「こっちの方でいいのね?」
「ああ、サリアと一緒に地図を見ながら回ってくれ。護衛は頼んだぞ、お前達」
<うぉふ!>
<あ”ー!>
俺の号令でアロンとポンチョ、そしてスライム達がずらりと整列してそれぞれアピールをしサリア達の後を追う。
――さて、母ちゃんの召喚から2週間ほど経った。
経過は順調で、向こうに居た時は薬も飲んでいて体がしんどかったそうだが、飲まなくても平気だしむしろその辺の冒険者よりも強い。
もう金もあるし家でゆっくりしていて欲しいと思ったのだが、今日は自分も連れて行けと言いだしたのである。
アロンやポンチョ達も懐いているんだけど、あいつらも仕事の時は留守番をしてくれないので寂しいらしい。
◆ ◇ ◆
「ジュエリーサンゴを見つめているだけの一日は地獄よ?」
「買い物にでもいけばいいだろ……」
「ならサリアちゃんを置いて行ってよー。あ、そうだ、あたしも仕事するわ! そしたらこの子達も一緒よね」
<わん♪>
<あ”->
◆ ◇ ◆
という割とどうでもいい理由でついてきたというわけ。
……余談だが、ルアンが最後に気を利かせたらしく、目が覚めたら庭に実家である一戸建てが増えていた。父方の爺さんの持ち家だったから丸々ウチのものなので、向こうで消えるよりはと思ったのかもしれない。
俺の部屋もまんま残っていたので、漫画やらベース、野球のグローブにサッカーボールに自転車などなど……増えてはいけないものが増えた気がする。
<サッカーボールは我とアロンで使わせてほしい>
とはダイトの言葉だが、やはり追いかけるのが楽しいようだ。トランポリンに続くお気に入りが増えたアロン。
ポンチョはスケボーが気に入ったようで、小さい身体を使って軽快に滑っていた。
スライム達はこたつの上がお気に入り。
そんな感じで母ちゃんは自宅、俺とサリアはソリッド様の建ててくれた家と差別化も図れているのも特徴的だ。庭が狭くなったから騎士達が集まってバーベキューは難しくなったけどな。
◆ ◇ ◆
「ここがこの住所になりますね!」
「なるほどねえ。きちんと配達できる仕組みになっているから成り立つのね」
「はい! こんにちはー、お届け物でーす」
私はお母さまと一緒に荷物配達をすることに。
息子であるヒサトラさんと行くかと思ったけど意外なことに私と一緒に行きたいと言いだしたのだ。
「ふう……サリアちゃんは可愛いわね……おばさん、娘も欲しかったのよ。いつ結婚するの?」
「あ、その……ありがとうございます。お母さまがこっちに来てから考えたいってヒサトラさんが言ってましたから、そのうちじゃないかなと」
「……ちなみにまだしてないの?」
「……! はい。ヒサトラさん、そういうの全然なかったですね。そこが好きになった部分でもあるんですけど!」
「あー、最初の事件ね」
襲われてもおかしくない状況だったけどそうしなかった彼はやっぱり誠実なんだと思うなあ。
それはそれとして――
「私も両親が居ないので、お母さまが出来たら嬉しいです!」
「あら、嬉しいわね。ふふ、異世界だなんて驚いたけど、可愛い娘ができるならアリね」
<わんわん!>
<あ”ー!>
「アロンちゃんにポンチョ、ナンパ師を撃退してくれたの? ありがと♪」
最近だとみんながガードしてくれるのでナンパの心配もなかったりして。お母さまも私も強いから簡単に連れ去られたりしないけど、アロンちゃんたちも頼もしい。
「はいはい、プロフィアちゃん達、顔にへばりついてないで行くわよー」
<♪>
「懐いてるなあ」
ヒサトラさんもそうだったけど、ニホンジンって順応性が高いのかしら?
でもお母さまに喜ばれてよかったな。孤児となんて結婚反対! って人も多いしね。
「行くわよサリアちゃんー」
「はーい!」
早く結婚したいな、この三人なら私が欲しかった家庭がきっとできる。そう思えるから――
◆ ◇ ◆
<遅いな、迎えに行かなくていいのか?>
「まあ、ここが最後だし、アロン達もいるから平気だろ。母ちゃんには俺でも勝てるかどうかだぞ?」
<確かに……む? ヒサトラ、空を見ろ>
「星を見ろってか? お、ありゃシルバードラゴンか」
久しぶりに見たな、どこかへ行っているのか? とか考えていると、くるっと方向を変えて急降下してきた!?
