「むう……」
「あはは、大人数になりましたね」
苦笑するサリアと難しい顔をする俺の目の前には、ソリッド様達と騎士達が座る丸テーブルがずらりと並んでいた。
浜辺でパーティの方が大勢でも対応できるという言い訳をしていたが、当てはまっているとも言える。
で、俺達はというと少し中央から離れたところで注目を集めていた。
まあ、異世界の料理ということでそれは仕方ないということにしておこう。
「さて、油があったまって来たな。後は揚げるだけだからそんなに難しいもんじゃない。サッとやるぞ」
「はーい!」
下ごしらえしたアジをさっと油の中へ投入するとじゅわっといい音が聞こえてくる。
浜辺に灯りはないがトラックを回してヘッドライトをつけてそれを改善。これでかなり明るくなった。本来なら軽油とバッテリーを使うが、このトラックは俺の魔力のようなので気にしないで照らすことができるのだ。
「まずはひとつっと」
揚げ物は音で判断する。
アジをからっと揚げた後、少し待ってから貝、エビと投入していく。早く入れすぎると油の温度が下がった状態で揚げることになり、サクサク触感が失われるから難しい所以である。
トングでサリアの持つお皿に載せていくとパン粉の匂いが鼻を刺激し、腹が鳴る。
とりあえず食べる分だけ揚げてから晩飯に入るとしよう。
「ご飯です」
「おう、サンキュー。醤油はねえが、ソースで食えば問題ないぜ」
「いただきます♪」
欲を言えばタルタルソースかマヨネーズがあると完璧だが、ソースで十分だ。ウスターソースに近いやつを選んであるからアジフライにはよく合う。……もちろん好みは人それぞれだが。
早速アジフライを噛むと、サクッとした食感の後にふわりとしたアジの身が口の中で崩れてソースやパン粉とまじりあい旨味が広がっていく。
「美味しい! お菓子みたいな感じに見えたけど、ご飯のおかずになりますね」
「だろ? 新鮮な魚だからさらにうめえ。天ぷらも試してみたいなこりゃ。こっちの世界の魚は向こうと似ているし、レシピが捗るな」
「エビフライ……好きかも……」
喜んでくれてなによりだ。
基本的に料理はサリアに任せていたからこうやって向こうの料理を作るのは初めてだったりする。特に不満もねえしな。
だけど、たまには日本で食っていたおかずを食いたいという思いはあったのだ。
貝のフライはホタテだと嬉しいが、ハマグリフライも悪くない。
「ん?」
すると背後に気配がして振り返ると、皿を手にした毒見役の人が幽鬼のような顔で立っていた。
「うおお……!? な、なんです?」
「毒見を……」
「いや、必要ないし食べたいだけだろ!? ……いや、そうでもないのか?」
ソリッド様はちゃんとコース料理みたいなのを食べているみたいだが、恨みがましい目をこちらに向けている……。
まあ、まだ魚はあるし一匹ずつくらいはいいかと揚げたてのフライ一式を乗せてやると――
「んま!? ソースにめちゃ合うぞ!」
「ほう……いいなこれは……」
いいなじゃねえよ。尻尾しか残っていねえ。
女性の毒見役の人はなんかカッコいい、キリっとした感じだったのにガッカリである。
仕方なくもう一度揚げてから渡してやると、嬉々としてソリッド様達へ持って行き、
「うおおお! これは美味い……!! しかし……ヒサトラ、わたし達の分はこれだけか!?」
「知りませんよ!? どうせ途中で食ったんじゃないですかね!」
ったく、食事くらい静かにさせてくれよと思いつつ、もう一枚アジフライを食べようと思い皿に目を向けると――
「わふ……わふ……」
「おう!? いつの間に!?」
「あら、子犬?」
どこから現れたのか、俺の皿からアジとエビのフライをひったくったようで紫の毛をした子犬が美味そうに頬張っていた。
「一生懸命食べてる、可愛いですね」
「どっから来たんだ? 飼い犬って訳じゃなさそうだけど……」
「くぅーん」
「まだ足りないみたい」
「生意気な……」
尻尾を振っておすわりをし、俺におかわりを要求してくる子犬。
あんまり野良犬にご飯をあげると困るが……なんか憎めない顔をしているし、少しくらいならいいかと食べさせてやる。
「わふーん……」
「気に居られたみたいね、ヒサトラさん」
「こいつ、呑気な顔してるなあ」
ひとしきり食った後、俺の膝に飛び乗って腹を見せてきた子犬。人懐っこいから飼われていたのだろうか? だとしたら飼い主に悪いなと思いながら腹を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らす。
「可愛いです! 野良だったら飼いたいなあ」
「まあトラックなら寝台に載せてたら連れ回せるからいいと思うけど……こいつ飼い犬だぞ」
「うう……名前ももう考えていたのに……」
珍しくサリアが我儘を口にしたので飼ってもいいかなとも考える。
ここに置いて逃げなければ周辺の人に聞いてみて、飼い主が居なさそうなら連れて帰るかね?
