「……どうだ?」
オートスが緊張した口調で作業中のカイルへ声をかけてくる。その瞬間、カチャリと神殿らしき建物の扉が開く音が聞こえた。それを見たドグルがヒューと口笛を拭いた後に口を開く。
「おいおい、少尉はトレージャーハンターか? そんな技術があったら兵士なんてやらなくて良さそうじゃねぇか」
「はは、まったくだ。俺もそう思うよ。さて、突入しますか隊長? ……って、隊長も新しい武器を支給されていたんですか?」
カイルがドグルに肩を竦めて返しながらオートスを見るといつの間にかドグルとはまた違う銃を手にしていた。ハンドガンの”イーグル”よりも大きく、アサルトライフルの”ウッドペッカー”よりも小さい。それを見てフルーレが口に指を当てて言う。
「ドグル大尉のものに少し似ていますね? バウムクーヘンがちょっと小さいですけど……」
「だからバウムクーヘンじゃねぇって……マガジンだ……」
ドグルが疲れたように呟くが、オートスは気にせず扉をギィっと開きながらフルーレを見ずに答えた。
「……”EW-284 レイディバグ”という名前で、サブマシンガンという武器だそうだ。来る前に一度試射したが、取り回しが良く連射ができた。この先が本命ならこれくらいは必要だろう?」
「そ、そうですね。あ、僕が前に出ますよ隊長」
「任せよう。俺の横にドグル大尉。後ろはカイル少尉とブロウエル大佐にお願いしたい。フルーレ少尉はしんがりを頼む」
「大佐がしんがりでいいんじゃないか? ……ですか?」
カイルはバツが悪そうに言い直すが、珍しく口の利き方がというようなことは言わず、自身の考えを口にした。極めて、冷静に。
「ここまで何も出なかったのだ、背後から魔獣が来る可能性はかなり低いと見ていい。それよりも戦力を正面に集中した方が何かあった時に突破しやすいだろう。異論はあるか? それとお前のペットも横に連れておいてくれ」
「……いえ。シュナイダー、こっちへ来い」
「わふ」
確かに、とカイルは後ろを一瞬振り返ってから返事をし、シュナイダーを足元に引き寄せた。オートスは無言で頷くとダムネに中へ入るよう合図をする。
神殿内の天井は先ほどの場所とそれほど変わらずやや低い程度だった。しかしそれよりも一行が気になったのは、明かりが無くても見える内部と青白く光る壁だった。
不思議な空間だと思いながらカイルが壁を見ていると、ブロウエルが目を細めて口を開く。
「……ひんやりしているな」
「大佐、寒いはずですよ。ここの壁、全部氷ですよ」
「氷!? これが……全部……!?」
フルーレが驚くと、カイルが近くの壁を撫でて続ける。
「ああ。光っているのは苔の一種が光を出しているようだ。さて、どうやらゴールみたいだな」
「え? ああ……!」
通路には何も出ず、カイル達は一際大きな部屋に出た。山の頂上まであるのではと思うほど天井は見えず、柱もないぽっかりと空洞のような場所……だと思っていたが、部屋の一番奥に祭壇のようなものが見えた。
「あれはなんでしょう……? 祭壇にしてはここは何もなさすぎます……」
「お、見ろ、台座の上に何かあるぞ?」
「あ、あれが『遺跡』にあると言われている『遺物』……?」
ドグルとダムネの声色が明るいものになっていた。
これで面倒で危険な『遺跡』調査は終わりなのだからとふたりは肩をたたき合っていた。そこでオートスがひとり、台座へと近づいていく。
「隊長、ひとりじゃ危ないですよ? ドグル大尉、ダムネ中尉、それと大佐。俺達も――」
と、カイルが口を開いたところでオートスが目線だけカイルの方へ向けると、パチンと指を鳴らす。直後、最後尾を歩いていたフルーレの悲鳴が聞こえ、全員がそちらへと振り向く。
するとそこには――
「……動かないで。少しでも動いたらこの女の頭は吹き飛ぶわ……」
「兄ちゃんたち、武器を捨ててくれないかな?」
「あ、あなた達……どうして手錠が外れているの……!?」
「喋らないで」
チカとビットが拘束から逃れ、チカがフルーレの側頭部に銃を押し当てていた。直後、ビットがフルーレの剣を遠くに蹴り飛ばし、銃をホルスターから抜く。
その様子を見ながら、カイルはチカの持っている銃を見て目を細めていた。
「その銃……隊長のものだな? 隊長もウィスティリア国のスパイだったってわけか? みんな武器を地面に置こう。フルーレちゃんを見殺しにするわけにはいかない」
「カイル少尉の言う通りだ。今は奴に話を聞くべきだろう」
ブロウエルはあっさりとマチェットを捨ててそう言い放つ。余裕があるその言葉にドグルが舌打ちをしながら――
「おいおい、大佐が見ている前で手柄の横取りとは恐れ入るなあオートス! てめぇどういうつもりだ、ああ!? うお!?」
ウッドペッカーをオートスに向けて発砲しようとしたが、その前にチュイン! という音がしてドグルの右手から鮮血がほとばしる。そしてカラカラと乾いた音を立ててウッドペッカーが床に転がっていく。
「いってぇ……指は……繋がってるか……!」
脂汗を流して蹲るドグル。そしてオートスはサブマシンガン、レイディバグの銃口をこちらに向けながらしゃべり始める。
「……武器を捨てろ。……そうだ、それでいい。後は俺の……俺達の邪魔をしないでくれればそれでいい。もっとも、下手な動きを見せれば最初に死ぬのはフルーレ少尉だが」
「オ、オートス! 一体どういうことなんだい! 僕達は同期、スパイなんかじゃないよね!?」
「ダムネ、味方を騙すには年を経ることも必要なのだ。これは……!」
オートスは台座の上にあった置物を見ると感嘆の声をあげた。それを手にしようとしたところでカイルが叫ぶ。
「オートス! むやみに触るな! 『遺物』は慎重に調査しなければとんでもない目に合う。だからそいつに触るんじゃない。それより、なぜここで行動を起こした? 調査して持って出れば持ち去るチャンスはいくらでも……」
カイルはどうにか巻き返せないか思案する時間を稼ぐため、オートスに質問を投げかけた。しかし、彼は聞く耳を持たんといった様子で台座の上にあった置物を持ち上げた。
「それを副隊長に言う必要はない。……やったぞ、これで『遺物』を持ちかえれば俺達はじ――」
ゴゴゴゴゴゴ……
「な、なんだ!?」
オートスが置物を持ち上げた瞬間、地面が大きく揺れ始める。直後、台座が真っ二つに割れ、オートスはその場に尻もちをついた。そして割れた台座の下から何かがせりあがってきたのだ。
「ガラスの……棺……?」
オートスが呟くと、チャリィィィンという音ともに置物が粉々に砕け散る。
「あ、ああ!? 『遺物』が……!?」
「……!? 隊長、そこから離れろ!」
砕けた破片を集めている必死で集めるオートスの近くに、ふっと巨大な魔法陣のようなものが現れカイルは叫ぶ。
その瞬間、魔法陣から光の柱が放たれる。
そこに現れたのは――
「な、なんだ……ありゃあ……!?」
「羽のあるトカゲです……!?」
驚くドグルとフルーレに、カイルが冷や汗をかきながら片目を細めて呟いた。
「あれは……ドラゴンだ……クラスは伝説級……最古に存在したと言われる、最悪のバケモンだ……!」