「ようし! 出発だ!」
「いってきまーす!!」
<わんわん!!>
「気を付けてな。といってもベヒーモス殿が居れば魔物の危険は無いだろうが」
<当然だ、ヒサトラとサリア、そして荷物の安全は我に任せておけい>

 ――なんだかんだとあれから数日が経過し、俺達はいよいよ運送業へと復帰することができた。
 初依頼にも関わらず多くの人が利用してくれ、荷物のお届けが一日150件と、トライドさんとの初仕事の10倍スタートとなった。

 片道で良ければということで冒険者も数人載せての出発である。
 ちなみに時間をかけた理由はトラックにルアンを崇拝する宗教のシンボルと、ソリッド様のところの国章、それと俺達の新しい作業着を作っていたかららしい。
 急遽ベヒーモス親子が参加したため、仕立て屋が慌てて二頭の帽子を作ってくれたのだが、

<この帽子というのはいいな。仲間同士という感じがする>

 父親は角に引っ掛ける形ででかいの被っており、ご満悦である。
 コヒーモスの方は角がまだ小さい(よくみたらあった)ので、帽子に紐をつけて首に回して結んでいるのだ。助手席との間でおすわりしてキリっとしているのが可愛い。

「そんじゃ行ってきますー」

 そして町の外へ。
 冒険者が乗るため父ベヒーモスはコンテナが閉じている方に体を預け、頭は運転席の屋根にある。荷物だけならコンテナを広
く取れるのでコンテナに窓をつけたりするべきなのか? しかし改造も手間だしなあ。

 荷物は盗まれないように冒険者が乗る場所と荷物を積載する場所を分けてある。なので盗難の心配はない。左側にソファを並べ、背もたれに壁を作り、そこへ荷物を積んでいる。まあ要するに荷物と客席を半分ずつにしているのである。サリアがたまに小窓から監視をしてくれているし、ぶち破らない限りは荷物へ辿り着かない。

 ちなみにパソコンはシガーソケット経由で充電ができて使用可能に。
 サリアがいたく気に入っており、今も膝に乗せてMAPを見ているのだが、酔わないのだろうか……。

<前方にサージェントウルフの群れだ。威嚇しておこう>
「頼むぜ」

 茶色い毛並みの狼が道を塞ごうとして……父ベヒーモスの咆哮で散っていった。通り過ぎる時になんか謎の言語を話していたが、あれが魔物との交渉だろうか?

 通り過ぎた後にバックミラーを見ると狼たちが見送ってくれていた。

「獲物だと思ったのかねえ」
<珍しいから近くで見たかったようだな。鉄は食えんことを教えてやった>
「いい仕事をしてくれますね♪」

 サリアが隣で天井に目を向けながら笑い、俺もつられて苦笑する。
 なんだかんだ上手くやっていけそうだなと思っていると、街道が終わり最初の町へと到着した。


「あいよ、お疲れ様! 到着だ」
「ありがとう……って、本気で速いな……馬車なら昼過ぎに到着だぞ」
「まあそれが売りだからな。頑張って稼いで来てくれよ!」
 
 一組目の冒険者を降ろした後は宅配を5件ほど。
 商人達は買い物をしたそうだが、夜行バスみたいなものではないので集合してくれなければ困る。そのためサリアとベヒーモス親子に留守を頼んでおく。
 荷物が増えたら父ベヒーモスに監視をお願いしたい。というか途中で逃げて時間までに返って来なければ置き去りにする手もあるか?

「ここはこれで終わりだな」
「なら、次ね」

 配り終えてから次の町へ。
 日本みたいに地続きでポツポツ家が建っているという感じじゃなく、魔物避けの壁に囲まれた場所なので非常に分かりやすいのがいい。
 
「おお、あれが『とらっく』だな! ヒサトラさんですね、話は聞いております」
「あざっすー!」
「……おい、なんか乗っかってんぞ!?」
 
 初めて行く町でもこの通り、快く受け入れてくれる体制が出来ているので俺もにっこり笑顔だ。商人たちを降ろすと人間を移動させるのはこの町までなので、残りは荷物のみとなる。

<では我はここで待っているぞ>
「頼むぜ。20件くらいだからすぐだ」

 コンテナから降り立ったベヒーモスがトラックの横でお座りをしてそんなことを言う。お座りして俺とあんまり変わらないのでやはりでかいな。

「しゃ、喋った……!?」
「でけぇ……」
「でも帽子被ってるわよ可愛いー」
<我になにか用か?>
「な、なんでもありませーん!?」

 ベヒーモスが話しかけると集まっていた人、特に男は距離を取り、女性は俺の足元に居るコヒーモスに夢中だった。

「この子かわいー!」
「みんなとお揃いの帽子なんですね」
「ええ、ウチのマスコットですよ!」
<うぉふ!>

 サリアが自慢げに女性たちへコヒーモスを紹介すると、愛嬌を振り撒き撫でまわされていた。
 こら、お父さん、羨ましそうな顔をしない。

「おう、兄ちゃんが例のやつか! おら、こいつ持ってけ!」
「ありがとうございます。この住所ってどのあたりですか?」
「おう、そこはな――」

 住所はソリッド様が用意してくれた町の地図を元に現地人が教えてくれるから正直楽だ。まあ最初だから珍しさに声をかけてくるだけかもしれないが、今のうちに色々な人と仲良くなっておけば後に続く。

 今日は南側の端の町まで行って別ルートで王都へ戻ってくる仕事だった。国境最南端まで行って帰って来たんだけど、まだ20時だったのでかなり早く終わったと思う。

「ふう、無事に終わりましたね! みなさん協力的で楽でしたし」
<わん!>
「まあ、ベヒーモスはまだ伝わってなかったから警護団を呼ばれた時はまいったけどな。という感じの仕事だがどうだったよ」

 屋根から降りてきたベヒーモスから帽子を受け取りつつ尋ねてみると、

<悪くない。『こんてな』とやらの上も風を受けて快適だったしな。もう少し幅があると良いのだが>
 
 そんな回答が返って来た。
 そのあたりは改善の余地があるなと顔を撫でながら言ってやると、頼むと返事をして寝そべり晩飯の支度を待つ。
 初仕事でそこそこの収入だということで俺は奮発して肉を買っておいた。
 明日も朝から仕事だが、癒しの一杯も購入済み。

「よーし、焼くか」
 
 炭火の威力はでかい。
 網の上で焼かれた肉からでる肉汁が炭火へ落ち、そこから香る匂いは食欲をそそられる。

<くぅ~ん>

 目を輝かせたコヒーモスが尻尾を振る。
 父ベヒーモスは冷静だなと思っていると――

「きゃあ!?」
「こら、そんな大きく尻尾を振るんじゃない! 埃が飛ぶだろうが!?」
<す、すまん>
<わふわふ>

 一瞬、とんでもない風にあおられてしまった。
 幸い肉は死守したので、その後は一枚ずつステーキと野菜を頂く。野菜はトウモロコシがあったので醤油っぽいやつをつけて焼きもろこしにした。

「おいしい……! 私このトウモロコシ好きかも」
「おお、一本食っちまえよ。……くう、酒に合うな肉……」
<うむ、いい焼き加減だ>

 今日の疲れもなんのその。俺達肉体労働者は美味いものを食って酒を飲んでいれば癒されるのである。

 そしてそこからしばらく運送業は上手く行っていたのだがある日の休み――