「さて、早速で悪いが君のことを話したいと思う。トライドから聞いた話では、いま君はあの鉄の乗り物を駆って運送業をしているそうだな。で、目的のために王都で情報を集めたい、と」
「そうですね。ご存じかと思いますが俺は異世界人です。で、恐らく一年以内に俺の母親も召喚されるんですが、向こうの世界でも特に治療が難しい病に侵されているんです。そのためこっちの世界に不治の病を治す薬がないか情報を知りたいと考えています。王都の方が人は多いということで、できれば移り住みたいと考えています」

 聞かれたことにハッキリ返答をする。
 これは最初から決めていたことなので淀みなくスラスラと口から出すことができた。
 移住に関しては、通常なら町へ行って申請すれば問題ないんだけど、トラックという異質なものがあるのでソリッド様にお伺いを立てないといけないってわけだ。
 まあ、要するに今は面接みたいなもんだな。
 
「なるほど、母親が……それは何故わかるのかね?」
「っと、それは……」

 女神ルアンが、と言いたいところだがそれは話していいものだろうか……? 少し考えていると、サリアが袖を引っ張って耳打ちをしてくる。

「(ヒサトラさん、ここは女神様のことを話してもいいと思います。実際ここにトラックがあるのは事実ですし、それならお母様のことも説明がつきます。それとこの国はルアン様を信仰しているので、悪い方向にはいかないかと)」
「(そ、そうか?)」

 まあサリアがそう言うのならと、俺はここに来た経緯を話すことにした。他の人間がトラックを動かせない以上、ルアンが実在するかどうかについて調べる方法が無いしな。

「他言無用でお願いしたいのですが、よろしいですか?」
「私の口はかなり固い。安心してくれたまえ」
「……俺がこの世界に来たのは女神ルアンによって送り込まれたからです」
「!? ……続けたまえ」
 
 頷いた俺は送り込んだルアンと実際に話すことができたこと、元の世界には戻れないこと、トラックと俺は一心同体で他の誰にも動かすことができないなどの秘密をソリッド様だけに聞こえるよう小声で語る。
 すると、ソリッド様は目を丸くしながら黙って聞いてくれていた。

「――というわけなんですが」
「……」
「陛下?」

 サリアが声をかけるとソリッド様はハッとして頭を振り、俺に頭を下げた。

「それが本当なら凄いことだ。是非もない、こちらからお願いしたい。王都へ来てもらえないだろうか」
「もちろんお願いします!」
「うむ、ルアン様の導きでやって来た青年が未知の乗り物を駆る……いい、実にいいよ、君ぃ!! よし、トラックには女神様のマークをつけようじゃないか。ルアン様もお喜びになるだろう」
「ま、まあ、大丈夫ですよ」
「お待たせしました、オススメランチになります!」
「ああ、そうだ! 私を王都まで送るのをやって欲しいな、騎士達は後ろに載せて!」
「……これは美味い……」

 そこでお昼ご飯が届き、皿が置かれるがソリッド様は興奮冷めやらぬと喋り続ける。いつの間にかやってきていた毒見役がもくもくと食べているのにも気づいていないようだ。あ、あ、それは食い過ぎじゃねえかな。

「陛下、どうぞ」
「ふうむ、楽しくなってきたぞ! ……お!? 私のランチこれだけ!? これでは足りん、もう一つ持ってくるのだ!」
「また食われるんじゃ……。ってお前等、次の毒見役をじゃんけんで決めてんじゃねえよ!?」
「あ、美味しいですよヒサトラさん、冷めないうちに食べましょう」

 ま、まあ、思った以上に食いついて来てくれたので予定通り王都へ移住できそうだ。
 トライドさん達には世話になったし、なにかしてあげたい気もするが――

 そんなことを考えながら窓の外に目を向けると、空は相変わらずいい天気だった。


 ◆ ◇ ◆

 
「では、少し借りるぞ」
「ええ。ヒサトラ君、待っているぞ」
「はい。お迎えに上がりますよ」
「とらっくに揺られて寝るの癖になるのよね結構」
「ふふ、わたくしはもう向こうへ帰らないので残念ですわ」

 翌日、掃除を行ったトラックのコンテナの水捌けが終わり渇いてソリッド様を送り届けることになった。
 騎士はなんだかんだで全員載せるのは無理だったので、話し合い(物理)の末に数十人が乗ることに。
 ソリッド様はもちろん助手席で、サリアは後ろの寝台に乗ってもらう。この布陣ならトラックを楽しんでもらえるだろう。

 ここから王都までぶっ飛ばして数時間。
 なので、往復しても夜中には絶対ここへ戻ってくる。で、明日ロティリア領へトライドさん達を送り届けることで今回のイベントは終了だろう。

「それじゃ、また明日!」
「うむ、気をつけてな。陛下、またお伺いさせていただきます!」
「兄さん、いいお酒用意しておいてねー」
「我が妹ながら恐ろしいやつ……」

 そんな会話を窓から繰り広げていたが、やがてトラックは町の外へ。ボルボは俺と話したそうだったが、約束があるとギルドへ行ったので帰って来てから少し話すかな。

「シートベルトつけておいてくださいね。後ろはどうですー?」

「心配ない! 少し狭いが、いい景色だ」

 サリアに小窓を開けてもらい確認すると、落ちないようにしている柵の前で興奮気味だった。
 なら大丈夫かと、俺は街道に出た瞬間アクセルを少し強く踏む。

「おお……!? は、速いな」
「ええ、これのおかげですぐに王都まで行けますよ。もう少し速くしましょうか?」
「い、いや、大丈夫だ……ふう、これは凄いな。これがあれば、新鮮な魚を持って帰ることもできるんじゃないか」
「ああ、向こうの世界だと魚を凍らせて運搬を生業にしている者いましたね」
「やはりな! うむ……あそこの魚を食べてみたい……頼むか……?」

 なんだか夢のような話だとぶつぶつ言っていたが楽しそうだった。
 乗り物酔いとは無縁なトラックなので窓を開ければ風を切って気持ちが高揚する。

「よーし、もう少し速いところがみたいな!」
「周りはなにも無いし……いいですよ。サリア、掴まってろよ」
「はーい」

 そして一気にアクセルを踏むと、メーターは一気に90Kmを越えた。

「お、お、お……!? は、速!?」
「これくらいにしておきましょうか、あんまり速いと怖いですよね」
「い、いや! だ、大丈夫だ! やってくれ!」

 何故イキったんだ……?
 なら100Kmまであげてみるかとスピードを上げると――

「あばばばば……」
「ソリッド様ー!?」

 ――やはりというか、ダメだった。

 まあ、他人の車の助手席に乗っていると不安になるのあるよな。あれと同じだろう。

 え? 違う?

 ま、まあ、とりあえず後はゆっくり行くとしようか……