「おおーい、ヒサトラ、もうフライとやらは無いのか?」
「あ、まだ食べます? 食材がもうちょっとだけありますから揚げましょうか」
「頼む……!!」
「陛下、我々にもチャンスを……!!」
騎士達が抗議の声を上げ、結局じゃんけんで残りのフライも消えてしまった。
この後、ハアタとミアの店に飲みに行くので、その土産分を確保していたのは良かったぜ……
「わふ~ん……」
「うふふ、おねむですかー?」
「さて、そんじゃ片付けてハアタの店へ行くか。飲み屋だって言ってたからちょっと飲もうぜ」
「あ、いいですね! この子はどうします?」
「このまま置いていくよ。飲食店に動物はさすがにダメだ。もし帰って来てもまだ居たら飼い主が居ないか探してみよう。もし捨て犬だったら飼うか」
俺がそういうとサリアは笑顔になり、俺の腕に抱き着き店にむかって歩きだす。明日は市場巡りだし、あんまり飲まないようにするか。
「む、どこへ行くのだ?」
「ちょっと昼に飯を食った店に……飲み屋らしいので」
「あら、いいですわね。庶民のお酒を飲むところ、興味あるわ」
「「「ですね」」」
騎士達はおこぼれに預かりたいだけだろうが……
まあ、店を見て帰るかもしれないし、とりあえず連れてくか。
「あはは、大人数になりましたね」
苦笑するサリアと難しい顔をする俺の目の前には、ソリッド様達と騎士達が座る丸テーブルがずらりと並んでいた。
浜辺でパーティの方が大勢でも対応できるという言い訳をしていたが、当てはまっているとも言える。
で、俺達はというと少し中央から離れたところで注目を集めていた。
まあ、異世界の料理ということでそれは仕方ないということにしておこう。
「さて、油があったまって来たな。後は揚げるだけだからそんなに難しいもんじゃない。サッとやるぞ」
「はーい!」
下ごしらえしたアジをさっと油の中へ投入するとじゅわっといい音が聞こえてくる。
浜辺に灯りはないがトラックを回してヘッドライトをつけてそれを改善。これでかなり明るくなった。本来なら軽油とバッテリーを使うが、このトラックは俺の魔力のようなので気にしないで照らすことができるのだ。
「まずはひとつっと」
揚げ物は音で判断する。
アジをからっと揚げた後、少し待ってから貝、エビと投入していく。早く入れすぎると油の温度が下がった状態で揚げることになり、サクサク触感が失われるから難しい所以である。
トングでサリアの持つお皿に載せていくとパン粉の匂いが鼻を刺激し、腹が鳴る。
とりあえず食べる分だけ揚げてから晩飯に入るとしよう。
「ご飯です」
「おう、サンキュー。醤油はねえが、ソースで食えば問題ないぜ」
「いただきます♪」
欲を言えばタルタルソースかマヨネーズがあると完璧だが、ソースで十分だ。ウスターソースに近いやつを選んであるからアジフライにはよく合う。……もちろん好みは人それぞれだが。
早速アジフライを噛むと、サクッとした食感の後にふわりとしたアジの身が口の中で崩れてソースやパン粉とまじりあい旨味が広がっていく。
「美味しい! お菓子みたいな感じに見えたけど、ご飯のおかずになりますね」
「だろ? 新鮮な魚だからさらにうめえ。天ぷらも試してみたいなこりゃ。こっちの世界の魚は向こうと似ているし、レシピが捗るな」
「エビフライ……好きかも……」
喜んでくれてなによりだ。
基本的に料理はサリアに任せていたからこうやって向こうの料理を作るのは初めてだったりする。特に不満もねえしな。
だけど、たまには日本で食っていたおかずを食いたいという思いはあったのだ。
貝のフライはホタテだと嬉しいが、ハマグリフライも悪くない。
「ん?」
