「よし、卵オッケー!」
「ヒサトラさんコンテナを閉めるわね!」
「おう! ……って邪魔すんなこらぁ!」
「ぐあ!?」

 突っかかってくる冒険者をぶっ飛ばしてコンテナに向かって駆け出す俺。
 サリアと母ちゃんを捕まえようと襲い掛かっていたのが見えたからだ。ダイトとシルバードラゴンは体がでかいので一撃は大きいが小回りが利かない。確実に数は減らせているものの、向こうもベテランなのでフォーメーションを立て直していた。

<ふむ、卵を確保したならこいつらに用はないか……しかし>
<お、俺のことはいい。卵と嫁を……>
「そうはいかないわ。見殺しにしたら明日からお肉が食べられないじゃない!」
 
 母ちゃんが冒険者達を牽制しながらそんなことを言い、サリアも戦隊モノの剣を持ち出してうんうんと頷いていた。コンテナ上のプロフィア達の砲撃を回避しながら冒険者が仕掛けてきた。

「お前達を人質にしてやりゃいくらデカブツでも!」
「あたしを人質? それ自体、甘い考えね!!」
「速い……!?」

 掴みかかられるより早く、母ちゃんの拳が鎧で守られていない場所へ突き刺さっていた。
 くの字に折れ曲がった男を背負い投げでぶん投げ、他の冒険者をベルトアクションゲームのように巻き込む。

「オラオラ! あたしが女だからって舐めてると痛い目を見るわよ!!」
「こいつ!! ぐえ!?」
「囲め囲め!!」
「判断が遅いっての! 鉄パイプが欲しいわね」

 5人相手に大立ち回りをする母ちゃんは特に剣にびびることなくぶん殴っていく。 鉄パイプでなにをするつもりかはよく分かるが残念ながらここにはない。
 代わりにダウンにしたやつのハンマーを拾ってボッコボコにし始める。

「母ちゃんが元ヤンってのはなんとなく納得できたけど強いな!? サリア、無理するなよ!」
「大丈夫ー!!」
「なんだこの美少女!?」
「ちょ、あぶね……!? なんだあの光の剣!?」

 うん、サリアも大丈夫そうだ。ベヒーモスとの契約で現状ここに居る人間で勝てるやつは居なさそうだ。
 ならば……!

「てめぇが頭か?」
「チッ、なんなんだ貴様らはよ……? 魔物は狩りの対象だ、ガタガタ言われる筋合いはねえな!!」
「魔物でも友人にゃなれんだ、だから止めさせてもらうぜ!」
「ぐあ!?」

 俺はリーダー格の男へ向かい、剣を回避してカウンター気味に顔面をぶん殴った。
 キレイに入り、男は大きくぶっ飛んだあと……1、2、3……5回ほど地面に体を叩きつけながらバウンドし、やがて動かなくなった。

「あ、あれ?」
 
 その瞬間、暴れていた冒険者達の動きが止まり、ぎょっとした顔で俺を注視していた。
 
「お、おい、あいつ『緋剣のバイス』さんを倒したぞ……!?」
「一撃……一撃だと……」
「ゆ、油断していたんじゃねえか?」
「あの人が油断するとは……思えないけど……」

 ……どうやらこいつは結構強いヤツだったらしい。

 実力者と指揮系統を失った冒険者達は頷いてから白旗を上げた。

「さすがにバイスさんを倒されちゃこっちが不利だ。死人が出る前に降参するぜ……いてっ!?」
<あ”あ”あ”あ”!>
「ポンチョやめろ、終わったみたいだ」
 
 隙を見せたらすぐ叩くなこいつ。
 俺の言葉にポンチョがこっちまで戻って来て俺の足にしがみつく。

<あ”? ……あ”あ”ー>
<わんわん♪>
<♪>

 アロンとスライム達も俺にじゃれついてくる。あのバズーカは封印推奨かもしれん。
 
「オラァ! 根性が足りないんじゃないの!」
「ひいい!?」
「母ちゃんもそこまでにしよう」
「あはは……」

 母ちゃんを窘めていると、バイスと呼ばれていた冒険者が起き上がり俺を睨みつけながら口を開く。

「ぐっ……てめぇ……やりやがったな……」
「まだやるか? 卵を諦めるまで戦う準備はあるぞ」
<ヒサトラの言う通りだ>
 
 ダイトがそういって俺の近くへとやってきた。
 シルバードラゴンに蒼と桃色のドラゴン、そしてベヒーモスに無駄に強い俺達と死屍累々となっている冒険者達を見比べた後、バイスは剣を放り投げて地面を殴りつけた。

