「これがこうなっている……なるほど、渦巻き状に――」

「あれは大丈夫なのか……?」
「あはは、バスレイちゃんはハンバーグにご執心になっちゃったからねえ」

 ミキサーミルを真剣に見ているバスレイはハンバーグをすでに三枚ほど平らげていて、これを生み出したものを量産して広めるなどと意味不明な供述をしていたそうだ。

「わ、柔らかい……! お義母さん、私にもこれを教えてください!」
「ふふ、玖虎の奥さんになる人には好物も含めて全部教えないとね!」
「ぶっ!? ま、まさか聞いていたのか……!?」
「ああ、言わない方が良かったかしら? ま、そういうことよ」

 母ちゃんがそういってウインクをし、俺とサリアは顔を見合わせてから赤くなる。
 そこで庭のテーブルで上品にハンバーグを切り分けているソリッド様が栗を開く。

「うむ。ゴルフにハンバーグ、その他色々ヒサトラ君には世話になっているからな。豪勢にやらせてもらいたいのだが?」
「ど、どこで聞いていたんだ……気配なんて無かったのに……」

 
 恐ろしいことに騎士達も生暖かい目をこちらに向けてきているので恐らくさっきの告白は全て知られていると思っていいだろう。迂闊な真似は……とも思うが、別に隠す必要もないしなと思い直す。

「みんなありがとう。俺はすぐにとは言わないけど、サリアと結婚したいと思ってる。その時は色々と教えてくれると嬉しい……です」
「もちろんよ!」

 力強い母ちゃんの言葉で俺も頬が緩む。
 こっちに呼んだことは後悔していて居ないけど、母ちゃんなりに考えもあったかもしれない。だけど、この世界に馴染みつつあるあたり、良かったと思っていたりする。

 アニメや小説のように冒険とか魔物を倒すとかそういうことは母ちゃんが来たことでもうない……はずだ。
 後はこの世界でしっかり生活基盤を作っていくことで平和に暮らせるだろう。

「ヒサトラさん、冷めないうちに食べましょ!」
「ああ、いま行くよ」

 そして――

 ◆ ◇ ◆

「そんじゃ行ってくるよ」
「うん! 気を付けてね、これお弁当。アロンちゃんとダイト、ポンチョの分もあるからね」
<ボク、サリアお姉ちゃんのご飯好きー!>
<あ”ー♪>
「プロフィア達は留守番頼むぞ」
<アイ! サリア様とリュウノスケ様は我々が守ります!>
「あーうー」
<あ、いけません坊ちゃん、我々は食べるものではありませんよ!?」
「ははは、大変だろうけど任せたぜ! んじゃ、行くか!」
<うむ。助手席は任せろ>

 ――母ちゃんがこの世界に来てから早3年が経過。

 ハンバーグのお祝いから半年後に冒険者達に払った資金をまた貯め直して、半年後にサリアと結婚。
 その後はすぐに子宝にも恵まれて今は男の子が一人誕生した。
 俺が感動するよりも早く母ちゃんが泣いてしまったのが意外と感慨深い。
 
 そして見ての通りアロンとスライム達が割とハッキリ喋るようになった。ポンチョは相変わらずだが、意思疎通は表情でできるので特に困ったことはない。

 が、リュウノスケが生まれて防衛のためなのか自ら種をまいてミニポンチョを増産していたりする。
 
<あ”ー!>
<あ”あ”ー!!>

 ミニポンチョは全部で5体。
 それが自ら生み出した木製のバットを振るうのでその辺の盗賊や魔物ではまるで相手にならない。

 で、その盗賊と魔物の心配を何故するのかというと、俺は王都に家を構えていたわけだが、実はこの二年で大幅に変更された。
 元々、城壁の近くの隅に倉庫などが建てられていた家では所帯が多くなりすぎてしまい改造を余儀なくされ、城の外に俺達専用の区画が作られることになったわけだ。

<お、行くのか?>
<ああ、留守は頼むぞタロン>
<わしに勝てるやつ等そうはおらんさ、名前をもらった我々にはのう>

 そう言ってニヤリと笑うシルバードラゴンのタロン。その専用区画には俺の店『ベヒーモス運送』の店舗と倉庫、それとドラゴン達が過ごせる巨大な要塞みたいな場所がある。
 そこにドラゴンやベヒーモス親子などが寝泊り出来る場所を作り、卵を守るためにこっちへ置いていた三頭はそのまま居着いてしまったので、名前をつけてってわけだ。

