ちょっと出かけただけなのに結構なおおごとになってしまったな……。
 そんなこんなで食い物やらをたくさん持って屋敷へ帰ると、トラックの前に両家が勢ぞろいしていた。悪さをする人達ではないと思うけど、何事かと近づいていく。

「トライドさん、お話は終わったんですか?」
「おお、ヒサトラ君、戻ったか! どこかへ行っていたのかね?」
「ちょっとパン屋まで散歩がてら。すみません、こんなに早く戻って来るとは思わなかったもんで……」

 俺が頭を下げると、トライドさんは他の人にトラックを自慢したかったからいいよと笑う。俺のなんだが。
 まあ、自領地で、さらに自分の住む町に珍しいものがあるのは嬉しいのだろう。

 するとジャンさんが俺の後ろに立っていたボルボに気が付いたようで声をかける。

「うん? ボルボじゃないか。どうしたそのケガは!?」
「た、ただいま……親父……母さん」
「大変! 早く治療を」

 ジャンさんと奥さんがボルボを取り巻き、あわあわと慌てていた。
 なんだ、蔑ろにされてなんかいないじゃないか。

「ほら、言うことがあるだろ?」
「あ、うん……親父、母さん。いつも無茶なことばかりして心配させてごめん……!」
 
 すると両親は顔を見合わせて目を丸くする。状況が飲み込めないのは仕方が無いかと俺が一言、おせっかいを口にする。

「こいつ、兄貴が優秀でお二人がそちらに構ってばかりだと思っていましたよ。それで気を引こうとして冒険者ギルドに入ってたらしい。そのあたり、どうですかね?」

 苦笑しながらボルボの頭に手を乗せて口を開くと、両親は首を振りながらため息を吐いた。こいつは呆れているのか、と思ったが――

「うん、まあ確かに無茶をしているな。だが、そういうことだったとは……気づかなくてすまない」
「……ごめんなさい、お兄ちゃんの結婚が決まって浮かれていたわね……」
「親父、母ちゃん……」

 ――どうやら杞憂だったようだ。

「良かったな」
「ですね♪」

 子供に素直に謝れるいい両親じゃないかと俺とサリアが笑っていると、アグリアスとイケメンの兄ちゃんが近づいてくるのが見え、助手席を開けて荷物を置いてから応じる。

「やあ、君が持ち主だってね! まずはアグリアスをゴブリンから助けてくれてありがとう。僕からもお礼を言わせてくれ」
「いや、たまたまですよ。他の人たちも助かっているといいんですが」
「うん、これから捜索と討伐隊を出しているからじきに分かるよ、それにしてもこれはすごいね。これがあれば遠いところでもひとっ飛びなんだよね。あ、僕はベリアスだ、よろしく」
「ヒサトラです。まあ、スピードは出せますし、馬車よりは速いことは確かですね」

 俺達が握手をしながらそんな話をしていると、アグリアスが目を輝かせて大仰に手を広げながら口を開いた。

「ええ、ここに来るまででわたくしは感動しましたわ! 窓を開けて風を受ける感覚……素晴らしい乗り物です! ねえ、お母様」
「くかー……」
「お母様!?」
「はいはい、奥様、トラックの寝台で寝ましょうねー」

 サリアが立ったまま寝ていたエレノーラさんをトラックへ押し込むのを見て、ベリアスは興味深そうにトラックを眺めていた。

「ふむ……やはりトライドさんと話していたことを実行するべきかもしれないな……」
「え?」
「ああ、ちょっと君の仕事についてね。どうだろう、僕も乗せて移動してもらえないだろうか?」
「えっと……」

 俺がトライドさんを見ると、サムズアップしてウインクをしたので『頼む』と言いたいらしい。

「そんじゃ、ちょっとだけ町の外を走りますか。他には誰が乗ります?」
「私が乗る!」
「オ、オレも!」

 ジャンさんとボルボが即座に食いついて来たので助手席の荷物をコンテナに載せようと動かすと、その動きにもいちいち驚愕するのが面白い。

「これが全部荷台か……!? ううむ、これは凄いぞ……」
「でけぇ……なんか箱がいっぱいあるな、ヒサトラのあんちゃん」
「ああ、向こうの世界の荷物だな。整理しないといけないんだが、とりあえずここに来たんだよな。戻ったら倉庫にでも入れるつもりだ」

 寝台のエレノーラさんはそのままでいいとトライドさんが言い、サリアが付きそいに乗りこんだ。ボルボ、ベリアスが乗ってトラックは出発。

「おお、領主様!」
「あのでかいのに乗ってるぞ」
「はっはっは!」

 窓から町の人達に手を振りサービスをするジャンさん。みんなが注意してくれたおかげですんなり門まで到着し、たくさんの人に見送られながら外に出る。来た時と同じく広々とした草原が目に入る。
 とりあえず町から少し離れて周囲を走るかと、アクセルを踏んでハンドルを切った。町がすぐに遠くになるとボルボが興奮し、ベリアスが感嘆の声を小さくあげる。

「すっげー! はええええ!」
「まだアクセルは全然踏んでないけどな。サリア、ちゃんと掴まっていろよ」
「はい、大丈夫ですよ。奥様もよく眠っています」
「だるあーしゅ……」

 謎の呟きは無視だ。
 すると、ベリアスが真面目な顔で俺に話しかけてきた。

「ヒサトラ君、この『とらっく』で定期便をやってみないか? まずはお試しでいい。ロティリア領とこのサーディス領の町の行き来から。どうかな」
「……それは、仕事して頼むってことですか?」
「そうだ。この後ろのコンテナは馬車の荷台よりも頑丈で人も物もたくさん載る。だから単純に君に荷物を預けるだけでなく、商人達を安全に運ぶといった仕事をして欲しいと考えている」

 ……どうやら真面目な話のようで俺もスピードを落として横目で見る。

 確かにこの世界で仕事はしなければならないと考えていたけど大丈夫だろうか? こういう目立つものを使っていると小説なんかだと目を付けられやすいんだが……

「とりあえず町の往復だけならいいんじゃないですか? 森と街道しかないから村人に見つかるってこともないですし。お金は必要ですもの」
「まあなあ」
「オレがあんちゃんのところに行くのに利用したいぜ! そういう人もいるんじゃねえかな?」
「ボルボを助けてくれたヒサトラ君は人間的にも信用できそうだし、お願いしたいね」

 あー、旅行バスみたいな感じな。
 でも実際、金額次第ではアリかもしれない。少し前向きに検討してみるか?