「分かったよ、くそっ! もう卵にゃ手を出さねえ。あの箱も簡単には開きそうにないしな」
 
 何度かトラックが魔法を受けている場面もあったが、ビクともしなかったのでそれも込みで降参というところか。
 しかしこの冒険者達も仕事でここまで来ていたんだろうし、悪いことをしたとは思う。ファルケンさんとかの知り合いがいるからこそだと俺はトラックの上部寝台へ行ってからとある袋を取り出してバイスへ渡す。

「……? なんだこりゃ?」
「死人はいないと思うけど怪我はしているだろ? 足りないかもしれないけど、治療費として分けてくれ」
「マジか? ……うおっ!? 足りないどころか納品した時と同じくらいの金貨があんぞ!? な、何者なんだよホントに!?」

 これは貯金の一部で、移動先でいいものがあったら買うためのお金である。
 実はまだ家に稼いだ金はたくさんあるからこれくらいは痛手にもならなかったりする。

「とっといてくれ、治療したら減るだろうしさ。そんじゃ俺達は行くぜ? なあ、シルバードラゴン達よ。またこういうことがあったら困るだろ、まとめてウチに来いよ。ソリッド様に言えば産まれるまで匿ってくれると思うぞ」
<いたた……。い、いいのでしょうか……?>
<ヒサトラが言えば問題なかろう、この男がやることは概ね人間にとって有用だ。もし、ヒサトラが国を出たら大きな損失になるのが分かっているからなあの王は>

 そうなのか? そこまで考えているというか欲まみれな気もするが……。
 とりあえずシルバードラゴンと嫁さんドラゴンに手伝ってもらい、息子ドラゴンを上部に載せてコンテナにくくりつけてやり、魔物とサリア、それと母ちゃんで卵が割れないようにしてもらうためコンテナに乗り込んでもらった。

 ダイトは地上、ドラゴンは空から王都まで飛んでくることを決めたのでトラックのエンジンをかけ、窓から顔を出して呆然としている冒険者達へ挨拶をする。

「んじゃ、悪いけど俺達は帰るぜ。ま、ご覧のとおり俺達に喧嘩を売ったらこうなる。それでも良けりゃ、リベンジでもなんでも受け付けるぜ。……ただ、その時はこんなもんじゃ済まないかもしれないけどな? んじゃ気を付けてなー」
「あ、ああ……」

 ぶっちゃけダイト達は俺に気を使ってかなり手加減をしているのだ。死者ゼロなんて偶然があるはずもないから、言い聞かせておく。次また来るような馬鹿なら容赦はしないつもりだ。

<いい運動になったぞ。ではな>
 
 トラックをゆっくり進ませダイトが追従してくる。
 なんだったんだと言わんばかりの顔をした冒険者達を置いて俺達は王都へと戻って行くのだった。


 ◆ ◇ ◆


「いっちまった……。バイスさん良かったんですかい?」
「……仕方ねえだろ、あの兄ちゃん一人にぶっ飛ばされたんだぞ、この俺が。お前等、俺とタイマンでやれる自信あるか?」
「まさか。そう考えるとバケモンだなあの兄ちゃん。ドラゴンとかベヒーモスを友達と呼べるわけだぜ」
「とりあえず帰ったら山分けだ。十分すぎるが、マジで良かったのか? ……くく、おもしれえ野郎だった、また会いたいもんだ。チヤホヤされて俺に驕りがあったか。修行しなおしだな――」