――リキトウ山からアリーの屋敷まで一気に走らせ、家の継承権は見事彼女のものとなった。
従兄と叔父に関してはあくまでも失敗をした時の保険程度なので片田舎に戻る以外の策は無いとのこと。
同じ貴族ではあるがやはり上位と下位が存在し、アリーの家の方が上なので従兄が上に行くためには結婚するしかないため躍起になっていたわけだ。
その時の一部始終を紹介したいと思う。
◆ ◇ ◆
「久しいなアリー。諦めて逃げ帰って来たのかな?」
「いいえ叔父様。この通り、ドラゴンの巣から鱗を持ち帰ってきました」
「……え?」
庭に出て来てもらい、拾ったり貰ったりした鱗に牙、爪などなど……それらを全部広げて見せてやると、親子は鼻水を垂らして立ち尽くす。いい表情だ、胸がスッとするやつよ。
「い、いや、そこに居る者達に手伝ってもらったのだろう? それでは認められない」
「ああ、それについてはこいつを見てくれ」
「なんだね君は? ……うお!? 大迫力……!」
「あ、あ、アリーが危ない!? って、なんだよこれ……魔道具か!?」
ちょいちょいと肩を叩いて二人に動画を見せてやると、色々なことに度肝を抜かれていた。
ひとしきり見せた後にスマホをしまう。
「まあそんなところだ。見ての通り俺達は見守っていただけで、手伝っちゃいない」
「ですです! 三人がドラゴンさんに襲われながらも手に入れた鱗なんです!」
「ぐぬ……! これが本物とは――」
まだ抵抗する素振りを見せる叔父が鱗が本物か分からないと言いかけた瞬間、初老の男性がスッと現れて頭を下げて口を開く。
「いえ、旦那様。これらは全て本物でございますよ」
「カーークス!? お前なんですぐ本当のことを言うんだ!? ちょっとは主人のために嘘つくくらいするだろ!」
「わたくしは旦那様に仕えておりますが、自分の信念に従うべき時はその限りではありません。鑑定の目に自信がありますゆえ、嘘はつけません」
「おのれ……かっこいいことを……!」
「パパ、アリーは僕のモノにならないの……!?」
「「まあ無理だな」」
一同が声を揃えてそう言うと、叔父が発狂しそうな勢いで持っていた杖を振り上げた。
しかしその時、庭に影が差す。
曇りかと思っていると――
<おお、見つけたぞ人間達! 美味いものを食わせてくれるのを待ちきれんかったからついてきたわい>
「シルバードラゴン!?」
「あわわわわわ……うーん……」
「パパァ!?」
◆ ◇ ◆
……という感じで完封したというわけ。
アリーの親父さんもビリーのことは認めていて、結婚を許されていた。
まあ、ドラゴンが町中に現れたということで現場は一時騒然となったが結果的にすべてが丸く収まってなによりだ。
「こんな格好で申し訳ない。私が病気でなければアリー達に苦労をかけることもなかったのだが……」
「いえ、俺も母親が病気で薬を探していますからね、お気になさらずに」
ベッドで上半身を起こした状態で親父さんがすまなさそうに頭を下げてきたので、俺達はやんわりと返す。
「ありがとう。それと窓からドラゴンの頭らしきものが見えるのだがあれは……」
「お気になさらず」
「そ、そうかい?」
サリアが笑顔でやんわりと返す。
まだ飯を食わせるような時間ではないため、ベヒーモス親子と待ってもらっている。町の外に居てもらえばよかったような気がするが、説明もしたし、もはや後の祭りなのでこのままにしとこうと思う。
そして親父さんは困惑しながら咳ばらいをすると俺達に向かって話し出す。
「君たちには世話になった。なにかお礼をしたいのだが、要望はないか?」
「それなら……アリーにとっての祖母にお会いしたいと思っています」
「母に?」
そこでアリーが親父さんへ俺の意図を告げる。
病の治療薬を俺が欲していること、その材料について婆さんが知っていること、そしてそれは親父さんにも使えるであろうという話をした。
「なんと、そなたの母君もか」
「病状は違うと思いますけど、治りにくい病気って意味では同じかなと」
「私はともかく、母君のために作ってもらいたいな。母は屋敷の裏庭に居を構えているので会いに――」
「話は聞かせてもらったよ! 人類は繁栄する!」
「おう!?」
<きゅん!?>
背後の扉が開いて声高らかに叫ばれ驚く俺達と、目見開いて驚くアリーが口を開く。
「おばあ様!?」
「おお、アリーや無事じゃったか、良かったわい。私が手伝えれば良かったんだけどねえ」
アリーの横でカラカラと笑う婆さんがどうやらそうらしい。
サリアとあまり変わらない身長で顔は相応に老けてはいるが、昔は美人だったろうと思わせる顔立ちで、背筋もピンと張っていて想像の10倍若いと感じた。
「で、あんたが私の知識を欲しているやつかい?」
「ああ、俺はヒサトラ。母親を助けるため治療薬を探している異世界人だ」
「へえ! また、面白いことを言うヤツが来たもんだよ。若いころの爺さんに似ているねえ、もう少し私が若かったら付き合ってもいいくらいだよ」
「今でも結構美人だと思うけどな? だけど俺にはサリアが居る、残念だ」
「あ」
俺がサリアを引き寄せると、婆さんは目を丸くした後、高らかに笑いながら俺の尻をバシバシ叩く。
「あっはっは! 素直だねあんた! 気に入った、治療薬について話をしてやるよ。もっとも、半分くらいは終わってそうな感じはするがね?」
「?」
「ま、ゆっくり話そうか。私はマトリア、この国でもそこそこの名を持つ魔法使いさ」
そう言ってマトリアさんは俺にウインクをしながらサムズアップをする。元気でノリのいい婆さんだなと思いながら、裏庭にある家へと向かう。