど……。ええい、行くしかないか」
渋い顔で涼太が歩き出し、わたくしも並んで歩き出す。
……美子を知っている、というのは元の地味子と前を歩く派手めな三人とはまったく合わないのですが、どういうことなのでしょうね?
才原さん達が放課後、美子が逃げるようになったようなことを言っていたのでこれと関係があるということでしょうか。
そして意外にもきちんとしたオープンテラスのカフェに到着するわたくし達。
「ま、座ってくれ。おい、適当に注文しておいてくれ」
「わかった。グランデキャラメルソースエクストラホイップホワイトモカでいいか?」
「その子達にな。俺はコーヒーを適当に頼む」
「グランデキャラメルソースエクストラホイップホワイトモカじゃないのか……」
「あの人凄いな!?」
そして強面の男が呪文のような飲み物をスラスラというのに涼太が驚いたところで、リーダー格の男が口を開く――