「ダムネ大尉! 正面は任せる! うぉぉぉりゃぁぁぁ! 行けぇ!」
「は、はい! おおおおおおおおお!」
「ギャギャ!」
カイルが持参したハンマー”EW-018 グリズリー”で壁を破壊すると、奥にいた魔獣が一斉に襲い掛かってきた。
カイルはダムネに合図し、彼は槍と大楯を構えて最初に突撃してきた猿型の魔獣三体を弾き飛ばす。しかし、足元からネズミ魔獣が抜けてドグルの足へ噛みつこうと迫っていた。
「おらぁ! ぶっとべや」
「ヂュゥゥゥ!?」
「チュチュウウ!!」
「チッ、あっちいけってんだ」
数匹のネズミを蹴り飛ばすと、オートスが目ざとくハンドガンを連射して絶命させる。
ダムネが猿魔獣を”ギィアリッグ”の槍で貫くのが見え、残り二匹が大楯に挟まれた体を抜けさせようともがいていたそれをやはりオートスの抜いたサーベルが脳天を貫いた。
「数が多い、囲まれないよう注意して動け。フルーレ少尉は捕虜のカバーを頼む」
「は、はい! はああ!」
「あおおおおおん!」
天井から這ってきた巨大ムカデをフルーレが長剣”グラスランド”で真っ二つにした後、シュナイダーが頭を潰す。
「シュナイダー、フルーレちゃんたちを頼むぞ! うおっと!?」
「がう!」
「そら!」
蛇型魔獣がいつの間にかカイルに迫ってきた。
首筋に噛みつこうとしたのを間一髪避けながら”プレイン”というダガーを投げつけて胴体を壁と固定した後、ハンドガンで撃ちぬいた。
「シャアア……」
「たああああ!」
「キィィィ……!?」
そして最後に残っていた猿型魔獣をダムネが槍で貫ぬいて絶命させた。攻撃が止みその場に静寂が戻る。しばらく警戒を解かず息を潜めていたがここは倒し切ったのだと思い胸を撫でおろす。
「ふう……さ、猿型は中級でしたっけ……? いきなり魔獣のランクが上がりましたね」
「ああ。この淀んだ空気、こっちの道が本命で間違いなさそうだな」
「フッ、ようやく『遺跡』も本番か、どんなものが眠っているのか……楽しみだ」
「珍しく笑ってんなオートス隊長?」
「そうか? 俺は感情がある方だと思ってるんだがな」
「(そういや広場で出世がどうとか言ってたっけか?)……! ビット、避けろ!」
「え? あつっ……!?」
カイルはそんなことを思い出しながら銃をしまうと、その瞬間倒したはずの蛇型魔獣がガクガクと動き、ビットの足に噛みついた。
「ビット!?」
「ガウッ!」
「フシュウゥゥ……」
シュナイダーの強烈な一撃で、ビチャっと地面に叩きつけられた蛇魔獣は今度こそ絶命した。足を抑えてうずくまるビットが苦しみの声をあげる。
「うぐ……足が……熱い……!」
「大変!? きっと毒ですね、回復術を使います!」
「許可する。任せるぞ、少尉」
「はい! 【メディカル】……!」
パァっと、フルーレの手が光り、その光を傷口にそっと当てると、紫色に変色していたビットの足が徐々に元の色を取り戻していく。
「続けて傷を……【ヒール】」
「おお、回復術ってすげぇな……こんなにすぐ治るもんなのか……」
ドグルが感嘆のため息を吐いていると、カイルが渋い顔で口を開く。手には飲み物を持って。
「魔力の消費が激しいから連発はできないし、使いすぎると気絶するんだ。はい、フルーレちゃん、水だ」
「あ、はい。ふう……ありがとうございます!」
「まだ大丈夫そうだな。……!」
それでも魔法を使った反動で少し疲労感があるか、とカイルが考えていると、暗闇に嫌な気配を感じた。
ノータイムで銃を抜くとハンドライトの光が届かない通路へ向けて発砲する。
その行動にぎょっとして通路の向こうに全員が目を向けると、どちゃっという音と共に猿魔獣が倒れた。
「もう次かよ! どうすんだ隊長」
「このまま突っ切る。部屋があればそこをしらみつぶしだ。いいな」
「マジかよ!?」
「進むなら隊長のアイデアがいい。シュナイダー、箱は俺が持つ。お前はビットを乗せてくれ」
「わふん!」
「そ、それを担いでいくんですか!?」
カイルの身長よりも高い箱を背負い歩き出す。リュックと違い片手が塞がるため戦闘ができないのではとフルーレが心配する。
「隊長、申し訳ないですが俺は少し下がります。このふたりを連れて行くといったのは隊長だ、異論はないですよね?」
「……いいだろう。俺がその分戦うとしよう。ダムネを軸にする戦法は変えないでいくぞ。大佐に魔獣が飛び掛かってきた場合は対処をお願いします」
