――迎えた遺跡調査の当日。

 カイルは宿舎の自室にて持っていく装備と道具のチェックを終えて、荷物をカバンに詰めていた。両手が使える方が良いため、リュックサックが都合がいいと部屋のクローゼットから引っ張り出したものだ。
 
 集合は午前八時半。壁にかけられた時計が八時を指したので、カイルはリュックを背負い、呟く。

「行くか!」

 場所は城の西側にあるグラウンドより広い、飛行船整備場。それと発着場が一緒になった広場だ。部屋を出て、真っすぐにそこへ向かう。
 時間的に一番乗りかと思ったが、すでに先客がふたり居た。カイルは驚きながら女性へ声をかけた。

「まさか三十分前に人が居るとは思わなかった。第五大隊のカイル・ディリンジャー、階級は少尉だ」

「おはようございます! わたしはフルーレ・ビクセンツ、階級は少尉で第六大隊の衛生兵です!」

 金髪セミロングに軍帽を被ったフルーレはにこやかに握手をした後、びしっと敬礼をした。カイルはその様子を見て元気がいい子だと思いながら隣に立つ目つきの鋭い初老の男性に目を向ける。

「大佐には自己紹介の必要はありませんよね?」

「ふん。当然だ。お前のことは良く知っているしな。……まさか『遺跡』調査に選ばれるとは思わなかったが」

「ま、こうなった以上は全力を尽くしますよ」

 カイルがそう言って肩を竦めるとフルーレが口に指を当ててカイルと初老の男性を交互に見ながら口を開く。

「えっと、カイルさんはブロウエル大佐をご存じなんですね?」

「……まあな。階級は一緒だし、気楽に頼む」

「はい! 少尉上がりたてのわたしが『遺跡』調査みたいな特殊任務に抜擢されるなんて本来有り得ないですからね! あれ? そういえばカイルさんって――」

 フルーレが首を傾げたところで、カイルは遮るように口を開いた。

「他のメンバーも来たようだな」

「あ、本当ですね! どきどき……」

 カイルがチラリとブロウエルの背後に目を向けると、昨日見た隊長の男に体格の良い男。それにたれ目がちな細身の男が近づいてきた。見れば整備員や料理人といったキャンプの待機メンバーなどが飛行船に乗り込んでいる。
 そして隊長の男がカイルたちの前に到着し手を敬礼させながら言う。 

「お待たせしたかな? 俺が今回の遺跡調査で隊長を務める、オートス=グライアだ。書面で知っているとは思うが、こういうのは形式だからな。各自自己紹介をしよう」
 
 不敵に笑いながらオートスは体格のいい男の肩に手を乗せて言う。体格のいい男はおどおどしながら口を開く。

「ぼ、僕はダムネ=ヒート、です。第四大隊の中尉です。よ、よろしく……」

 ダムネは騎士の名残を残す第四大隊からの選抜だった。大鎧に大盾、それに長い槍と腰の剣がそれを物語っている。次にたれ目の男が口を開く。

「俺は第二大隊の大尉でドグル=レイヤード。よろしくな! 特にそっちのお嬢さんには、さ」

 そう言う彼の所属する第二大隊は、主に銃を専門に扱う部隊である。それを象徴するように、腰のホルスターにあるハンドガン”EW-02 イーグル”と、左肩に担いでいるショットガン”EW-036 ホーネット”がこれ見よがしに装備されていた。
 ちなみに形式番号の『EW』は【EmpireWeapon】の略称で、帝国製であることを証明するものだ。

「わたしは第六大隊のフルーレです! 少尉という一番下の階級ですが、よろしくお願いします!」

「ああ。で、俺が隊長を務める第三大隊の少佐、オートス……っておい、お前も自己紹介するんだ」

 カイルがそれぞれの人物を眺めていると、不意にオートスから要求されたのでびしっと背を伸ばして敬礼をする。

「カイル=ディリンジャー、第五大隊で階級は少尉。……僭越ながら副隊長をやらせてもらう」

「もらいます、だろうが! 上官に向かってため口とはいい度胸だ!」

「いてっ!? ……すみませんでした……」

 カイルがオートスに小突かれ、口を尖らせる。年齢はカイルの方が上だが、階級がモノを言う軍隊においてオートスに頭が上がらないカイルである。

「お前はいつからいるんだ?」

「……五年前に少尉として入ってからそのままだ……です」

「くっく! 五年も少尉なのか? そんな奴がいるのか! ははははは! ……まったく、上層部はどういうつもりでこんな男を副隊長に……」

 ぶつぶつと呟くオートスの後ろで、ドグルがダムネに耳打ちをする。

「居るんだなぁ、落ちこぼれってやつ。お前もああはなりたくないよな」
 
「は、はは……」

「そういう言い方は良くないと思います!」

 愛想笑いをするダムネに、怒りを露わにするフルーレ。カイルはこの即席混成部隊の力関係を頭の中で考える。

「(フルーレちゃん以外の三人は顔見知りかね? ちとやりにくいかもしれないが、まあ何とかなるか? 『遺跡』次第だろうけど)」

 そう胸中で思っていると、ブロウエルがかかとを鳴らしながら大声をあげる。

「グチグチと文句を言うな少佐。上層部の決定に不満があるのか? であれば、今すぐここを去ってもらっても構わんぞ。上層部に逆らうものは『遺跡』調査に必要無い」

「さから……!? い、いえ、失礼しました! ブロウエル大佐はバックアッパーとお伺いしておりますがその認識で大丈夫でしょうか!」

 上層部に逆らうということはイコールでクビということなので、オートスは居住まいを正してブロウエルへ質問をする。

「うむ。私は君達のお目付け役みたいなものと思ってくれていい。ただ、座学で学んでいるだろうから省くが『遺跡』で君達だけでは手に負えない場合、戦力として参加する」

 そう言って腰にある細身の剣と、ホルスターにある銃を撫でながら目を細めると、オートスは敬礼をして一言、

「光栄であります! ……よし、飛行船へ行くぞ」

「(後衛だけに光栄……なんちゃって……)」

「……」

 フルーレの呟きはスルーし、全員で飛行船へ向かう一行。船内に乗り込むための階段に近づいた時、白衣を着て、茶色い髪をした眼鏡の男がタバコをふかしながら声をかけてきた。