わたくし、里中さん、才原さん、田中さん、佐藤さんの五人は交番へ足を運んだ後、少しだけ待っていると二台のパトカーで若杉さんがやってきました。

「まさか例の件以外で呼ばれるとはね」
「申し訳ありません。階級が上の若杉さんの方がいいかと思いまして」

 意外だったのは里中さんを除いた三人が逃げずについてきたこと。それとあの危険な状況で救出に来たということでしょうか。
 美子(わたくし)を追い込んだのであれば証拠隠滅……誘拐される方が都合がいいと思うからですわ。

「け、警察と知り合い……なんですね……」
「ええ。飛び降り事件の時、事情聴取を受けましてね」
「ああ、そういう繋がり……。あ、先生に連絡しておいた方がいいかな?」
「……そうですわね。家にも連絡しておく方がいいでしょう」

 若杉さんのパトカーの後部座席にはわたくしと里中さん。もう一台に残り三人が乗っています。
 
「それにしても、あの田中さんという子は凄いね。犯人の特徴は聞いたから捜査をしているよ」

 そう。若杉さんと合流した際、田中さんが誘拐犯の乗っていた大きな車の特徴とどっちへ逃げて行ったかを説明し、他の警察官が付近の捜索に乗り出したのです。
 
 こういう時はすぐに相談するべきとのことで代わりに話をつけてくれました。
 わたくしの前に出た理由は彼女、ああ見えて空手という武道を嗜んでいるらしいですわ。

「さ、ついた。悪いけど少し話を聞かせてもらおう」
「ええ」
「うう……」

 別のパトカーからも三人が降りるのが見え、わたくしたちはそのまま若杉さんに連れられて会議室へと招かれました。
 
「座ってくれ。とりあえず名前を聞かせて欲しい」
「……」

 四人は顔を見合わせた後、仕方が無いとため息を吐いてからそれぞれ名乗り、本題へ。

「それで、狙われたのは神崎 美子さんで間違いないね」
「はい。明らかにわたくしを狙っていましたわね」
「そ、そうなんですか? 神崎さん、可愛くなったから狙われたとか?」
「いえ、里中さん。肩幅の広い男が『こいつか』と漏らしていましたので、確定でしょう」
「それは……」

 と、里中さんが顔を青くして手を口元に当てて小さく『それは間違いない……』と呟く。そこで若杉がさらに続ける。
 
「心当たりは?」
「月並みですがありませんわね。例の件関連だとしても大の男に狙われるようなことは全然」
「……ま、そうだよなあ」
「ううん、もう一つあるよー」
「え? 佐藤さん?」

 そこで手を上げて佐藤さんが自分の考えた可能性を口にする。

「えっと、美子ちゃんってモデルの娘でしょ? それがじさ……飛び降りて一躍時の人になったじゃない? テレビとかでも報道されたわけだし」
「ああ、それでお金があるから身代金がとれるって思ったわけ?」
「なんでいいところを言うのよ織子ー!」

 ふむ、それは悪くない推理ですわね。しかし、それだと気になることがひとつ。
 もし、わたくしを狙っていて身代金目的だったとしても『こいつ』と特定できているのが不思議なんですよね。

 何故なら一昨日までのわたくしは瓶底眼鏡の地味子で、これだけオシャレをしてきたのは今日が初めてですからね。暴行目的ならオシャレをする前のわたくしを狙わないでしょう。

 そうなると今のわたくしを知っている人物。概ねクラスメイトに絞られる形になる。
 ……ただ、今、この話をするのはあまり美味しい状況ではないためここは知らぬふりをするのがベストだと考えます。

「君たち四人は神崎さんの友人かい?」
「そうです……!」

 里中さんが勢いよく手を上げてそう答え、それを見た三人は顔を見合わせて肩を竦める。

「私達は、まあ、そうかも?」
「美子ちゃんにはお世話になってまーす♪」
「家が近所なんで」

 三人はそれぞれそう答える。佐藤さん以外の二人は目を泳がせていますわね? すると里中さんが少し不機嫌になって口を開く。

「……お世話に、って金銭を要求したりしているんじゃないですか……? 記憶を失くす前の彼女をいつもどこかへ連れて行っていましたよね?」
「は? そんなことしてないし。そりゃ連れて行ったことはあるけど、普通に話をしていただけ」
「なにをしていたんですかね……? 言えないならそれは黒ってことになるわ」

 里中さんの言葉に才原さんも不機嫌な顔になり反論する。しかし、わたくしも興味がある『なにをしていたのか』のは口にしない。
 そこをついて里中さんが詰め寄っていくと、間に田中さんが割り込んで睨む。

「委員長、あんた喧嘩売っているの? なら買うわよ?」
「べ、別にそういうわけじゃ……。そうやっていじめていたんでしょ……」
「あたし達が美子ちゃんをいじめる必要ってあるぅ?」
「そこまでだ。里中さん、だっけ? 学校で神崎さんとなにか関わりがあるというのは今の会話で分かった。けど、証拠も無いのにそんなことを言ってはダメだ」
「う……ご、ごめんなさい……」
「ふん」

 若杉さんが頭を掻きながら四人を止める。当事者のわたくしを置いて喧嘩とは、とちょっと面白いと感じましたわね。

 それとも――

「とりあえず誘拐犯はガタイのいい男に太っているヤツ、それと小柄な男、と。それと大型のバン、だな。身代金目的は推測の域が出ないが気を付けるように」

 特に一人に絶対なるな、ということと、

「君たち四人もだ。顔を知られたと考えて慎重に。一応、通学路や学校付近に警らは寄越すが絶対じゃない」
「そ、それもそっか……あたし達も可愛いから狙われる可能性がある……!」
「可愛いは関係無いでしょうが」

 佐藤さんの言葉に田中さんが呆れて小突く。
 そこで別の警察の方が扉の向こうでノックをしながら声をかけてきました。

「学校の先生がお見えになられていますが、若杉警部どうしましょう?」
「ああ、通してくれ。それじゃ、応接室へ行こうか。親御さんも心配しているだろうし」

 若杉さんがそう言うと、四人が騒ぎながら会議室を後に。最後にわたくしが出ようとしたところで振り返り、彼に声をかけます。

「すみません。あなたの奥様は教師だと言っておられましたわね」
「ん? ああそうだな。それが?」
「調べて欲しいことがあるのですが――」