珍しく大雑把な着地で風圧に耐えていると、シルバードラゴンが慌てた口調で俺達に話しかけてきた。
<おおおお! ヒサトラではないか!! ここで会ったが一か月ぶり! すまん、助けてくれい!>
「落ち着け、ホバリングで周囲の人が吹き飛んでいるだろ!? 丁度サリア達も帰って来たし、外で話を聞かせてくれ」
と、いうわけで外に出て話を聞くと、結構大変な事態で驚いた。
なんとドラゴンの卵が冒険者達に狙われているというのだ。
有精卵は貴重で、生まれたばかりのドラゴンは全身素材となるので、ある程度成長させて殺し、売り飛ばされたりするらしい。
<ワシが飛び回っていたからつけられたのかもしれん……頼む、卵と嫁さんを匿ってくれんか? 息子は人間を撃退したもののケガを負ってな。あやつも狩られる可能性が高い!>
「いいぜ、でも卵を持って飛んでくりゃいいだろ?」
<加減が難しいから持ち出すことはできんのだ。そのトラックとやらならいけるじゃろうと思ってな>
なるほど、賢い選択だ。
「ヒサトラさん、このまま行きましょう!」
「よくわからないけど、友人? のピンチなら手助けするのが人間よね」
<我達が要れば人間など容易い。ゆくぞ!>
俺達も人間だけどな!?
そんなわけで俺達はドラゴンの巣へと向かうことになった。
「しっかり掴まってろよ!!」
「うん!」
「ほら、あんた達は後ろに居なさい! いいわよ玖虎」
「いくぜ……!」
母ちゃんがアロン達を寝台へ投げ込むのを確認した瞬間、俺はアクセルをべた踏みにする。
スキール音が周囲に響き、トラックは一気に加速を行い、弾けるように飛び出した。
<あ”あ”あ”!!>
<うぉふ!!>
<♪>
キュルキュルとした音が気にいったのか背後で魔物たちが合唱を始めて割とうるさい。
だが、それよりもドラゴンの夫婦が心配なので先を急ぐ。
「こんなにスピード出して大丈夫なの!?」
「ああ、このトラックは絶対に転ばないようになっているし、万が一ぶつかってもこっちが勝つ。人間だけ気をつければ特に問題はねえよ」
「今までより一番速いよね」
サリアが手を合わせてそう言い俺は静かに頷く。
現在128キロを計測し、恐らく最高だ。このまま行けば160までは上がり、ドラゴンの山までここからなら1時間程度で到着するはず。俺は前を飛ぶシルバードラゴンを見失わないようにしながらハンドルをきって急いだ。
そして――
<あなた……!?>
<ぐぬう……き、傷が……>
「ひゃっはぁ!! 青いドラゴンはもう終わりだ! 卵を奪えええええ!」
<子供は渡しません! カァッ!>
「チッ、メスはまだ元気だな……念のためこっちも潰しとくか」
「「おお!」」
――俺達が到着すると、すでに戦闘が開始されており50人前後からなる冒険者に囲まれていた。シルバードラゴンが残っていたらと思うが、逆だ。しっかり獲物を狩るために編成されてきているので三頭とも殺されていた可能性は十分ある。息子さんが瀕死になっているのがいい証拠だ。
それよりも早く助けないとまずいなと、トラック、ダイト、シルバードラゴンが夫婦を庇うように踊り出た。
「そこまでだ。このドラゴンは俺達のフレンドでな、悪いが邪魔させてもらうぜ」
<ふむ、まあまあ数を集めたようだが……我等には勝てんぞ?>
「な!? に、人間にベヒーモス、か!?」
<お、おお……ヒサトラ殿……!>
俺を見て歓喜の声を上げる息子ドラゴン。
うなりを上げるシルバードラゴンとダイトという状況に冒険者達が驚愕の表情で俺達を指さした。
「それに見たことがない乗り物だ……! まさかこいつら、隣の国で噂の運送屋ってやつか!? な、なんでここに……」
<ワシが呼んだのじゃ!! 孫は渡さぬぞ!>
「マ、マジでドラゴンと友達なのかよ……ベヒーモスもいるしこれは無理だぜ!?」
シルバードラゴンの咆哮に戦慄する冒険者達だが、リーダー格らしき目つきの悪い男は怯む様子もなく、唾を吐いてから大声を上げた。
「びびるな! でけぇなら卵だけでも回収する手段を考えろ! よく見りゃ女も居るし、フレンドっつーなら傷ついたドラゴンを盾にでもできるだろうが、考えろ! 一攫千金は目の前だぞ」
「お、おお……!!」
チッ、徹底抗戦の構えか。ならぶちのめしてやるかと思った瞬間――
「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
「あ」
<む、避けられたか>
不意に突撃したダイトの一撃で10人くらいが宙に舞った。
それを皮切りにシルバードラゴンやアロン、ポンチョ達が飛び出した!?
<あ”あ”あ”あ”あ”!!>
<わおわおーん!!>
<#!!>
お前等やる気かよ!?
「玖虎、コンテナを開けて! 卵はあたしとサリアちゃんでコンテナに運ぶわ!」
「うん!」
「オッケー、なら護衛は俺がやる……!」
「乗り物から降りてきたぞ、あいつらを狙え!」
<グルゥゥゥ……!!>
数が多いな、捌ききれるか?