すると背後に気配がして振り返ると、皿を手にした毒見役の人が幽鬼のような顔で立っていた。
「うおお……!? な、なんです?」
「毒見を……」
「いや、必要ないし食べたいだけだろ!? ……いや、そうでもないのか?」
ソリッド様はちゃんとコース料理みたいなのを食べているみたいだが、恨みがましい目をこちらに向けている……。
まあ、まだ魚はあるし一匹ずつくらいはいいかと揚げたてのフライ一式を乗せてやると――
「んま!? ソースにめちゃ合うぞ!」
「ほう……いいなこれは……」
いいなじゃねえよ。尻尾しか残っていねえ。
女性の毒見役の人はなんかカッコいい、キリっとした感じだったのにガッカリである。
仕方なくもう一度揚げてから渡してやると、嬉々としてソリッド様達へ持って行き、
「うおおお! これは美味い……!! しかし……ヒサトラ、わたし達の分はこれだけか!?」
「知りませんよ!? どうせ途中で食ったんじゃないですかね!」
ったく、食事くらい静かにさせてくれよと思いつつ、もう一枚アジフライを食べようと思い皿に目を向けると――
「わふ……わふ……」
「おう!? いつの間に!?」
「あら、子犬?」
どこから現れたのか、俺の皿からアジとエビのフライをひったくったようで紫の毛をした子犬が美味そうに頬張っていた。
「一生懸命食べてる、可愛いですね」
「どっから来たんだ? 飼い犬って訳じゃなさそうだけど……」
「くぅーん」
「まだ足りないみたい」
「生意気な……」
尻尾を振っておすわりをし、俺におかわりを要求してくる子犬。
あんまり野良犬にご飯をあげると困るが……なんか憎めない顔をしているし、少しくらいならいいかと食べさせてやる。
「わふーん……」
「気に居られたみたいね、ヒサトラさん」
「こいつ、呑気な顔してるなあ」
ひとしきり食った後、俺の膝に飛び乗って腹を見せてきた子犬。人懐っこいから飼われていたのだろうか? だとしたら飼い主に悪いなと思いながら腹を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らす。
「可愛いです! 野良だったら飼いたいなあ」
「まあトラックなら寝台に載せてたら連れ回せるからいいと思うけど……こいつ飼い犬だぞ」
「うう……名前ももう考えていたのに……」
珍しくサリアが我儘を口にしたので飼ってもいいかなとも考える。
ここに置いて逃げなければ周辺の人に聞いてみて、飼い主が居なさそうなら連れて帰るかね?
「おおーい、ヒサトラ、もうフライとやらは無いのか?」
「あ、まだ食べます? 食材がもうちょっとだけありますから揚げましょうか」
「頼む……!!」
「陛下、我々にもチャンスを……!!」
騎士達が抗議の声を上げ、結局じゃんけんで残りのフライも消えてしまった。
この後、ハアタとミアの店に飲みに行くので、その土産分を確保していたのは良かったぜ……
「わふ~ん……」
「うふふ、おねむですかー?」
「さて、そんじゃ片付けてハアタの店へ行くか。飲み屋だって言ってたからちょっと飲もうぜ」
「あ、いいですね! この子はどうします?」
「このまま置いていくよ。飲食店に動物はさすがにダメだ。もし帰って来てもまだ居たら飼い主が居ないか探してみよう。もし捨て犬だったら飼うか」
俺がそういうとサリアは笑顔になり、俺の腕に抱き着き店にむかって歩きだす。明日は市場巡りだし、あんまり飲まないようにするか。
「む、どこへ行くのだ?」
「ちょっと昼に飯を食った店に……飲み屋らしいので」
「あら、いいですわね。庶民のお酒を飲むところ、興味あるわ」
「「「ですね」」」
騎士達はおこぼれに預かりたいだけだろうが……
まあ、店を見て帰るかもしれないし、とりあえず連れてくか。