そして翌日。
「まあ、生きているお魚はこんな姿をしているんですのね」
「うむ。私は昔、父と釣りに行ったことがあるから知っているがな」
リーザ様は生粋のお嬢様だったようで、魚は切り身で泳いでいたと思っていたらしい。現代にもこういう人は居るので、お城から出なさそうな人ならあり得そうだなと苦笑しながら市場を回る。
「でけぇ……マグロかありゃ。トロの部分が美味いんだよな」
「おお、お目が高いね! 揚がったばかりだぜ、解体したら買うかい?」
「解体、ですか?」
「マグロはこの通りでかいから、捌くというより解体だ。昔、俺も見たことあるけど豪快だったぜ。ソリッド様、これは一見の価値がありますよ」
「ほう、それは興味深いな」
「へ、陛下……!? が、頑張ります!!」
丁度その時間からクロマグロっぽい巨大な魚を解体する予定だったらしい。早速漁師三人で解体し始め、騎士達からも感嘆の声があがる。俺達はその間にもう少し魚を買うかと市場を巡ることにした。
やはり基本的に向こうの世界と同じなのであまり間違うことも無いのは助かる。
鰤や鰆、鮭に鰻などなど、昨日とはまったく違う姿で俺達を迎え入れてくれた市場は凄く活気があった。
人も多いし、ハアタの両親の姿もあり、手を振って挨拶をしておく。
「わふ……わん!」
「あ、こら、手を突っ込むな。サリア、抱っこしておいてくれ」
「ですね。ほら、わんちゃんこっちよ」
「すみません」
「野良猫とかよく来るからな! そのくらいなら気にしないよ」
生け簀に身を乗り出して魚に手を出しているのを見て慌てて引っ込めさせた。店の親父さんに謝って適当に鮭を買ってその場を離れた。
イカにエビ、各種切り身と魚そのもの。それとマグロの赤身と背中部分を買ってほくほく顔で市場を後に。
すると、昨日は無かったテントが建っていてそこで飯を食わせてくれるようだった。
「飯を食わせてくれるのか?」
「え、ええ。そういう場所ですけど」
「すまない、陛下と王妃様が所望している。席を一つもらえないだろうか?」
「ど、どうぞこちらへ……。な、なぜ国王様が……」
もちろんソリッド様がそれに反応し、すぐにテントは騎士達に取り囲まれた。朝の和やかな空気が一瞬で物々しい雰囲気に変わってしまい、少し同情する。
「刺身で食えるのはすげえな。寄生虫は大丈夫なのか?」
「お、兄ちゃん知っているのか。やるな。その辺も処理しているぜ! 人間、食い物は生きるために必要だが、それ以上に貪欲だよな!」
「違いない。なんでも食えるようにするもんな。毒の魚でもさ」
「そんなの食べるの!?」
サリアがびっくりして可愛い。河豚は見なかったが鰻は食おうと思わないと思うんだよな。まあ、そういうもののようで安かったけど。
さてここは海鮮丼と炭火焼の店みたいだが、やはり新鮮な内に食べられるということで海鮮丼が人気のようだ。醤油は無いが、それに近いものを店主が持っていて――
「おお、これは悪くねえ……刺身に合う調味料だな。醤油っぽい」
「なんだショーユって?」
「ああ、気にしないでくれ」
あんまり余計なことを言うと話が長くなりそうなので適当に話を打ち切ってどんぶり飯を口にする。
グルメばかりでそろそろまずいなと思い始めたころ、ソリッド様達も満足したようで王都へ帰ると言いだした。とりあえず了承し、お土産を見繕って帰路につくことになった。
「またお越しください」
「ああ、このトラックが魚を運ぶかもしれんから、その時はよろしく頼むぞ」
「ええ。ヒサトラさん、次に会う時はビジネスですな」
町長のチリュウさんと握手をしてトラックへ乗り込むと、数人の漁師さん達と一緒に見送ってくれ、港町オールシャンを後にした。
「結局この子の飼い主は見つかりませんでしたね」
「わおん?」
「市場の人とかにも聞いたけど、居なかったよな。町で迷子犬の話もないし」
一応、市場とチリュウさん経由で探してもらったが居ないようなので、サリアの鶴の一声で連れてくることになった。あまり犬を飼っているという裕福層は町に居ないため、多分野良であろうとのこと。
「まあ、もし居れば手紙をもらうよう言ってあるから気にしないでいいのではないか?」
「ですねー。名前つけるか?」
「帰ってからにしましょう! 洗ってあげないとですね」
「ふふ、小さい子というのは人間も犬も可愛いものですね。ウチの息子も――」
「待ってくださいリーザ様。……サリア、後ろはどうなってる?」
と、リーザ様が口にしたところで後ろの騎士達がざわめく声が聞こえてきたのでサリアにが小窓を開けて声をかけてもらう。
「どうしました!」
「後ろから黒い塊が追ってきている! 魔物だ、振り切れるかヒサトラさんに聞いてくれ!」
「ヒサトラさん!」
「聞こえてた! ……なんだ、ありゃ!?」
ナビの電源を入れてバックミラーを確認すると、黒い塊が激走してくるのが見えて俺は驚く。ナビの後方カメラに変えてみるとその巨体がわかる。トラックとほぼ同じくらいあるぞ……!
