――伝説級
敵対存在として最高クラスの強さを誇り、その姿はこの世界に存在するどの生き物とも違うものが多い。
人型をしているもの確認されているが、一般的に伝説級と呼ばれる個体は”魔物”と呼ばれ、『遺跡』や『遺物』と共に出自が謎とされている恐るべき存在。
古くは一つ目の巨人や角の生えた鬼。豚や馬の頭をした人間や液体に意思のあるスライムなどが目撃されているらしい。
天上人や地底人が作った生物兵器ではないかと言われているが、言葉を介さぬ彼らには、武器を持って倒す以外、互いを認識する術がない。
――その話にも出てくる全長十メートルをゆうに越える伝説級。それがカイル達の目の前に立ちはだかった。
「こいつはこの人数で戦うレベルの相手じゃない……撤退するぞ!」
「そうだな。幸い、間者は割れた。今回はここまでにしよう。捕虜の子供たちよ、お前らとて死にたくはあるまい。撤退に協力する方が賢明だぞ?」
「う、うるさい、動くな! 間者が割れたってど、どういうこと……!?」
「きゃ……」
ブロウエルの冷静な言葉に、チカがフルーレを盾にしながら問う。しかしその様子に微塵も動揺を見せず、ブロウエルはドラゴンを見据えて口を開く。
「カイル少尉とフルーレ少尉の二人を除いた同期の三人に疑いがかかっていた。それを炙り出すための部隊編成だということだな。そしてオートスが尻尾を出した。それだけの話。オートスから手錠のカギと銃を、ここへ降りるときに受け取ったのだろう?」
「そ、そんな理由で危険な『遺跡』に抜擢されたんですか!?」
「なるほどね。なら、俺とフルーレちゃんの枠は誰でも良かったってことか?」
「……」
カイルの言葉にブロウエルは返事をしなかった。そこまで黙って立っていたドラゴンが咆哮を上げる!
『グォォォォォォ……!』
「ぐ……なんてぇ声だ……いてて……」
「ドグル大尉! チカちゃん、治療をさせてください!」
「で、でも……あ!?」
チカがドラゴンが足元で転がっているオートスの方をチラリと見ると、ちょうど彼にカパリと口を開いたところだった。頭を振っていたオートスがそれに気づき叫ぶ。
「う、うわあああああ!?」
「「兄ちゃん!!」
「間に合うか……!? オートス!」
カイルがどこからかワイヤーの先についた銛のようなものを射出した。それがドラゴンの下あごにヒットする。刺さりはしなかったがドラゴンがオートスに噛みつくのを止めるのを確認すると、
「ワイヤーに掴まれ!」
「わ、わかった!」
オートスがワイヤーを掴んだ瞬間、力いっぱい引き寄せ始める。
ちょうどドラゴンが噛みつこうとしていたがオートスがその場から消えたので、間一髪カイルに救われた形になった。
「す、すげえ……」
「よそ見をすると死ぬぞ」
「え? ……きゃあ!?」
「う、うわっ!?」
オートス救出と同時にブロウエルが動き、呆然としているチカとビットの銃を叩き落としてフルーレを救出。フルーレは即座にドグルの回復をするため駆け出した。
「くっ、悪いなフルーレちゃん。少尉、……なんでこいつを助けた……こいつを囮にして逃げても良かったじゃねぇか!」
「おしゃべりしている暇はなさそうだぜ、大尉! 逃げるぞ!」
カイルがビットを抱え、合図をすると一斉に出口へ向かって走りだした。隣の部屋は天井が低いため、最悪この部屋から出ればドラゴンは追うことができないだろうとの算段だった。
だが――
「ギィェェェッェ!」
「マジか!?」
ドラゴンはばさりと羽を広げて舞い上がり、カイル達の頭上を越えて出口に立ちはだかったのだ。高い天井はドラゴンの為にあえてそうしているのかとカイルは舌打ちをする。
「チッ、伝説通り賢いってか? 面倒なこって」
カイルが悪態をつくと、ドグルがウッドペッカーとイーグルを手に前へ出る。
「こうなったら戦うしかねぇ! たかがでかいトカゲだろ、こいつをくれてやるぜ!」