そう思った瞬間、アロンが俺達の前に立ちはだかり冒険者に体当たりを仕掛けた。全力のアロンの一撃は冒険者の鎧をひしゃげさせ、2メートルは吹き飛んだ。
「ち、小さいベヒーモス……!?」
<わんわん!!>
「ぶっ殺してやる……!!」
「アロンちゃん!」
「いや、大丈夫だ……!」
短いながらも立派な角と爪で攻撃するアロンの背後から男が刃物で斬りかかる。サリアが絶叫するが、俺はトラックの上に鎮座したスライム達に気づいていた。
そして五匹が固まってこちらに狙いをつけているのは、戦隊モノでよくある五人で合体して撃つバズーカのおもちゃ。しかし、サリアの剣ですでにお分かりだと思うが、あれも実戦で使える代物――
<イクゾー!>
<オオー!>
<アロンクンヲマモレー!>
「あれ!? スライムから声が聞こえる!?」
直後、おもちゃのバズーカから虹色の塊が発射され、アロンを狙っていた冒険者にクリーンヒット。
「ぐああああああ!?」
「な、なん――」
最後まで言い終えることなく、さらに地面からカラフルな爆発が起きて無情にも数人が吹き飛んでいった。色々とおかしい。
だが、この状況下でこの理不尽はありがたい。
<わんわん!>
「おう、任せたぞ!」
<きゅーん♪>
<コッチハマセテー!>
プロフィア達はコンテナ上から次々と虹色の塊を発射し冒険者達を空へ打ち上げる。なんか普通に喋れてんな……。
「可愛い! でも後からね、風呂敷を使ってコンテナに載せるわよ」
「はい! 二人なら軽いですね!」
<ええー……? そう? 人間には重いからあいつら荷車を持ってきてるけど……>
「大丈夫ですよ?」
母ドラゴンは信じられないといった感じだが、サリアと母ちゃんが風呂敷の端を掴んでひょいっと持ち上げてスタスタと歩くさまを見て口を開けてポカンとしていた。しかし今は戦闘中。すぐに頭を振って冒険者たちの迎撃に戻っていた。
「女と卵、両方ゲットだぜ!」
「おっと、それは無理な注文だぜ!」
「ぐあ!?」
アロン達に負けていられないと喧嘩で培った拳を叩きつけてやる。
そういやバットを持ってきてないと思っていると、視界の端にバットが見えた。見えたのだが――
「な、なんだこいつ……」
「マンドラゴラ、か? なんかでけえ棒をもってんぞ?」
がらがらとポンチョが片手でバットを引きずりながら冒険者達の行く手を遮っていた。
「あ」
ポンチョの顔、というか眉間がくしゃっとなっていることに気づき俺は戦慄する。
あの顔はガチ怒りの顔で、酔ったソリッド様付きの騎士が調子にのってあいつの湯のみを奪った時にああなったのを思い出す。ちなみにその騎士はもちろん酷い目にあった。
俺が冒険者をあしらいながらごくりと喉を鳴らして見ていると、ポンチョが動いた。
<あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!>
「あ――」
最初の雄たけびで数十人が失神。
殺してはダメだと言い聞かせているため手加減をしている。だから引っこ抜いた時のように死ぬことは無いがしばらく起き上がれないだろう。
耐えた冒険者も居るが、すでにポンチョは動いている。
<あ”あ”あ”あ”あ”!>
「ああああああああ!?」
雄たけびと悲鳴が交差。
ポンチョはバットを振り、執拗に相手の右足、その脛を打ち付けていた! もちろん相手は具足をつけているが、ものの数秒で役立たずと化す。そうなると残りは肉と骨のみ。
「このクソ大根が!! ……ぎゃああああああ!?」
<あ”あ”あ”あ”あ”!>
一人目が転げまわると別の冒険者が我に返りポンチョへ襲い掛かっていく。が、小さいため捕らえられず、またしても狂ったように右脛を叩き続けていく。確実に戦意を削いでいくが正直、見た目はなにを考えているか分からない顔で意思疎通ができないから恐怖でしかない。
というか息子ドラゴンが酷い目にあっているのを見てみんなキレちまったらしい。アロンもベヒーモスの子供らしく一撃が重いし。
とはいえ、まだ人間の数は多い……ここは脱出するべきか?
「よし、卵オッケー!」
「ヒサトラさんコンテナを閉めるわね!」
「おう! ……って邪魔すんなこらぁ!」
「ぐあ!?」
突っかかってくる冒険者をぶっ飛ばしてコンテナに向かって駆け出す俺。
サリアと母ちゃんを捕まえようと襲い掛かっていたのが見えたからだ。ダイトとシルバードラゴンは体がでかいので一撃は大きいが小回りが利かない。確実に数は減らせているものの、向こうもベテランなのでフォーメーションを立て直していた。
<ふむ、卵を確保したならこいつらに用はないか……しかし>
<お、俺のことはいい。卵と嫁を……>
「そうはいかないわ。見殺しにしたら明日からお肉が食べられないじゃない!」
母ちゃんが冒険者達を牽制しながらそんなことを言い、サリアも戦隊モノの剣を持ち出してうんうんと頷いていた。コンテナ上のプロフィア達の砲撃を回避しながら冒険者が仕掛けてきた。
「お前達を人質にしてやりゃいくらデカブツでも!」
「あたしを人質? それ自体、甘い考えね!!」
「速い……!?」
掴みかかられるより早く、母ちゃんの拳が鎧で守られていない場所へ突き刺さっていた。
くの字に折れ曲がった男を背負い投げでぶん投げ、他の冒険者をベルトアクションゲームのように巻き込む。
「オラオラ! あたしが女だからって舐めてると痛い目を見るわよ!!」
「こいつ!! ぐえ!?」
「囲め囲め!!」
「判断が遅いっての! 鉄パイプが欲しいわね」
5人相手に大立ち回りをする母ちゃんは特に剣にびびることなくぶん殴っていく。 鉄パイプでなにをするつもりかはよく分かるが残念ながらここにはない。
代わりにダウンにしたやつのハンマーを拾ってボッコボコにし始める。
「母ちゃんが元ヤンってのはなんとなく納得できたけど強いな!? サリア、無理するなよ!」
「大丈夫ー!!」
「なんだこの美少女!?」
「ちょ、あぶね……!? なんだあの光の剣!?」
うん、サリアも大丈夫そうだ。ベヒーモスとの契約で現状ここに居る人間で勝てるやつは居なさそうだ。
ならば……!