「シートベルトをしてください! 飛ばします!」
「わんわん!」
「大人しくしててね!」
アクセルを踏むと子犬がびっくりしたのか吠え始めたのでサリアが抱っこして体を固定。後ろの騎士が剣を抜いているがコンテナを閉じるよう指示しハンドルを操作する。
「速ぇ!?」
「ヒサトラ、速いぞ! ……トラックが!?」
「知ってますよ!? スピード出してますから喋らないでくださいよ!」
ソリッド様達は80kmを出しているトラックに驚くが、黒い塊はあっという間に接近。これに追いつくか!?
その瞬間、トラックの後方に体当たりをしたのかコンテナ部が大きく揺れた。
【グォォォォ……!!】
なんか叫んでいるな。怒ってんのか? しかしここで振り切ってやるぜ……!!
「スキルとやらは動いてんだろうな……!」
「だ、大丈夫みたい!」
あまり揺れがないから大丈夫だという。
確か【伝説のデコトラ】だったっけか? 横転しないんだったな……。
「騎士さん達! ちょっと揺れるが我慢してくれよ!」
「お、おお!?」
俺は並走してきたでかい何かに体当たりを仕掛けることにした。
状況が許されるなら、と試してみたところトラックにもダメージは無く大きく揺れもしなかったのでそのまま続けることにした。
「っしゃ! 根比べだ、どっちがつええかハッキリさせてやんぜ!」
「まあ、生きているお魚はこんな姿をしているんですのね」
「うむ。私は昔、父と釣りに行ったことがあるから知っているがな」
リーザ様は生粋のお嬢様だったようで、魚は切り身で泳いでいたと思っていたらしい。現代にもこういう人は居るので、お城から出なさそうな人ならあり得そうだなと苦笑しながら市場を回る。
「でけぇ……マグロかありゃ。トロの部分が美味いんだよな」
「おお、お目が高いね! 揚がったばかりだぜ、解体したら買うかい?」
「解体、ですか?」
「マグロはこの通りでかいから、捌くというより解体だ。昔、俺も見たことあるけど豪快だったぜ。ソリッド様、これは一見の価値がありますよ」
「ほう、それは興味深いな」
「へ、陛下……!? が、頑張ります!!」
丁度その時間からクロマグロっぽい巨大な魚を解体する予定だったらしい。早速漁師三人で解体し始め、騎士達からも感嘆の声があがる。俺達はその間にもう少し魚を買うかと市場を巡ることにした。
やはり基本的に向こうの世界と同じなのであまり間違うことも無いのは助かる。
鰤や鰆、鮭に鰻などなど、昨日とはまったく違う姿で俺達を迎え入れてくれた市場は凄く活気があった。
人も多いし、ハアタの両親の姿もあり、手を振って挨拶をしておく。
「わふ……わん!」
「あ、こら、手を突っ込むな。サリア、抱っこしておいてくれ」
「ですね。ほら、わんちゃんこっちよ」
「すみません」
「野良猫とかよく来るからな! そのくらいなら気にしないよ」
生け簀に身を乗り出して魚に手を出しているのを見て慌てて引っ込めさせた。店の親父さんに謝って適当に鮭を買ってその場を離れた。
イカにエビ、各種切り身と魚そのもの。それとマグロの赤身と背中部分を買ってほくほく顔で市場を後に。
すると、昨日は無かったテントが建っていてそこで飯を食わせてくれるようだった。
「飯を食わせてくれるのか?」
「え、ええ。そういう場所ですけど」
「すまない、陛下と王妃様が所望している。席を一つもらえないだろうか?」
「ど、どうぞこちらへ……。な、なぜ国王様が……」
もちろんソリッド様がそれに反応し、すぐにテントは騎士達に取り囲まれた。朝の和やかな空気が一瞬で物々しい雰囲気に変わってしまい、少し同情する。
「刺身で食えるのはすげえな。寄生虫は大丈夫なのか?」
「お、兄ちゃん知っているのか。やるな。その辺も処理しているぜ! 人間、食い物は生きるために必要だが、それ以上に貪欲だよな!」