『グォォォォォ……!』
「よし、効いてるぞ! おら、お前らもやるんだよ!」
「ドグル大尉、無理だ! 今、銃は俺とお前しかもっていない!」
カイルの言う通り、サブマシンガンのレイディバグはオートスが取り落とし、フルーレとオートスのハンドガンはチカとビットがそれぞれブロウエルに弾き飛ばされ転がっている。
「フルーレちゃん、俺のハンドガンを使え! チカとオートスは銃を拾いに戻るんだ!」
「後ろから撃たれるぞ! 俺のホーネットは大佐が使ってくれ!」
「承知した。む……!」
弾丸はドラゴンの皮膚に食い込み、細かな傷を残して血をわずかに出させる。しかし、硬い鱗を貫通するほどの威力は無く、高さもあるため接近が必要だった。
ブロウエルがショットガンであるホーネットを構え、オートス達が走るため踵を返したところでドラゴンの口がぱっくりと開き――
『ゴアォオォォォ!』
口から炎を吐き出した。誰にも直撃はしなかったが周囲が一気に燃え盛る。
「きゃあああ!?」
「わおおん!?」
「くそ……。弾丸が全然効いていないのかよ!? こうなったら――」
「ぬうううう!?」
「おわあああ!?」
「きゃいぃん!?」
カイルが最後まで言い終えることなく、ドラゴンの尻尾で全員が吹き飛ばされた。自動車がぶつかったであろう程の威力がカイル達を襲い、床に倒れこむ一行。
「う、ぐう……」
「か、体がバラバラになったかと思った、ぜ……」
「だ、大丈夫かいみんな! お、大楯がひしゃげてる……くそ、フルーレちゃん! みんなをお願い!」
「ダ、ダムネさん……ダメ、です……」
全身鎧を着ていたダムネだけはすぐに立ち上がり、槍をもってドラゴンに突撃する。時間稼ぎのつもりだが、ドラゴンは獲物が自ら飛び込んできたと舌なめずりをする。
「わああああああ!」
槍を突き立てるが、ドラゴン相手にはこの槍では文字通り歯が立たなかった。直後、ドラゴンが右手の爪をダムネに叩きつける。
「がああああ……!?」
「ち、くしょ……このまま全滅、かよ……食らいやがれ!」
手をダムネに押し付けて踏みつぶそうとするのを見てドグルが寝転がったままウッドペッカーを連射する。しかし、弾を補充していないアサルトライフルはすぐに、カキンカキンと乾いた金属音を鳴らしていた。
「こ、この化け物……!」
「よせ、チカ!」
そこへ銃を拾いなおしたチカがドラゴンへ銃口を向けて叫ぶ。オートスが慌てて止めようとするが弾が発射され、変わらず鱗に弾かれた。
『グォォォォォン!』
「きゃあ……!?」
ダムネにとどめを刺そうとしたドラゴンが邪魔をされたと咆哮を上げ、チカに頭をぐるりと向ける。そして再び口を大きく開けた。
「チ、チカちゃん……!」
起き上がろうとするフルーレ。だが、ドラゴンの喉にチラチラと赤い炎が見え、この距離では間に合わないと、目をつぶる。
「姉ちゃん!?」
ビットが悲痛な叫び声をあげ、もう駄目だと思ったその時――
「シュナイダー!」
「ガォォォォォォン!!!!」
『グギュ!?』
炎を吐く寸前で、シュナイダーがドラゴンの身体を駆け上がり、下から突き上げるように体当たりを仕掛けた。衝撃で上顎と下顎がガチンと噛み合い、発射しようとした炎が口の中で爆発した。
「そのままダムネを回収して戻ってこい! フルーレちゃん、こいつを飲め。痛みが治まる」
「ワォォォォォン!」
「う、ぐ……あ、ありがとうございます……これって即効性の鎮痛薬!? こんなものまで持っていたんですか!?」
フルーレが片膝で立ち上がるのを見て、カイルは微笑んでから言う。
「備えあればって言うだろ? 悪いけど、フルーレちゃんはみんなに回復術を頼む」
「カイルさんはどうするんですか……?」
「あいつを何とかする。それしか方法はなさそうだ」
そう言って、カイルはいつの間にか鎖が外れていた長方形の木箱の蓋を開けた。