<ぴぃー!>
「おう、カルム。見送ってくれんのか?」
<ぴぃぴぃ♪>
<カルムはヒサトラ兄ちゃんが好きだよねー>
「お前もそうだろアロン」
<まあね!>

 アロンが子ドラゴンのカルムへそんなことを言うが、わんわん言って俺の足に抱き着いてきていたのが懐かしいよ。角も少しずつ立派になってきたアロンの頭を撫でてからトラックへ乗り込む。
 100年くらいは喋らないだろうと言われていたアロンもたった三年で喋れるようになり、ウチの子を背中に乗せて散歩をしてくれる。
 ……多分、俺という存在が特異点なのだろうとダイトは言う。

 遠巻きにはタロンの息子であるストリームと嫁ドラゴンのサクラがソリッド様や騎士、荷物を持って飛んでいくのが見える。
 運送屋……ではなく、ゴルフ場までの移動手段として賃金を得ていたりする。
 まあ、ソリッド様はお金払いがいいし、各国の要人のゴルフ呼び込みの移動手段として重宝されているのだ。
 ドラゴンに手を出すやつはそうそういないからな……。

「おー! ヒサトラ君は仕事か? 今度の休みは私と回らないか?」
「はは、リュウノスケと遊んでやりたいですから、また今度!」

 飛び立つソリッド様にトラックから手を振り、そう告げるとにこやかに笑いながら高く飛んでいく。
 あれならあっという間にゴルフ場だろう。今日はどこの国の王族と回るのやら。

 俺も行くかとアクセルを踏もうとしたところで身重のサリアが近づいて来た。

「たまにはいいんじゃない? 私はお腹が大きくなってきたけどお義母さんも居るしね」
「ま、考えておくよ。母ちゃんが一番心配……いてえ!?」
「なによ玖虎。あたしが心配って! 運送はアロンとダイト、それにポンチョが手伝ってくれるからいいけど、サリアちゃんは二人目の出産を控えているんだからついてないとね!」
「分かってるよ、んじゃ今度こそ行ってくるぜ!」
「「いってらっしゃい!!」」


 自宅ある道具や積み荷にあった日本の道具はバスレイが頑張って再現していて、そろそろモーターみたいな魔道具は出来そうだと試作品を持ってきたのが最近だ。
 もしかしたら、トラック以外の自動車ができるのもすぐなのかもしれないな。

「……ま、それでもトラック運送は俺のテリトリーだと思うけど。そんじゃさっさと終わらせて帰ってくるとしますか」
<うむ。今日は母君の『からあげ』らしいからな、早く終わらせよう>
「お前もいつの間にか食い意地が張るようになったよな……」
<人間のお料理はおいしいからねー。ボクも早く終わるように手伝うよ!>
<あ”ー!>
「よぅし! なら飛ばすぞ! 頭ぶつけんなよ!」
<おー♪>


 ――今日も俺達は荷物を運び続ける。

 この世界に運ばれた俺が幸せになることができた。なら次は他の人にこの幸せを運びたいものである。
 ウチの仕事は早くて正確、さらにベヒーモスやらがいて強いと来たもんだ。
 
「手紙ひとつから承っているのであんたもなにか運びたいものがあったら是非俺達を頼ってくれよな?」
<誰と話しているのだ?>
「さあな? おっと町が見えてきたぜ――」
<ヒサトラ兄ちゃん、なんか人が追われているよ!>
「おっと、そいつは拾わねえとな!」

 さて、今日のお仕事、始めますか!


 ーFinー




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 作者の八神 凪です!

 というわけで……

 『異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆』

 最終回と相成りました。
 ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!

 本当はもっとお話があり、ルアンを信仰する教祖(頭がおかしい感じのやつ)とか、もう一人の女神を信仰しているとの衝突、他国遠征、ゴルフ……など考えていましたが残念ながらここまでに。

 駆け足になってしまい申し訳ありません。
 他の作品や書籍作業なんかもあって続けるのが難しいのも理由の一つだったりします……。
 
 それではまたどこかでお会いできると幸いです! 今作を読んでいただき本当にありがとうございました!!