「てめぇが頭か?」
「チッ、なんなんだ貴様らはよ……? 魔物は狩りの対象だ、ガタガタ言われる筋合いはねえな!!」
「魔物でも友人にゃなれんだ、だから止めさせてもらうぜ!」
「ぐあ!?」
俺はリーダー格の男へ向かい、剣を回避してカウンター気味に顔面をぶん殴った。
キレイに入り、男は大きくぶっ飛んだあと……1、2、3……5回ほど地面に体を叩きつけながらバウンドし、やがて動かなくなった。
「あ、あれ?」
その瞬間、暴れていた冒険者達の動きが止まり、ぎょっとした顔で俺を注視していた。
「お、おい、あいつ『緋剣のバイス』さんを倒したぞ……!?」
「一撃……一撃だと……」
「ゆ、油断していたんじゃねえか?」
「あの人が油断するとは……思えないけど……」
……どうやらこいつは結構強いヤツだったらしい。
実力者と指揮系統を失った冒険者達は頷いてから白旗を上げた。
「さすがにバイスさんを倒されちゃこっちが不利だ。死人が出る前に降参するぜ……いてっ!?」
<あ”あ”あ”あ”!>
「ポンチョやめろ、終わったみたいだ」
隙を見せたらすぐ叩くなこいつ。
俺の言葉にポンチョがこっちまで戻って来て俺の足にしがみつく。
<あ”? ……あ”あ”ー>
<わんわん♪>
<♪>
アロンとスライム達も俺にじゃれついてくる。あのバズーカは封印推奨かもしれん。
「オラァ! 根性が足りないんじゃないの!」
「ひいい!?」
「母ちゃんもそこまでにしよう」
「あはは……」
母ちゃんを窘めていると、バイスと呼ばれていた冒険者が起き上がり俺を睨みつけながら口を開く。
「ぐっ……てめぇ……やりやがったな……」
「まだやるか? 卵を諦めるまで戦う準備はあるぞ」
<ヒサトラの言う通りだ>
ダイトがそういって俺の近くへとやってきた。
シルバードラゴンに蒼と桃色のドラゴン、そしてベヒーモスに無駄に強い俺達と死屍累々となっている冒険者達を見比べた後、バイスは剣を放り投げて地面を殴りつけた。
「分かったよ、くそっ! もう卵にゃ手を出さねえ。あの箱も簡単には開きそうにないしな」
何度かトラックが魔法を受けている場面もあったが、ビクともしなかったのでそれも込みで降参というところか。
しかしこの冒険者達も仕事でここまで来ていたんだろうし、悪いことをしたとは思う。ファルケンさんとかの知り合いがいるからこそだと俺はトラックの上部寝台へ行ってからとある袋を取り出してバイスへ渡す。
「……? なんだこりゃ?」
「死人はいないと思うけど怪我はしているだろ? 足りないかもしれないけど、治療費として分けてくれ」
「マジか? ……うおっ!? 足りないどころか納品した時と同じくらいの金貨があんぞ!? な、何者なんだよホントに!?」
これは貯金の一部で、移動先でいいものがあったら買うためのお金である。
実はまだ家に稼いだ金はたくさんあるからこれくらいは痛手にもならなかったりする。
「とっといてくれ、治療したら減るだろうしさ。そんじゃ俺達は行くぜ? なあ、シルバードラゴン達よ。またこういうことがあったら困るだろ、まとめてウチに来いよ。ソリッド様に言えば産まれるまで匿ってくれると思うぞ」
<いたた……。い、いいのでしょうか……?>
<ヒサトラが言えば問題なかろう、この男がやることは概ね人間にとって有用だ。もし、ヒサトラが国を出たら大きな損失になるのが分かっているからなあの王は>
そうなのか? そこまで考えているというか欲まみれな気もするが……。
とりあえずシルバードラゴンと嫁さんドラゴンに手伝ってもらい、息子ドラゴンを上部に載せてコンテナにくくりつけてやり、魔物とサリア、それと母ちゃんで卵が割れないようにしてもらうためコンテナに乗り込んでもらった。
ダイトは地上、ドラゴンは空から王都まで飛んでくることを決めたのでトラックのエンジンをかけ、窓から顔を出して呆然としている冒険者達へ挨拶をする。
「んじゃ、悪いけど俺達は帰るぜ。ま、ご覧のとおり俺達に喧嘩を売ったらこうなる。それでも良けりゃ、リベンジでもなんでも受け付けるぜ。……ただ、その時はこんなもんじゃ済まないかもしれないけどな? んじゃ気を付けてなー」
