トラックによる散歩を終えた俺達が屋敷に戻ると、庭にまだトライドさん達が残っていた。
 
「いやあ凄かったなあ兄貴!」
「ああ。これは唯一無二だ、自慢できるぞ」

 満足気なベリアスとボルボを降ろすと、やはりニコニコ顔のトライドさんが近づいて来た。

「今日のところは泊っていくつもりだからよろしく頼むよ。エレノーラは屋敷のベッドへ寝かせるとしよう」

 そう言って笑い、サリアと一緒にエレノーラさんを降ろして屋敷へと引き上げていく。
 
「次はもう一度、私と妻もよろしく頼むよ!」
「ええ、喜んで。それじゃ、晩飯はどうするかな。町に出て飯屋でも探すか」
「なにを言うのかね。ボルボの面倒を見てくれたんだ、もちろんウチでごちそうさせてもらうよ」
「いや、でも……」
「いいじゃねぇかあんちゃん! 色々と話も聞きたいしオレからも頼むよ!」

 ボルボも俺の尻を叩きながら笑って食事を促してくる。
 いやあ、町の食事ってのも興味あるんだけど……とか苦笑していると、サリアが俺の手を繋いで引っ張る。

「いいじゃありませんか少しくらい。……もうこんな豪華な食事はできないかもしれませんし……」
「できるよ!? 俺は頑張って働くよ!?」

 何故かサリアが伏し目がちに不穏なことを言う。まあ冗談だと分かっているけどな。
 それじゃあお言葉に甘えて……と、ジャンさんとその奥さんも大層喜んで招いてくれ、俺も晩餐に預かることに。
 
 もちろん俺のことが気になるから話を聞きたいのだろう。だが、今回の遠征はアグリアスとベリアスの結婚についての顔合わせだから両家の話が一番盛り上がった。
 嫁ぐことになると寂しいなとトライドさんと(起きた)エレノーラさんがしみじき呟いていたのは心にくるものがあったな。

「まだお若いですし、もう一人作ってもいいのではありませんか?」
「ははは、それもいいかもしれませんな。それで式の日取りは――」

 そんな話が耳に入る。
 結婚か……日本じゃ生活でいっぱいいっぱいでそれどころじゃないし、出会いも難しい世の中だ。
 俺もヤンキー時代は言い寄ってくる女はいたけど、結婚なんて考えたこともなかった。

「孫の顔が楽しみですね、アグリアスさんとの子ならきっと可愛いわ」
「ありがとうございますお義母様」
「私でも産めたから大丈夫よ」

 ワインを思われるぶどうの香りがするお酒だな。
 それをくいっと口に入れながらそんなことを口にするエレノーラさんの言葉は『確かに』と思わせる。なんせこの短期間で彼女はずぼらだと分かったからな。美人なのに残念である。

「結婚式は『とらっく』を使ったパレードもやろう。両家の町を一周するのはどうだ?」
「大通りくらいならいいですけど、見た感じトラックが入れそうな道はあんまりないですよ?」
「むう、そうか……」

 残念そうなジャンさんには申し訳ないが、できないことはできないと言っておかないと後々トラブルに繋がる。運送の際、無茶な時間割なんかは早めに言っておかないと、なんで出来なかったのかみたいなことになるのだ。

 その後は結婚式の話が盛り上がり、出席者や料理についての話など、込み入った形になってきたので俺は食事を早めに済ませて食堂を出た。

「お前は残っていてもいいんだぞ?」
「いえ、私はヒサトラさんのお世話をするように仰せつかっていますから」
「トラックに戻って寝るだけだぞ?」
「添い寝しましょうか?」

 そういってニコッと笑うサリア。
 銀髪に出るところは出ている身体、スカートから出ている足は白くて艶っぽい……ごくりと唾を飲む音が自分でも聞こえてしまう。

「お前っていくつなんだ?」
「今年で19歳ですね!」
「うっ……!?」

 若い……俺には眩しいよサリア。
 なんか一気にエロい気持ちが消えて俺はフッと笑いながら歩き、トラックへと向かう。
 とりあえずボルボが食事中に両親と笑い合っていたのは良かったなと昼間のことを振り返りつつ、トラックへ乗り込みペットボトルにもらってきた水を飲んでシートにもたれかかった。

「ふう……まだそれほど日は経っていないのに、妙に馴染んだ気がするぜ」
「ヒサトラさんがいい人だからですよ、きっと。旦那様も奥様も、お嬢様も信用されているんだと思います。あ、もちろん私もですよ」
「ま、下手に暴れて捕まったり、処刑なんてされちゃたまんねえからなあ。元の世界に戻れない以上、ここで暮らすしかねえ」
「後はお母様ですね」
「おっと! そうだそうだ!」

 俺がトラックに戻って来たのはルアンに話を聞くためだったことを思い出しカーナビに電源を入れる。
 
 昼間に見た地図が表示された後――

『お、繋がった? あー、あー、テステス……ワレワレハウチュウジ――』
「やかましい」
『あああああああああ!? 揺すらないでぇぇぇ!?』
「相変わらずですねえ」

 サリアが呆れた顔で笑いながら呟くと、目を回しているルアンが表示され、明後日の方向を向いて口を開く。

『ほれで、なにかしら? 魔力が返ってきたから少し話せるわよ』
「誰と話しているんだ……。まあいいや、とりあえず二日、三日あんまり寝ないで走ってみたがガソリンメーターが全然減らなかったぞ?」
『おお……こっち……。それは変ねえ……魔力はヒサトラさんと直結しているから絶対減るはずだけど……?』

 ルアンが手元になにかを取り出して操作しながらぶつぶつ言っていると、不意に目を丸くして口を小さく動かした。

『あ』
「どうした?」
『あ、あはは……ちょっとヒサトラさんの設定を間違えちゃったなー……なんて……』
「どういうことですか?」

 サリアが尋ねると魔力を持たない俺は当然この世界では魔力ゼロだ。
 だから魔力を宿らせるためになにやら設定をするようなのだが、その過程で桁を間違えたらしい。
 トラックを動かすのに必要なガソリンのリッター量が必要魔力になるらしいが、例えば80リッター入るとして、魔力80で動かせ、俺の魔力が100、というような想定で動かす、というものだったらしいが――

「どれくらい、間違えたんだ……?」
『えっと、100倍……!』
「100……!?」
「また無茶な数字だな……身体に影響はないのか?」

 俺が目を細めて聞くと、ルアンが『えへっ』っと嫌な笑みをしながら舌を出した。