「おまちどう! サバの塩焼きにサザエのつぼ焼き、ヒラメの刺身と漁師汁だ!」
「お!!」
「これが海のお魚なんですね」

 炭火で焼いたサバには脂が程よくのっていて厚みもある。サザエも向こうじゃあまり見ないくらいの大きさで、まさかヒラメの刺身があるとは思わなかった。

「サバは塩焼きだけど、サザエと刺身はなにで食べるんだ?」
「塩だ!」
「ああ、そうか醤油はないのか……」
「しょうゆー?」

 ミアがテーブルの横にくっついて俺を見上げながら首を傾げて俺に言う。可愛い。こういう子供が欲しいなと思うくらい純真な目をしている。

「俺の世界の調味料なんだ、刺身には山葵と醤油がいいんだけどこの世界には無いのかな?」
「聞いたことがねえなあ。お前、知ってるか?」
「いや、町長とかなら知っているかもしれないけど……」

 ふむ、積み荷の中に調味料があったような気もするがどうだったかな?
 ほら、お中元とかのサラダ油セットみたいな貰っても持て余してしまうような詰め合わせあるだろ? ああいうので調味料セットがあったと思うんだ。
 とりあえず今日のところは郷に入っては郷に従え、こっちの世界流の食べ方でいただくとしよう。

「どれ……」
「もぐもぐ……」
「む……!」

 サバの塩焼きは予想通りいい脂がのっていて、塩加減も間違いない。一口でご飯何杯いけるだろう。
 日本人には米、焼き魚が似合うというのが良く分かる。漁師汁は魚の出汁のみで味噌はないのが残念だ。しかし出汁がよく出ているので、美味い。

「こうやって食べるんだよ、ねえちゃん!」
「面白いですねえ。はふはふ……」
「サザエも美味いな」
「へへ、いいだろ」

 コリコリとした触感で居酒屋で食べるものと同じだな、と思う。日本酒が欲しくなるとような味だと思いつつヒラメの刺身も塩でさっと食べてみる。

「やはり酒が欲しくなる逸品だな」

 と、これも間違いない代物だった。

「美味いな、親父さん。これは間違いねえよ」
「嬉しいねえ、こんなボロ屋で申し訳ないけど味は良かったろ?」
「ああ。サリアはどうだ?」
「お刺身はちょっと苦手かもしれませんけど、焼き魚はとても美味しかったです!」

 きちんと苦手なものは苦手というのはサリアのいいところだと思う。苦手な食べ物があるのは仕方ない、俺もこんにゃくは苦手だしな。
 そんな話をしながら食し、満腹になった俺達は椅子にもたれかかって一息つく。

「ふう……美味かった。にしてもお客さんが少ないな」
「まあウチは昼よりも夜だからな。……あんまり儲かってねえのも事実だがな! はははは!」
「だからボロいのか? いや、逆にここは建て直した方が客が増えるんじゃねえかな」
「ありがたいことを言ってくれるけど、そこまで金が無いんだよ。残念だけどね」

 悲観はしていないけど、勿体ない気もするなあ。
 しかし他人の家の経営に口を出すのははばかられるし、これ以上は追及しないでおこう。

「いくらだい?」
「二人で銀貨20枚だ」
「オッケー」

 財布から二人分の銀貨を出して支払う。日本円にして二千円なら、まあまあってところか。
 原価がいくらか分からないけど、ご飯と汁物に三品あったからまあ安いかな?

「気が向いたら酒を飲みに来るよ」
「お、そうかい? そりゃありがたいね!」
「で、ちと聞きたいんだが魚を売っている市場はどこにある?」
「ん? 魚が欲しいのか、ならこの店を出て右に真っすぐ歩きな、そしたら市場が広がってるぜ。まあ昼を過ぎているからもうロクな魚は残っていないだろうけどな」
「確かに。ま、散歩がてら行ってみるよ。ハアタ、ミアありがとうな。おかげで美味いもんが食えたぜ」
「おう! サンキューな、あんちゃん!」
「さんきゅー!!」

 俺達は店を後にすると、言われた通り市場に向かって歩き出す。少し歩いたところでサリアがボロい店を振り返ってから俺の袖を掴んでいた。

「ちょっと勿体ないですね。もっと店構えが良かったら人が入りそうなのに、地元民しか使って無さそうな感じがします」
「ま、確かにそうだな。だけど、あれで楽しそうだったしいいんじゃねえか? 一家で頑張ってるって感じがするよ」
「そうですねえ。ちょっとああいうのには憧れるかも」
「はは、俺も年を食ったらトラックに乗れるかわからねえし、料理屋もいいかもしれねえな」

 一人暮らしはしたことがないが母ちゃんは仕事で忙しかったから料理は俺もやっていた。だからフライや天ぷら、ハンバーグなんかも作ることできる。

 ……それくらいでしか返せなかったしな俺は。

 それはともかく、散歩がてらに言われた方に歩いて行く。
 すると程なくして市場らしきところが見えてきた。そこは運動会なんかで使いそうなテントがずらりと並ぶ壮観な場所だった。
 少しのぞいてみたところ、きちんと生け簀があり、直接海水を引く水道を作っているようだ。獲った魚を新鮮なまま置けるという工夫がされていて、お向かいさんのテントにもきちんと引いている。

 水を入れる場所と排水が別の場所にあるようで、衛生面も考えられている。
 肝心の魚はというと……

「全然いねえな」
「やっぱり朝なんですかね、冒険者の依頼みたいで」
「仕入れが向こうの世界と同じならそうだろうな。まあ、でかい魚じゃなければあるみたいだし適当に買っていくかな」

 さっきのサバもそうだがアジやキスといった向こうと同じ名前と形をしているのでだいたい分かるのが嬉しい。
 刺身で食えるのも分かったし、とりあえずコンテナに入れておくとするか。