「ありがとうございます。大佐、歳なんだから無理しないでくださいよ? ……いてっ!?」
「余計なお世話だな、少尉。立ち止まっていると的になる。動くぞ」
カイルに拳骨をプレゼントした後、ブロウエルは両手に”ハイランド”という名のマチェットを持って軽く振ると、風切り音が聞こえてきた。
「ヒュウ……」
「た、大佐の心配はしなくてよさそうですね……」
「行くぞ」
オートスが合図をすると、進軍が始まる。魔獣の猛攻はとどまるところを知らず、加えて壁から突き出す針や落とし穴の先に酸のプールといったトラップも増えてきた。
「右だフルーレちゃん。ダムネ中尉、足元にも気を付けてくれ」
「は、はい!」
「うわ!? いつのまに……!」
カイルも後方からハンドガンで足止めをしつつチカとビットのふたりをカバーしながら部屋を開け、階段を下りていく。
――時間の間隔が分からなくなるほどの戦闘を繰り返し前進を続けていく。もう地下七階は降りただろうか。日付が変わるころ、ようやく一匹も姿を見せなくなったことで休憩を挟み、弾丸のリロードと食事を取る一行。
「はあ……ようやく落ち着いたか? こりゃ確かにとんでもねぇ……まだ二日……死人が出るのも頷けるぜ……」
弾丸が減り、軽くなっていくカバンに不安を覚え始めるドグル。彼を見ながらヘルメットを脱いで汗を拭いていたダムネがオートスへ提案を口にする。
「た、隊長。一度引き返しませんか? 一気に駆け下りてきましたけど、余分な食料消費と魔獣の数が想定外と感じます。ドグル大尉の弾丸も心もとなくなっていますし……」
「だな。引き返すなら今だろ? 行きは遠く感じるが帰りは早いってな。二日でここまでくりゃ十分だろ?」
「そ、そうですね! 体を拭きたいですし……」
もじもじとフルーレが場の雰囲気を和ませるためにそう口にすると、オートスは自分のカバンに入っていた弾丸をドグルに渡す。
「俺のを使え。俺は剣でも戦えるホーネットの弾も少しだが余分に持ってきた」
「……おいおい、まじかよ……俺達が折角戻りやすい状況にしたってのにお前はまだ進む気か……! そんなに出世したいのかよてめぇ!」
「口の利き方に気をつけろドグル。俺は少佐でお前は大尉だ。それに隊長は俺。指針には従ってもらう」
「こいつ……! 副隊長、大佐、何とかならねぇのか?」
ドグルが懇願するようにカイル達を見るが、大佐は言い放つ。
「戻るのは構わん。隊長の言うことは基本的に聞くことになるが、どうしてもというなら部隊を離れ、代わりに誰かをここへ寄こしてくれれば問題ない。手柄は無いが生き残れる」
「ぐ……ふ、副隊長はどうなんだよ……」
ここまで来て手柄なし、というのは痛い
そう人間らしい思考をしたドグルがカイルへ尋ねると、カイルはリュックをごそごそしながら返事をした。
「……もう少し持つか。魔獣除けの筒はそろそろ尽きるから、これが無くなったら戻る。それでいいですか隊長? ひとりじゃ深部までいけないでしょうし、ここは仲間のことも考えてほしいですね」
「……よかろう」
先に進むことを肯定され、正論を言われれば頷くしかない。ドグルはやり取りを見て嘆息し、銃の手入れを始めた。
オートスは無言でレーションを食べ、ダムネはオートスとドグルを見ておろおろする。フルーレも困惑気味にシュナイダーへ餌を与えようとしたところでカイルに止められた。
「シュナイダーは何日か食べなくても大丈夫だから餌はあげなくていいからね」
「あ、そうなんですか?」
「おん!」
「ふふ、ごめんね? じゃあこれは取っておきましょう……きゃあ!?」
フルーレが休憩のため壁に背を預けた瞬間、壁が崩れてフルーレがぽっかり空いた口へと消えた。
「フルーレちゃん!? ……滑り台か……! くそ、なんてタイミングだよ! 隊長、離れ離れになるのはまずい、何があるかわからないけど、ついてきてくれ」
穴を見ながらカイルが焦る。喋りながら指示を待たずにすぐ木箱を穴へ突っ込み、自身も穴の中へ入っていった。
「わん!」
「あ、シュナイダー!」
「ダムネとドグルは先に行ってくれ、大佐もお願いします。捕虜ふたりは俺が責任もって連れて行きますので」
「承知した」
「遅れんなよ!」
「せ、狭いなあ……」
三人が降りていくと、オートスは冷ややかな目をチカとビットに向け、手を伸ばした――