「あ、ああ……」
ぶっちゃけダイト達は俺に気を使ってかなり手加減をしているのだ。死者ゼロなんて偶然があるはずもないから、言い聞かせておく。次また来るような馬鹿なら容赦はしないつもりだ。
<いい運動になったぞ。ではな>
トラックをゆっくり進ませダイトが追従してくる。
なんだったんだと言わんばかりの顔をした冒険者達を置いて俺達は王都へと戻って行くのだった。
◆ ◇ ◆
「いっちまった……。バイスさん良かったんですかい?」
「……仕方ねえだろ、あの兄ちゃん一人にぶっ飛ばされたんだぞ、この俺が。お前等、俺とタイマンでやれる自信あるか?」
「まさか。そう考えるとバケモンだなあの兄ちゃん。ドラゴンとかベヒーモスを友達と呼べるわけだぜ」
「とりあえず帰ったら山分けだ。十分すぎるが、マジで良かったのか? ……くく、おもしれえ野郎だった、また会いたいもんだ。チヤホヤされて俺に驕りがあったか。修行しなおしだな――」
「構わんよ」
「即答!?」
王都へ戻ったのはもう日が暮れた後だったが、ドラゴン二頭は無視できるものではなかったらしく、騎士達が総出で門の外まで出て来ていた。
『やっぱりヒサトラさんか』という腑に落ちない発言はスルーし、ソリッド様に匿ってもらえるよう頼んだところ先ほどの回答を得られたわけだが……
「頼んどいてなんですけど、ドラゴン三頭ですよ?」
「まあ、今更だろう。シルバードラゴンは先日も来て人気もある。ただ、まあ三頭が落ちつける場所が王都にはないから街の外に新しく建設する形になるだろう。その間、卵をヒサトラ君の倉庫に入れておいてもらえるかな?」
「もちろん。それでいいよな?」
<申し訳ないのだけどお願いしますね>
嫁ドラゴンが深々と頭を下げ、概ね指針が決まる。
すぐに行動が開始され、卵は丁重に倉庫へ運ばれ、庭はプロフィアとポンチョによる警戒態勢になり、母親は居た方がいいだろうとダイトが庭から出て嫁ドラゴンがインする形を取った。
<いいのかしら……>
「子供が産まれたらすぐに母親の顔を見てもらわないと困るからね。刷り込みって怖いし」
「産まれそうになったらお前達も離れるんだぞ?」
<あ”ー>
<アイ!!>
という感じだ。
運送の仕事中は母ちゃん・プロフィア達スライム・ポンチョが家に残り防衛に努めることとし、アロンとダイトは前と同じようにトラックに乗って俺とサリアの手伝いだ。
そして前回のシルバードラゴン訪問の時と同じく、町の外にドラゴン達が休める場所が建設されていく。
ちなみに俺の家があるのは壁の傍だが、今回はその壁を越えたすぐのところに作っている。
後は――
「ドラゴンに効く薬ってあるのか?」
「どうだろうな……ヒサトラさんの母親を治した薬は病気に効くがケガは違うらしいしな」
「そこ、喋ってないで動けー」
「「へーい」」
――息子ドラゴンのケガの問題が残っている。いつ治るかは分からないが死ぬことはないというので一安心か。
こっちはシルバードラゴンが常駐するし、待機している兵士たちがローテーションで見張りをしてくれるらしいのでこっそり討伐されたりはないだろう。
久しぶりに俺とサリア、それとアロンだけで遠巻きに建設風景を眺めていると不意に俺の手を握りながらサリアがポツリと呟く。
「……後は無事に赤ちゃんドラゴンが産まれてくるのを待つだけね」
「だな、どんどんおかしなことになっていくけど……」
「でもいいんじゃない? ヒサトラさんが優しい人だから集まってくるんだと思うし」
「どうだろうなあ。俺はそんなつもりはないんだけどな? まあ、母ちゃんもこっちに来たし、後は仕事を頑張ろうぜ。それで……」
「それで?」
ここで言うべきか悩むところだが、誰も……特に茶化す人間も居ない今がチャンスだと思いサリアを正面に向かせてから俺は言う。
「……色々と俺の事情は片付いた。だから、俺と結婚してくれないか? お前と家族になりたいと思っている」
俺は真顔でそう言い、顔が熱くなっているのがわかる。付き合っていると公言したとはいえ結婚はまた別だ。
こういうのはきちんと口にしないと『相手が分かっている』なんて自惚れは全てを終わらせてしまう。
返事は……どうだ?
