「では、ひと月後に会おう」
「ああ、ありがとう。また来るよ」

 というわけで俺達はマトリアさんに素材を託して王都へと戻ることに。
 一か月なんて仕事をしてりゃすぐだし、特に問題はないだろう。シルバードラゴン達のところへ行く時間ができたと思えばいいしな。

 なんて話をしながらマトリアさんを残して地下室を後にし、ダイトとデイルさんの下へ戻ると物々しい雰囲気に包まれていた。なぜか分からないが騎士達に囲まれているからだ。
 慌てて駆け出していくと、デイルさんがこちらに気付いて手を振ってくれた。

「どうしたんですか?」
「いやあ、このバカ息子がベヒーモスが居ると騎士団に通報したらしくてな」
「あ!? こいつら!」
<まったく失礼な>

 足元にはアリーに結婚を迫っていた親子が転がっており、ダイトによる尋問を受けていたそうだ。
 供述によると、親子は危険な魔物が町中に入り込んでいると通報。一時騒然となり取り囲まれたが、デイルさんが『そんなことはねえ』と、デイルさんにとって息子と孫にあたる彼等にボディブローをぶち込んでことなきを得たらしい。
 名前も知らないし、行った悪事もダイジェストになるとは……今後の登場は恐らくもうないと思う。
 それはともかく、デイルさんの言葉でひとつ訂正しないといけないので口を開く。

「いや、ベヒーモスは危険だと思う」
<え!?>
<わふ!?>
 
 突然の俺の反逆に驚くが、一般市民からしてみたらそうだろと言うと納得してくれた。お前達だから許されている部分もあるのだと。

 そこへ騎士の一人が俺に話しかけてくる。

「あなたがベヒーモスとの契約者ですか?」
「そう畏まられると恐れ多いけど、まあ家族ではあるな」
「おお……ベヒーモスを家族……」
「強そうに見えないのに……」

 余計なお世話だ。

「前回の訪問時に、ビルシュ国王様が来られていたと聞いていますが侵略行為ではないですか?」
「ああ、そういう危惧か。大丈夫だ、俺はマトリアさんに薬の依頼をしにきたのと、アリーの継承儀式の手伝いをしただけだしな。仕事は運送業をやっている」
「結構です。まあ、流石に驚きましたがベヒーモス殿とは言葉を交わせるので問題にはならないでしょう。ウチの陛下とソリッド王の仲は悪くないですから。今度『ごるふ』とかいうスポーツをやるのだとお誘いがあったようです」

 ノリノリだろう王様達……
 送迎はなんとなく任されそうな気がするが、薬が完成するまで仕事に支障がなければ問題ない……と、しておく。

 騎士達が撤収しようとしたところで、ふっと空が暗くなり顔をあげると……

<おー、おったおった! ベヒーモスの気配があったから来てみたが当たりだったな!>
「げっ!? シルバードラゴン!?」
「おお……S級の魔物が同じ場所に……!? ヒサトラ殿、こちらのドラゴンも家族ですか!?」
「いや、こいつは野良だ」
<野良っていうな!?>

 ◆ ◇ ◆

 広い場所に降り立つシルバードラゴンに、念のためと騎士達も取り囲んで様子を見守る。そんな中でダイトが呆れたように言う。

<あんまりウロウロしていると狩られるぞ>
<暇なんじゃもの。いいではないか、お主だけあちこち行けるのはずるい>

 野良ドラゴンは命と暇つぶしを天秤にかけていた。
 危なくなれば空高く飛べるのでそこは問題ないと笑っていたが楽観的なほど危ないような気がするんだよなあ……

「で、今日はどうしたんだ?」
<うむ、息子の嫁が有精卵を生んでのう。産まれたら見に来て欲しいという伝達じゃ>
「本当のところは?」
<卵の周りで喜んでいたら息子に怒られて追い出された>
 
 まあ喜ぶのはいいけど迷惑をかけたらダメだよな。で、自分の巣に戻る途中でダイトの気配がここへ来たというわけらしい。

<お主らはこれからどうするのだ?>
「王都に帰るぞ。ああ、明日も休みだしそっちの山に行ってもいいな。キャンプ道具はもちこんでいる……あ、でも魚がねえな。家の冷凍庫だ」
<なら、今日はそっちにお邪魔させてもらおうかのう>
「俺は構わないけど、ソリッド様に確認は取るぞ? まあダメなら外でキャンプだ」
<ワシはなんでもいいぞ>
「あはは、おじいさんそれでいいんですか?」

 適当だ。
 アリーも思わず苦笑いするレベルで。
 ついて来たそうなデイルさんを置いて俺達は王都へと戻って行く。
 トラックを見た騎士達は『あれが……』とか『陛下に報告せねば』などと口にしていたがこのローデリア国にはトラックのことが伝わっているようだ。
 国境を越える時にソリッド様がなにか話していたからそのせいだろうけど。

 そんじゃ今度こそ王都へ戻りますかとトラックを走らせるのだった。
 薬、ちゃんとできるといいけどな。