「は、はい! おおおおおおおおお!」
「ギャギャ!」
カイルが持参したハンマー”EW-018 グリズリー”で壁を破壊すると、奥にいた魔獣が一斉に襲い掛かってきた。
カイルはダムネに合図し、彼は槍と大楯を構えて最初に突撃してきた猿型の魔獣三体を弾き飛ばす。しかし、足元からネズミ魔獣が抜けてドグルの足へ噛みつこうと迫っていた。
「おらぁ! ぶっとべや」
「ヂュゥゥゥ!?」
「チュチュウウ!!」
「チッ、あっちいけってんだ」
数匹のネズミを蹴り飛ばすと、オートスが目ざとくハンドガンを連射して絶命させる。
ダムネが猿魔獣を”ギィアリッグ”の槍で貫くのが見え、残り二匹が大楯に挟まれた体を抜けさせようともがいていたそれをやはりオートスの抜いたサーベルが脳天を貫いた。
「数が多い、囲まれないよう注意して動け。フルーレ少尉は捕虜のカバーを頼む」
「は、はい! はああ!」
「あおおおおおん!」
天井から這ってきた巨大ムカデをフルーレが長剣”グラスランド”で真っ二つにした後、シュナイダーが頭を潰す。
「シュナイダー、フルーレちゃんたちを頼むぞ! うおっと!?」
「がう!」
「そら!」
蛇型魔獣がいつの間にかカイルに迫ってきた。
首筋に噛みつこうとしたのを間一髪避けながら”プレイン”というダガーを投げつけて胴体を壁と固定した後、ハンドガンで撃ちぬいた。
「シャアア……」
「たああああ!」
「キィィィ……!?」
そして最後に残っていた猿型魔獣をダムネが槍で貫ぬいて絶命させた。攻撃が止みその場に静寂が戻る。しばらく警戒を解かず息を潜めていたがここは倒し切ったのだと思い胸を撫でおろす。
「ふう……さ、猿型は中級でしたっけ……? いきなり魔獣のランクが上がりましたね」
「ああ。この淀んだ空気、こっちの道が本命で間違いなさそうだな」
「フッ、ようやく『遺跡』も本番か、どんなものが眠っているのか……楽しみだ」
「珍しく笑ってんなオートス隊長?」
「そうか? 俺は感情がある方だと思ってるんだがな」
「(そういや広場で出世がどうとか言ってたっけか?)……! ビット、避けろ!」
「え? あつっ……!?」
カイルはそんなことを思い出しながら銃をしまうと、その瞬間倒したはずの蛇型魔獣がガクガクと動き、ビットの足に噛みついた。
「ビット!?」
「ガウッ!」
「フシュウゥゥ……」
シュナイダーの強烈な一撃で、ビチャっと地面に叩きつけられた蛇魔獣は今度こそ絶命した。足を抑えてうずくまるビットが苦しみの声をあげる。
「うぐ……足が……熱い……!」
「大変!? きっと毒ですね、回復術を使います!」
「許可する。任せるぞ、少尉」
「はい! 【メディカル】……!」
パァっと、フルーレの手が光り、その光を傷口にそっと当てると、紫色に変色していたビットの足が徐々に元の色を取り戻していく。
「続けて傷を……【ヒール】」
「おお、回復術ってすげぇな……こんなにすぐ治るもんなのか……」
ドグルが感嘆のため息を吐いていると、カイルが渋い顔で口を開く。手には飲み物を持って。
「魔力の消費が激しいから連発はできないし、使いすぎると気絶するんだ。はい、フルーレちゃん、水だ」
「あ、はい。ふう……ありがとうございます!」
「まだ大丈夫そうだな。……!」
それでも魔法を使った反動で少し疲労感があるか、とカイルが考えていると、暗闇に嫌な気配を感じた。
ノータイムで銃を抜くとハンドライトの光が届かない通路へ向けて発砲する。
その行動にぎょっとして通路の向こうに全員が目を向けると、どちゃっという音と共に猿魔獣が倒れた。
「もう次かよ! どうすんだ隊長」
「このまま突っ切る。部屋があればそこをしらみつぶしだ。いいな」
「マジかよ!?」
「進むなら隊長のアイデアがいい。シュナイダー、箱は俺が持つ。お前はビットを乗せてくれ」
「わふん!」
「そ、それを担いでいくんですか!?」
カイルの身長よりも高い箱を背負い歩き出す。リュックと違い片手が塞がるため戦闘ができないのではとフルーレが心配する。
「隊長、申し訳ないですが俺は少し下がります。このふたりを連れて行くといったのは隊長だ、異論はないですよね?」
「……いいだろう。俺がその分戦うとしよう。ダムネを軸にする戦法は変えないでいくぞ。大佐に魔獣が飛び掛かってきた場合は対処をお願いします」