「違いない。なんでも食えるようにするもんな。毒の魚でもさ」
「そんなの食べるの!?」
サリアがびっくりして可愛い。河豚は見なかったが鰻は食おうと思わないと思うんだよな。まあ、そういうもののようで安かったけど。
さてここは海鮮丼と炭火焼の店みたいだが、やはり新鮮な内に食べられるということで海鮮丼が人気のようだ。醤油は無いが、それに近いものを店主が持っていて――
「おお、これは悪くねえ……刺身に合う調味料だな。醤油っぽい」
「なんだショーユって?」
「ああ、気にしないでくれ」
あんまり余計なことを言うと話が長くなりそうなので適当に話を打ち切ってどんぶり飯を口にする。
グルメばかりでそろそろまずいなと思い始めたころ、ソリッド様達も満足したようで王都へ帰ると言いだした。とりあえず了承し、お土産を見繕って帰路につくことになった。
「またお越しください」
「ああ、このトラックが魚を運ぶかもしれんから、その時はよろしく頼むぞ」
「ええ。ヒサトラさん、次に会う時はビジネスですな」
町長のチリュウさんと握手をしてトラックへ乗り込むと、数人の漁師さん達と一緒に見送ってくれ、港町オールシャンを後にした。
「結局この子の飼い主は見つかりませんでしたね」
「わおん?」
「市場の人とかにも聞いたけど、居なかったよな。町で迷子犬の話もないし」
一応、市場とチリュウさん経由で探してもらったが居ないようなので、サリアの鶴の一声で連れてくることになった。あまり犬を飼っているという裕福層は町に居ないため、多分野良であろうとのこと。
「まあ、もし居れば手紙をもらうよう言ってあるから気にしないでいいのではないか?」
「ですねー。名前つけるか?」
「帰ってからにしましょう! 洗ってあげないとですね」
「ふふ、小さい子というのは人間も犬も可愛いものですね。ウチの息子も――」
「待ってくださいリーザ様。……サリア、後ろはどうなってる?」
と、リーザ様が口にしたところで後ろの騎士達がざわめく声が聞こえてきたのでサリアにが小窓を開けて声をかけてもらう。
「どうしました!」
「後ろから黒い塊が追ってきている! 魔物だ、振り切れるかヒサトラさんに聞いてくれ!」
「ヒサトラさん!」
「聞こえてた! ……なんだ、ありゃ!?」
ナビの電源を入れてバックミラーを確認すると、黒い塊が激走してくるのが見えて俺は驚く。ナビの後方カメラに変えてみるとその巨体がわかる。トラックとほぼ同じくらいあるぞ……!
「シートベルトをしてください! 飛ばします!」
「わんわん!」
「大人しくしててね!」
アクセルを踏むと子犬がびっくりしたのか吠え始めたのでサリアが抱っこして体を固定。後ろの騎士が剣を抜いているがコンテナを閉じるよう指示しハンドルを操作する。
「速ぇ!?」
「ヒサトラ、速いぞ! ……トラックが!?」
「知ってますよ!? スピード出してますから喋らないでくださいよ!」
ソリッド様達は80kmを出しているトラックに驚くが、黒い塊はあっという間に接近。これに追いつくか!?
その瞬間、トラックの後方に体当たりをしたのかコンテナ部が大きく揺れた。
【グォォォォ……!!】
なんか叫んでいるな。怒ってんのか? しかしここで振り切ってやるぜ……!!
「スキルとやらは動いてんだろうな……!」
「だ、大丈夫みたい!」
あまり揺れがないから大丈夫だという。
確か【伝説のデコトラ】だったっけか? 横転しないんだったな……。
「騎士さん達! ちょっと揺れるが我慢してくれよ!」
「お、おお!?」
俺は並走してきたでかい何かに体当たりを仕掛けることにした。
状況が許されるなら、と試してみたところトラックにもダメージは無く大きく揺れもしなかったのでそのまま続けることにした。
「っしゃ! 根比べだ、どっちがつええかハッキリさせてやんぜ!」