「はい! 喜んで!」
「おっと……!」
<うぉふ♪>
少し涙ぐんでいたサリアが俺に抱き着いてきてキスをし、足元でお座りをしていたアロンが祝うように足元で吠えた。さて、母ちゃんに報告しないといけねえな。
◆ ◇ ◆
「……よし! よく言ったわ玖虎」
「なるほど、母上はそれで近づくなとおっしゃっていたのか」
「そうですよソリッド様。なんだかんだと周りに人が多いと言いだしにくいですからね。夜ひっそりと……というのも考えられましたが、ドラゴン夫婦と卵という連想させるシチュエーションなら、となるべく二人きりにさせたかったというわけですね」
「な、なるほど……」
「今日はお祝いかしらね? あの子の好きなハンバーグステーキでも作ってあげようかしら」
ウチの息子は高校時代に荒れていたけど、あれはよくある流行り病のようなものだ。人様に迷惑をかけていたことに関してビンタくらいはしていたけど、自分もそういう時期があったからわからなくはない。
多分、父親が居ればそうはならなかったと思っているのであたしの親としての力不足だ。
まあ、元ヤンだったしね。
それでも、自分の親が嫌いでそうはならないよう努力してきた。で、あたしを助けるために奮闘してくれた玖虎は立派に育ってくれたと胸を張って言える。
「ハンバーグとはなんでしょうか……?」
「うわ、びっくりした!? ……誰?」
「通りすがりの魔道具技師大臣です。ちょうど陛下を探しに来ていたら、知らないのになにやら心躍るワードが聞こえてきたもので」
「ああ、あたし達の世界にあるポピュラーな食べ物よ。材料があればすぐ作れるけど」
「是非」
「バスレイ、私に用があったのではないのか……?」
眼鏡の女の子はバスレイというらしい。なんでハンバーグに拘るかわかんないけど、食べたいというなら作ってあげてもいいかしらね?
さてさて、玖虎がサリアちゃんとイチャコラしている間にとあたしは自宅に戻って夕食の準備を始めることにした。
「こっちの世界にはひき肉が無いんだねえ」
「ですねえ。ステーキとかバーベキューで食べる肉ばかりなのでわざわざ挽く必要がないですよ?」
ということらしい。
ハンバーグはステーキとはまた違った食感と脂の旨味が凝縮されて美味しいから、それを教えてあげようかしらね。
ただ――
「ソリッド様と騎士さんがついてくるとめちゃくちゃ目立つんですけど……」
「なに、気にしないでくれ。私達は散歩をしているだけだ」
「……あれはハンバーグを狙っていますよ。ヒサトラさんの料理を食べにちょくちょく家に行っては怒られてましたし……」
「あはは、それならそれでいいわ。お金もあるし、少し多めにお肉を買いましょうか。その前にちょっとお家へ――」
この世界に来てから少したつけど、サリアちゃんのおかげですっかり慣れた商店街に王様と騎士を連れて足を運ぶ。奇異の目で見られるか……と思うけど、どうも玖虎は有名人らしく『ああ、またか』といった感じなのよね。
「やあ奥さん! 今日はまた大勢でやってきたね、サリアちゃんは居ないのかい?」
「びっくりするわよね? 今日は息子とサリアちゃんのお祝いをしようと思ってお肉を買いに来たの」
「そりゃ嬉しいや。ステーキ用のいい肉があるぜ!」
「ああ、そこまでいい肉じゃなくていいわ。切り落としの赤身と脂身とかない?」
「え?」
あたしの言葉に肉屋の店主が目を丸くして小さく呻く。
いい肉でもいいけど、切れ端の肉とかを挽いたやつって結構好きなのよね。脂を少し多めで。
「こんなんでいいならいくらでもあるけど」
「わお、いいじゃない! これを我が家の比率にすればいいミンチができるわ」
「そのご自宅から持ってきた見たことない道具はなんに使うんです?」
バスレイちゃんが不思議そうな顔で家から持ってきたミートミンサーを指さす。とりあえずお肉代を払ってから実演してみる。
「これはこうやって使うのよ」
「な!? 肉が潰されてにゅるっと出た!?」
「ほう、これは興味深い……」
「牛も豚も混ぜちまうのか? にしても細かくなるな……」
ご家庭でもできるミンチ肉製造機、それがミートミンサー。
ちょっと小さいから人数分を挽くのは大変だけど、ハンバーグを作る上では語れない。
「ちょ、ちょっと作ってみちゃくれねえか」
「え、いいけど。後は卵とパン粉、牛乳、玉ねぎが欲しいわね。肉ももっと挽かないと」
「あ、わたし挽きます!」
「騎士達よ、聞いたな」
「「ハッ!」」
ひき肉はバスレイちゃんが。残りの材料は騎士さん達が買ってきてくれるというのであたしは中で調理器具を貸してもらう。
程なくしてすべての材料が揃い、全力でミンチ肉と材料をこねてこねまくり、形を整えていく。
「~♪」
「おお、楕円形になっていく! すごいな!」
「とりあえず二、三個作ってみようかしら。これを熱したフライパンへ落としてっと――」
強火とか弱火の設定が無いからフライパンと火の距離で調節。
片側強火のひっくり返して中火。あとは蓋をしてじっくりと火を通していく。やっぱり日本と違って衛生面が怖いからフォークをさして程度を見ていく。
