「こ、国王様!? ……あ、結婚式始まるみたいですよ?」
「むう!? それはいかん! 後で会おうヒサトラ君!!」
「ええー……」
「なんで嫌そうなのだ!? ええい、待っておれよ!」

 なんで喧嘩するみたいなノリで言ってくるのか。
 俺は軽く手を振りながらソリッド国王を見送り、とりあえずこの場を切り抜ける。

「なんとなくエレノーラさんの兄って言われたら納得するな。顔も目元が似てたし」

 アグリアスが17歳で彼女を生んだのが20歳だったらしいから奥さんは37歳。兄なら40歳くらいかね?
 もっと若そうに見えるのは兄妹揃って恐ろしいことだが。

「そいつにちょっと乗せてくれよ!」
「お、式が終わるまでならいいぜ」

 俺はトラックを追いかけて来た子供たちの相手をして時間を潰し、サリアお手製の弁当を食してから運転席で待つ。
 実は結婚式に通常の招待客として参加して欲しいと何度も誘われたのだが、マナーも知らないしここは異世界人の俺は身を引かせてくれってことで納得してもらった。

 その分、トラックの運用については我儘を聞いたからこれでトントンだろう。
 
「式は順調そうだな」

 パイプオルガンのような音色が少し離れたところから聞こえてくる。誓いの後はブーケトスに食事と続いて二次会があるかどうかって感じらしい。
 親族はジャンさんの屋敷で寝泊まりするので、俺の部屋の空きはないため宿かトラックだな。
 
「まだ時間がかかるし、大人しく待つか――」


 ◆ ◇ ◆


「ヒサトラさん」
「ん……」
「ヒサトラさん、起きてください。終わりましたよ、結婚式」
「お、おお……? ふあ……サリアか。無事に終わったみてえだな」

 いつの間にか寝ていたらしく、助手席からサリアが俺の身体を揺すって起こしてくれていた。
 あくびをかみ殺しながら視線を前方の外に向けると、ぞろぞろと参列者が出てきているのが見える。

「今から二次会ですよ、お仕事をしましょう♪」
「おっと、コンテナをビアガーデン仕様にしねえと!」

 俺とサリアはさっとトラックを降りて、コンテナのソファを端に置くと今度は二家族分のテーブルセットの用意を始める。
 サリアは昇降機を使わなくてもいいようにコンテナへの階段を設置し、絨毯を広げていた。

 ちなみに式場の庭にある広場のど真ん中にトラックを置いているので、この場所なら他の人たちの様子もうかがうことができるのである。

「よし、コンテナに絨毯も設置したし、後は料理と酒を待つだけだな」
「そうですね。あ、お昼は食べました?」
「おう、美味かったぜ」
「良かったです!」

 設営が終わってサリアと話をしていると、トライドさんが少し赤い顔で俺に声をかけてくる。。

「やあやあヒサトラ君! ご苦労様、これが私達の席かな?」
「ですね。後は食事とお酒が運ばれて来たらいつでも開始できますよ」
「うんうん、君は仕事が出来る男だねえ。では今日の主役を呼んでこないと」

 ちょっと怪しい足取りが心配なので気を付けてと声をかけると、片手を上げて振っていた。意識ははっきりしていそうだ。
 程なくして見知った顔がやってきた。

「やっほー、ヒサトラさん」
「エレノーラさん、お疲れ様です。寝ていないところを見ると、空気を読んだみたいですね」
「まあね! 娘の晴れ舞台で寝るわけにはいかないもの。ああ、そうそう兄さんがヒサトラさんと話したいって言ってたけどもう話した?」
「いえ、さっき式が始まる前にちょっと顔を合わせただけですね」
「あ、そうなのね? なら呼んで来ましょうか」

 いや、こんな目立つところで偉い人と話をしたくないんだけどな……
 事務仕事をしている時に社長が来て話してたらなんか叱られているとか思われてそうって感覚に近いものがある。止めようとしたんだが、国王はすでに近くに来ていたようで、

「やあ、エレノーラ」
「ああ、兄さん。ヒサトラさんに話があるんでしょ?」

 いつの間にかトラックコンテナの上に立っていた。どっから乗ったんだ? というか護衛は?

「そうそう。トライド君とジャン君から聞いているが――」
「はい、すみません! お料理をお持ちしましたので少し移動していただけますか!」
「ああ、すまないね。それで――」
「お酒っす! あ、陛下! どれがいいですか! なんでも揃っていますのでご所望のものがあれば是非!」
「マックリー地方のワイン29年物を頼むよ。毒見役に渡しておいてくれ、代金は後で回す」
「へい!」
「ふう……それでだ――」
「陛下! もうこちらにおられましたか、ちょうど今、主役を連れて来たところですよ、さ、べリアスにアグリアス、こちらへ。陛下とエレノーラさんも」
「ぐぬう……!」

 ……何度か俺に声をかけようとするが、タイミングが悪く、全然話ができないでいた。最終的にジャンさんにまで阻まれ席につくことになってしまった。

「いやあ、陛下って親しみやすいからみんなに好かれているんですよね」
「いい人だと言うことは分かったよ」

 平民相手でも怒鳴ったりしないからな。常識人なんだと思う。だからみんな話しかけてくるんだろう。

 ま、今日は祝いの席だ。俺より、そっちに顔を出して欲しいからあえて声はかけない。
 コンテナの上が一気に騒然となったのを見て苦笑していると、横から袖をひかれて振り返る。

「もう、いいんじゃありませんか?」
「……そうだな。アグリアスとべリアスのところへ行くか」

 サリアがどこかで貰ってきたグラスを手にし、俺はコンテナに上がるのだった。
 今日はもう運転しないし、これくらいはな?