敵対存在として最高クラスの強さを誇り、その姿はこの世界に存在するどの生き物とも違うものが多い。
人型をしているもの確認されているが、一般的に伝説級と呼ばれる個体は”魔物”と呼ばれ、『遺跡』や『遺物』と共に出自が謎とされている恐るべき存在。
古くは一つ目の巨人や角の生えた鬼。豚や馬の頭をした人間や液体に意思のあるスライムなどが目撃されているらしい。
天上人や地底人が作った生物兵器ではないかと言われているが、言葉を介さぬ彼らには、武器を持って倒す以外、互いを認識する術がない。
――その話にも出てくる全長十メートルをゆうに越える伝説級。それがカイル達の目の前に立ちはだかった。
「こいつはこの人数で戦うレベルの相手じゃない……撤退するぞ!」
「そうだな。幸い、間者は割れた。今回はここまでにしよう。捕虜の子供たちよ、お前らとて死にたくはあるまい。撤退に協力する方が賢明だぞ?」
「う、うるさい、動くな! 間者が割れたってど、どういうこと……!?」
「きゃ……」
ブロウエルの冷静な言葉に、チカがフルーレを盾にしながら問う。しかしその様子に微塵も動揺を見せず、ブロウエルはドラゴンを見据えて口を開く。
「カイル少尉とフルーレ少尉の二人を除いた同期の三人に疑いがかかっていた。それを炙り出すための部隊編成だということだな。そしてオートスが尻尾を出した。それだけの話。オートスから手錠のカギと銃を、ここへ降りるときに受け取ったのだろう?」
「そ、そんな理由で危険な『遺跡』に抜擢されたんですか!?」
「なるほどね。なら、俺とフルーレちゃんの枠は誰でも良かったってことか?」
「……」
カイルの言葉にブロウエルは返事をしなかった。そこまで黙って立っていたドラゴンが咆哮を上げる!
『グォォォォォォ……!』
「ぐ……なんてぇ声だ……いてて……」
「ドグル大尉! チカちゃん、治療をさせてください!」
「で、でも……あ!?」
チカがドラゴンが足元で転がっているオートスの方をチラリと見ると、ちょうど彼にカパリと口を開いたところだった。頭を振っていたオートスがそれに気づき叫ぶ。
「う、うわあああああ!?」
「「兄ちゃん!!」
「間に合うか……!? オートス!」
カイルがどこからかワイヤーの先についた銛のようなものを射出した。それがドラゴンの下あごにヒットする。刺さりはしなかったがドラゴンがオートスに噛みつくのを止めるのを確認すると、
「ワイヤーに掴まれ!」
「わ、わかった!」
オートスがワイヤーを掴んだ瞬間、力いっぱい引き寄せ始める。
ちょうどドラゴンが噛みつこうとしていたがオートスがその場から消えたので、間一髪カイルに救われた形になった。
「す、すげえ……」
「よそ見をすると死ぬぞ」
「え? ……きゃあ!?」
「う、うわっ!?」
オートス救出と同時にブロウエルが動き、呆然としているチカとビットの銃を叩き落としてフルーレを救出。フルーレは即座にドグルの回復をするため駆け出した。
「くっ、悪いなフルーレちゃん。少尉、……なんでこいつを助けた……こいつを囮にして逃げても良かったじゃねぇか!」
「おしゃべりしている暇はなさそうだぜ、大尉! 逃げるぞ!」
カイルがビットを抱え、合図をすると一斉に出口へ向かって走りだした。隣の部屋は天井が低いため、最悪この部屋から出ればドラゴンは追うことができないだろうとの算段だった。
だが――
「ギィェェェッェ!」
「マジか!?」
ドラゴンはばさりと羽を広げて舞い上がり、カイル達の頭上を越えて出口に立ちはだかったのだ。高い天井はドラゴンの為にあえてそうしているのかとカイルは舌打ちをする。
「チッ、伝説通り賢いってか? 面倒なこって」
カイルが悪態をつくと、ドグルがウッドペッカーとイーグルを手に前へ出る。
「こうなったら戦うしかねぇ! たかがでかいトカゲだろ、こいつをくれてやるぜ!」