そして――
「お待たせバスレイちゃん、それとソリッド様が食べます?」
「もちろんだ。……毒見役、食いすぎるなよ?」
「……!?」
なんか毒見役の人がびくっとなり、少しずつ口へ。
バスレイちゃんと店主も口にすると、表情がほわっとなって口を開いた。
「なんだこれ……!? めちゃくちゃ柔らかくて切ったところから肉汁が溢れてくる!? さらに口に入れると脂の旨味がいっぱいに広がるだと……!!」
「んま……! んま! これがハンバーグ……これが至高……」
バスレイちゃんの語彙力がおかしいけど気に入ってもらえたらしい。
「本当はソースがあるんだけど時間がかかるから焼いただけでごめんね」
「さらに美味しくなると……!?」
「ウチの専属料理人にならないか?」
「それはちょっと……」
咀嚼しながらソリッド様が真顔でそんなことを言いだしたが丁重にお断りしておいた。
「ヒサトラさんと結婚するんでこれを毎日お願いします……!」
「えっと、さっきサリアちゃんと婚約していたから無理かなー」
「ノウ!? なぜわたしは出番が少なかったのか!? アプローチもできずに撃沈……! もっと出番があれば……!!」
「まあ、なんていうか、ごめん?」
「材料をもってお邪魔します……」
強い子だわ。
諦めない心が魔道具研究という大きな事業を任されているのかもしれないわね。
「あああああ、もうなくなったぁぁぁぁぁ!」
「はいはい、今晩の夕食はハンバーグだからソース付きの作ってあげるから」
「女神様……!!」
「楽しみだな」
「陛下、材料はこちらもちで我々にも食べる機会を」
「こういう時だけ敬うな」
そんなこんなで夕食はパーティになりそうだと苦笑する。
いいじゃない、異世界。玖虎の周りにいる人たちはいい人ばかりだし、楽しくなりそうだ。
そんじゃ、腕をふるって準備をしますか!
「これがこうなっている……なるほど、渦巻き状に――」
「あれは大丈夫なのか……?」
「あはは、バスレイちゃんはハンバーグにご執心になっちゃったからねえ」
ミキサーミルを真剣に見ているバスレイはハンバーグをすでに三枚ほど平らげていて、これを生み出したものを量産して広めるなどと意味不明な供述をしていたそうだ。
「わ、柔らかい……! お義母さん、私にもこれを教えてください!」
「ふふ、玖虎の奥さんになる人には好物も含めて全部教えないとね!」
「ぶっ!? ま、まさか聞いていたのか……!?」
「ああ、言わない方が良かったかしら? ま、そういうことよ」
母ちゃんがそういってウインクをし、俺とサリアは顔を見合わせてから赤くなる。
そこで庭のテーブルで上品にハンバーグを切り分けているソリッド様が栗を開く。
「うむ。ゴルフにハンバーグ、その他色々ヒサトラ君には世話になっているからな。豪勢にやらせてもらいたいのだが?」
「ど、どこで聞いていたんだ……気配なんて無かったのに……」
恐ろしいことに騎士達も生暖かい目をこちらに向けてきているので恐らくさっきの告白は全て知られていると思っていいだろう。迂闊な真似は……とも思うが、別に隠す必要もないしなと思い直す。
「みんなありがとう。俺はすぐにとは言わないけど、サリアと結婚したいと思ってる。その時は色々と教えてくれると嬉しい……です」
「もちろんよ!」
力強い母ちゃんの言葉で俺も頬が緩む。
こっちに呼んだことは後悔していて居ないけど、母ちゃんなりに考えもあったかもしれない。だけど、この世界に馴染みつつあるあたり、良かったと思っていたりする。
アニメや小説のように冒険とか魔物を倒すとかそういうことは母ちゃんが来たことでもうない……はずだ。
後はこの世界でしっかり生活基盤を作っていくことで平和に暮らせるだろう。
「ヒサトラさん、冷めないうちに食べましょ!」
「ああ、いま行くよ」
そして――
◆ ◇ ◆
「そんじゃ行ってくるよ」
「うん! 気を付けてね、これお弁当。アロンちゃんとダイト、ポンチョの分もあるからね」
<ボク、サリアお姉ちゃんのご飯好きー!>
<あ”ー♪>
「プロフィア達は留守番頼むぞ」
<アイ! サリア様とリュウノスケ様は我々が守ります!>
「あーうー」
<あ、いけません坊ちゃん、我々は食べるものではありませんよ!?」
「ははは、大変だろうけど任せたぜ! んじゃ、行くか!」
<うむ。助手席は任せろ>
――母ちゃんがこの世界に来てから早3年が経過。
ハンバーグのお祝いから半年後に冒険者達に払った資金をまた貯め直して、半年後にサリアと結婚。
その後はすぐに子宝にも恵まれて今は男の子が一人誕生した。
俺が感動するよりも早く母ちゃんが泣いてしまったのが意外と感慨深い。
そして見ての通りアロンとスライム達が割とハッキリ喋るようになった。ポンチョは相変わらずだが、意思疎通は表情でできるので特に困ったことはない。
が、リュウノスケが生まれて防衛のためなのか自ら種をまいてミニポンチョを増産していたりする。
<あ”ー!>
<あ”あ”ー!!>
ミニポンチョは全部で5体。
