「わたくしを阻むとはいけ好かない『きかい』ですわね」
「切符を入れないと無賃乗車になりますから仕方ないですよ」

 降りる時に切符を入れ忘れて妙な機械にお腹を叩かれてしまい、少し恥をかきましたわ。
 次はプライベートで練習しないといけませんわね。

「さて、それでは才原さん達が潜伏していると思われる場所を片っ端から回りましょうか」
「うん。だいたい分かるよ。近くのお店から案内するね」
「ええ」

 里中さんが先に立って目的地へと向かう。
 この如月町という場所は周辺で一番賑やかな場所で、特にわたくし達のような若者が集まるところらしいですわ。
 イケブクーロとかアキハバーラというもっと『特化』した場所があるそうで、いずれ行ってみようと思いました。
 『かいそく』という電車を使うらしく楽しそうですしね。

「ふむ」
「どうしたの?」
「いえ、これほどの人が闊歩しているということに驚きですわ。国の半数が居るのではと疑う感じ――」

 わたくしの世界だと目にする数だけで王都の大通りのような人の往来に、正直、驚きを隠せません。
 そう口にすると、里中さんが一瞬だけ固まり、すぐ破顔してわたくしの肩を叩きます。

「あはははは! そんな大昔の話じゃあるまいし! え、本当に大丈夫? ……ですか? 常識もどこかに忘れてきました?」
「まあ、そんな感じですわね。日記や弟との会話で色々と思い出しつつありますが」
「……日記とかつけてたんですか? まあ、学校と家の往復しかしていないですもんね」
「……ふむ。ま、今まではそうでしたがこれからはこういう町に出るのもいいかもしれませんね。それでは先を急ぎましょう」
「そうですね」

 という感じで探索を開始。
 さて、目標の人物はいますでしょうか?

◆ ◇ ◆

「へっへーん、これこれ。この新作マニキュア、どうー?」
「有栖、あんた本当にそういうの好きよね。というか、それを買うためだけに午後の授業を私達にさぼらせるな」
「ごめんってぇ。一人一個だから、二人の分も買えたらって思ったの♪ お詫びにお昼おごったじゃん!」
「……まあ、私はいいけど織子は良かったの? 神崎から目を離して」

 そう言って『ダークオレフラペチーノエスプレッソエクスらとっぴんぐちょこれーとそーすここあぱうだー』を飲みながらわたしに視線を向けてくる莉愛。

 ……どうして最近は呪文みたいな飲み物を頼みたがるのか。

 それはともかく問いについて答えることにする。

「いいわ。あの子、わたし達のこと全然わからないみたいだったし。周りの目もあったからいつもみたいに連れて行けないもの」
「そうだねぇ。でも、今日のイメチェン凄かったね美子ちゃん!」
「確かに。陰気眼鏡だと思っていたけどやっぱりモデルの娘だって思ったわ」

 二人が絶賛する中、わたしはイラっとして腕組みをしながら言う。

「なんか虚勢を張っているみたいだけど、中身がうじうじおどおどしているような子だからね美子は! 飛び降りた一時的なショックでしょ」
「おおう、厳しいね織子ちゃんは。でも性格、だいぶ違って見えたよねえ」
「……」

 有栖の言うとおり、復帰したあの子は変わった。
 わたし達と接していた少し前は言葉通り、陰キャ眼鏡でイライラさせられることが多かったのだけど、観察しているとまるで別人……そう感じるようになった。
 記憶を失くしてわたし達のことも覚えていないみたいだから、今は距離を取るのが最善だと思っている。警察やマスコミ、先生たちがあの子に目を向けるようになったからね。

「あの子はそのままでいいの?」
「できること、ないでしょ。まるで別人だもの。それに他の人がわたし達に目を向けてくるのは危ないし」
「美子ちゃんには冷たいねえ織子はぁ♪」

 含むような言い方をする莉愛に呪文みたいな飲み物を口にしながら適当に答える。すると、有栖がにやにやしながら目を細めてくだらないことを言う。

「うるさい有栖。……って、そういえばあんた最近イヤリングつけてないね」
「えー? ああ、星形の? そー、海原先生が『そんな派手なのつけてくるな』って言うからつけてないんだー」

 海原先生か。
 あの人、適当な性格の癖に化粧とかアクセサリーをつけている生徒を見るとうるさいんだよね。

「そりゃ災難。っていうかアレ結構目立つから仕方ないって」
「まあねえ。あ、でも今ならつけても大丈夫じゃん! えっへっへー、このキュアに合う……。ありゃ?」
「どうしたの?」
「いやあ、ポケットに入れていたんだけど片方しかなくてさー」

 ほら、と片方だけのイヤリングをわたし達の前に出した。有栖は膨れていたけど、莉愛がどこかで落としたんじゃない? と相変わらずクールに突っ返していた。

「お気に入りだったんだけどなあ」
「いっぱい持ってるんだからひとつくらいいいでしょ? これからどうする? 学校も終わった時間だし帰る?」
「私はどっちでもいいわ」
「あたしも目的は終わったし、どっちでも!」

 わたし達三人はよくつるんでいるけど、高1からの付き合いである。一年間、一緒に居たけどわたしを含めてそれぞれ性格はバラバラだから合わない時はまったく合わない。それでも一人よりは楽しいから美子も――

「あ、才原の姉ちゃん」
「あんた……美子の弟……?」

 オープンテラスに座っていたわたしが不意に通りへ目を向けると、そこには美子の弟である涼太が歩いていた。なんか可愛い子を連れて。