「ありがとうございます。大佐、歳なんだから無理しないでくださいよ? ……いてっ!?」
「余計なお世話だな、少尉。立ち止まっていると的になる。動くぞ」
カイルに拳骨をプレゼントした後、ブロウエルは両手に”ハイランド”という名のマチェットを持って軽く振ると、風切り音が聞こえてきた。
「ヒュウ……」
「た、大佐の心配はしなくてよさそうですね……」
「行くぞ」
オートスが合図をすると、進軍が始まる。魔獣の猛攻はとどまるところを知らず、加えて壁から突き出す針や落とし穴の先に酸のプールといったトラップも増えてきた。
「右だフルーレちゃん。ダムネ中尉、足元にも気を付けてくれ」
「は、はい!」
「うわ!? いつのまに……!」
カイルも後方からハンドガンで足止めをしつつチカとビットのふたりをカバーしながら部屋を開け、階段を下りていく。
――時間の間隔が分からなくなるほどの戦闘を繰り返し前進を続けていく。もう地下七階は降りただろうか。日付が変わるころ、ようやく一匹も姿を見せなくなったことで休憩を挟み、弾丸のリロードと食事を取る一行。
「はあ……ようやく落ち着いたか? こりゃ確かにとんでもねぇ……まだ二日……死人が出るのも頷けるぜ……」
弾丸が減り、軽くなっていくカバンに不安を覚え始めるドグル。彼を見ながらヘルメットを脱いで汗を拭いていたダムネがオートスへ提案を口にする。
「た、隊長。一度引き返しませんか? 一気に駆け下りてきましたけど、余分な食料消費と魔獣の数が想定外と感じます。ドグル大尉の弾丸も心もとなくなっていますし……」
「だな。引き返すなら今だろ? 行きは遠く感じるが帰りは早いってな。二日でここまでくりゃ十分だろ?」
「そ、そうですね! 体を拭きたいですし……」
もじもじとフルーレが場の雰囲気を和ませるためにそう口にすると、オートスは自分のカバンに入っていた弾丸をドグルに渡す。
「俺のを使え。俺は剣でも戦えるホーネットの弾も少しだが余分に持ってきた」
「……おいおい、まじかよ……俺達が折角戻りやすい状況にしたってのにお前はまだ進む気か……! そんなに出世したいのかよてめぇ!」
「口の利き方に気をつけろドグル。俺は少佐でお前は大尉だ。それに隊長は俺。指針には従ってもらう」
「こいつ……! 副隊長、大佐、何とかならねぇのか?」
ドグルが懇願するようにカイル達を見るが、大佐は言い放つ。
「戻るのは構わん。隊長の言うことは基本的に聞くことになるが、どうしてもというなら部隊を離れ、代わりに誰かをここへ寄こしてくれれば問題ない。手柄は無いが生き残れる」
「ぐ……ふ、副隊長はどうなんだよ……」
ここまで来て手柄なし、というのは痛い
そう人間らしい思考をしたドグルがカイルへ尋ねると、カイルはリュックをごそごそしながら返事をした。
「……もう少し持つか。魔獣除けの筒はそろそろ尽きるから、これが無くなったら戻る。それでいいですか隊長? ひとりじゃ深部までいけないでしょうし、ここは仲間のことも考えてほしいですね」
「……よかろう」
先に進むことを肯定され、正論を言われれば頷くしかない。ドグルはやり取りを見て嘆息し、銃の手入れを始めた。
オートスは無言でレーションを食べ、ダムネはオートスとドグルを見ておろおろする。フルーレも困惑気味にシュナイダーへ餌を与えようとしたところでカイルに止められた。
「シュナイダーは何日か食べなくても大丈夫だから餌はあげなくていいからね」
「あ、そうなんですか?」
「おん!」
「ふふ、ごめんね? じゃあこれは取っておきましょう……きゃあ!?」
フルーレが休憩のため壁に背を預けた瞬間、壁が崩れてフルーレがぽっかり空いた口へと消えた。
「フルーレちゃん!? ……滑り台か……! くそ、なんてタイミングだよ! 隊長、離れ離れになるのはまずい、何があるかわからないけど、ついてきてくれ」
穴を見ながらカイルが焦る。喋りながら指示を待たずにすぐ木箱を穴へ突っ込み、自身も穴の中へ入っていった。
「わん!」
「あ、シュナイダー!」
「ダムネとドグルは先に行ってくれ、大佐もお願いします。捕虜ふたりは俺が責任もって連れて行きますので」
「承知した」
「遅れんなよ!」
「せ、狭いなあ……」
三人が降りていくと、オートスは冷ややかな目をチカとビットに向け、手を伸ばした――