それが自ら生み出した木製のバットを振るうのでその辺の盗賊や魔物ではまるで相手にならない。
で、その盗賊と魔物の心配を何故するのかというと、俺は王都に家を構えていたわけだが、実はこの二年で大幅に変更された。
元々、城壁の近くの隅に倉庫などが建てられていた家では所帯が多くなりすぎてしまい改造を余儀なくされ、城の外に俺達専用の区画が作られることになったわけだ。
<お、行くのか?>
<ああ、留守は頼むぞタロン>
<わしに勝てるやつ等そうはおらんさ、名前をもらった我々にはのう>
そう言ってニヤリと笑うシルバードラゴンのタロン。その専用区画には俺の店『ベヒーモス運送』の店舗と倉庫、それとドラゴン達が過ごせる巨大な要塞みたいな場所がある。
そこにドラゴンやベヒーモス親子などが寝泊り出来る場所を作り、卵を守るためにこっちへ置いていた三頭はそのまま居着いてしまったので、名前をつけてってわけだ。
<ぴぃー!>
「おう、カルム。見送ってくれんのか?」
<ぴぃぴぃ♪>
<カルムはヒサトラ兄ちゃんが好きだよねー>
「お前もそうだろアロン」
<まあね!>
アロンが子ドラゴンのカルムへそんなことを言うが、わんわん言って俺の足に抱き着いてきていたのが懐かしいよ。角も少しずつ立派になってきたアロンの頭を撫でてからトラックへ乗り込む。
100年くらいは喋らないだろうと言われていたアロンもたった三年で喋れるようになり、ウチの子を背中に乗せて散歩をしてくれる。
……多分、俺という存在が特異点なのだろうとダイトは言う。
遠巻きにはタロンの息子であるストリームと嫁ドラゴンのサクラがソリッド様や騎士、荷物を持って飛んでいくのが見える。
運送屋……ではなく、ゴルフ場までの移動手段として賃金を得ていたりする。
まあ、ソリッド様はお金払いがいいし、各国の要人のゴルフ呼び込みの移動手段として重宝されているのだ。
ドラゴンに手を出すやつはそうそういないからな……。
「おー! ヒサトラ君は仕事か? 今度の休みは私と回らないか?」
「はは、リュウノスケと遊んでやりたいですから、また今度!」
飛び立つソリッド様にトラックから手を振り、そう告げるとにこやかに笑いながら高く飛んでいく。
あれならあっという間にゴルフ場だろう。今日はどこの国の王族と回るのやら。
俺も行くかとアクセルを踏もうとしたところで身重のサリアが近づいて来た。
「たまにはいいんじゃない? 私はお腹が大きくなってきたけどお義母さんも居るしね」
「ま、考えておくよ。母ちゃんが一番心配……いてえ!?」
「なによ玖虎。あたしが心配って! 運送はアロンとダイト、それにポンチョが手伝ってくれるからいいけど、サリアちゃんは二人目の出産を控えているんだからついてないとね!」
「分かってるよ、んじゃ今度こそ行ってくるぜ!」
「「いってらっしゃい!!」」
自宅ある道具や積み荷にあった日本の道具はバスレイが頑張って再現していて、そろそろモーターみたいな魔道具は出来そうだと試作品を持ってきたのが最近だ。
もしかしたら、トラック以外の自動車ができるのもすぐなのかもしれないな。
「……ま、それでもトラック運送は俺のテリトリーだと思うけど。そんじゃさっさと終わらせて帰ってくるとしますか」
<うむ。今日は母君の『からあげ』らしいからな、早く終わらせよう>
「お前もいつの間にか食い意地が張るようになったよな……」
<人間のお料理はおいしいからねー。ボクも早く終わるように手伝うよ!>
<あ”ー!>
「よぅし! なら飛ばすぞ! 頭ぶつけんなよ!」
<おー♪>
――今日も俺達は荷物を運び続ける。
この世界に運ばれた俺が幸せになることができた。なら次は他の人にこの幸せを運びたいものである。
ウチの仕事は早くて正確、さらにベヒーモスやらがいて強いと来たもんだ。
「手紙ひとつから承っているのであんたもなにか運びたいものがあったら是非俺達を頼ってくれよな?」
<誰と話しているのだ?>
「さあな? おっと町が見えてきたぜ――」
<ヒサトラ兄ちゃん、なんか人が追われているよ!>
「おっと、そいつは拾わねえとな!」
さて、今日のお仕事、始めますか!
ーFinー
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
作者の八神 凪です!
というわけで……
『異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆』
最終回と相成りました。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!
本当はもっとお話があり、ルアンを信仰する教祖(頭がおかしい感じのやつ)とか、もう一人の女神を信仰しているとの衝突、他国遠征、ゴルフ……など考えていましたが残念ながらここまでに。
駆け足になってしまい申し訳ありません。
他の作品や書籍作業なんかもあって続けるのが難しいのも理由の一つだったりします……。
それではまたどこかでお会いできると幸いです! 今作を読んでいただき本当にありがとうございました!!