『グォォォォォ……!』
「よし、効いてるぞ! おら、お前らもやるんだよ!」
「ドグル大尉、無理だ! 今、銃は俺とお前しかもっていない!」
カイルの言う通り、サブマシンガンのレイディバグはオートスが取り落とし、フルーレとオートスのハンドガンはチカとビットがそれぞれブロウエルに弾き飛ばされ転がっている。
「フルーレちゃん、俺のハンドガンを使え! チカとオートスは銃を拾いに戻るんだ!」
「後ろから撃たれるぞ! 俺のホーネットは大佐が使ってくれ!」
「承知した。む……!」
弾丸はドラゴンの皮膚に食い込み、細かな傷を残して血をわずかに出させる。しかし、硬い鱗を貫通するほどの威力は無く、高さもあるため接近が必要だった。
ブロウエルがショットガンであるホーネットを構え、オートス達が走るため踵を返したところでドラゴンの口がぱっくりと開き――
『ゴアォオォォォ!』
口から炎を吐き出した。誰にも直撃はしなかったが周囲が一気に燃え盛る。
「きゃあああ!?」
「わおおん!?」
「くそ……。弾丸が全然効いていないのかよ!? こうなったら――」
「ぬうううう!?」
「おわあああ!?」
「きゃいぃん!?」
カイルが最後まで言い終えることなく、ドラゴンの尻尾で全員が吹き飛ばされた。自動車がぶつかったであろう程の威力がカイル達を襲い、床に倒れこむ一行。
「う、ぐう……」
「か、体がバラバラになったかと思った、ぜ……」
「だ、大丈夫かいみんな! お、大楯がひしゃげてる……くそ、フルーレちゃん! みんなをお願い!」
「ダ、ダムネさん……ダメ、です……」
全身鎧を着ていたダムネだけはすぐに立ち上がり、槍をもってドラゴンに突撃する。時間稼ぎのつもりだが、ドラゴンは獲物が自ら飛び込んできたと舌なめずりをする。
「わああああああ!」
槍を突き立てるが、ドラゴン相手にはこの槍では文字通り歯が立たなかった。直後、ドラゴンが右手の爪をダムネに叩きつける。
「がああああ……!?」
「ち、くしょ……このまま全滅、かよ……食らいやがれ!」
手をダムネに押し付けて踏みつぶそうとするのを見てドグルが寝転がったままウッドペッカーを連射する。しかし、弾を補充していないアサルトライフルはすぐに、カキンカキンと乾いた金属音を鳴らしていた。
「こ、この化け物……!」
「よせ、チカ!」
そこへ銃を拾いなおしたチカがドラゴンへ銃口を向けて叫ぶ。オートスが慌てて止めようとするが弾が発射され、変わらず鱗に弾かれた。
『グォォォォォン!』
「きゃあ……!?」
ダムネにとどめを刺そうとしたドラゴンが邪魔をされたと咆哮を上げ、チカに頭をぐるりと向ける。そして再び口を大きく開けた。
「チ、チカちゃん……!」
起き上がろうとするフルーレ。だが、ドラゴンの喉にチラチラと赤い炎が見え、この距離では間に合わないと、目をつぶる。
「姉ちゃん!?」
ビットが悲痛な叫び声をあげ、もう駄目だと思ったその時――
「シュナイダー!」
「ガォォォォォォン!!!!」
『グギュ!?』
炎を吐く寸前で、シュナイダーがドラゴンの身体を駆け上がり、下から突き上げるように体当たりを仕掛けた。衝撃で上顎と下顎がガチンと噛み合い、発射しようとした炎が口の中で爆発した。
「そのままダムネを回収して戻ってこい! フルーレちゃん、こいつを飲め。痛みが治まる」
「ワォォォォォン!」
「う、ぐ……あ、ありがとうございます……これって即効性の鎮痛薬!? こんなものまで持っていたんですか!?」
フルーレが片膝で立ち上がるのを見て、カイルは微笑んでから言う。
「備えあればって言うだろ? 悪いけど、フルーレちゃんはみんなに回復術を頼む」
「カイルさんはどうするんですか……?」
「あいつを何とかする。それしか方法はなさそうだ」
そう言って、カイルはいつの間にか鎖が外れていた長方形の木箱の蓋を開けた。