「てんめぇ……やる気か?」
「そう言ってんだ、びびってんのか? 軽くジャブを打っただけだぞ」
俺は構えてステップを踏みながら挑発する。鼻血を出したボルボはサリアに任せておけばいいだろう。
ガラの悪い男は一瞬、面食らっていたがすぐに俺へ向き直りパンチを繰り出してきた。
「そのクソガキを庇うのかよ!」
「そうじゃねえ、てめえの喋っている言葉がムカつくからだ!」
「お、おう……!? ぐえ!? は、速い!?」
パリィングからのワンツーが綺麗に決まり、顔が左右にぶれて鼻血を流す男。
こいつもイキっているが見た目より強くはないな。
「親が子供を愛してねえ、なんてことはないんだよ。俺みたいなクズでも母ちゃんは見捨てなかった。領主なんてストレスのたまりそうな仕事をしている人間がそんなことをするとは思えねえ。だから……適当なこと言ってんじゃねえぞコラぁ!!」
「あんちゃん……」
ボクシング以外も見よう見まねで格闘技を練習して喧嘩に活かしていたし、こういう手合いと戦うこともよくあった。
だが小手先の技術よりも大切なものは――
「ボルボ、喧嘩するときゃ相手の目を見て覚悟を決めろ。そうすりゃ相手がびびってくれるもんだ」
「……! う、うん!」
「こ、こいつ……! くそ!」
「……!? チッ」
「ヒサトラさん!」
近くにあった角材を手にした男が勢いよくそいつをスイングしてきたので俺は慌てて両腕でガード。ヒビくらいは入りそうだったが、自分から後ろに飛んだのでダメージは少ないはず。サリアが声をあげるが、大丈夫アピールをして正面を向く。
「もう許さねえ……! てめぇは病院送りだ」
どうやら角材で戦うつもりらしいな……素手の勝負に得物を持ち込むたぁいい度胸してやがんぜ?
「いいのか、そいつを使ったら洒落にならなくなるぜ?」
「へ、へへ、怖いか? 土下座して謝れば許してやるぜ……」
角材なんかで頭を殴れば下手をすると死ぬ。
もしかしたら重傷を負って日常生活にも支障をきたすかもしれないのに、そいつを脅しで使うのか……。
俺はヤンキーでクズだったが、こういうヤツが大嫌いでよ? 痛い目見せなきゃ気が済まねえんだよな……!!
「……」
「あ、さっきとらっくから降ろしてた棒。ここで使うんですね」
俺が肩からバットケースを降ろすのを見て、サリアが不思議そうな顔で口を開く。
ゆっくりと俺の動作を見ていた周囲の人は気にせず、俺はバットを握り、男を見据えてから一気に駆け出した。
「相手が角材ならこっちは金属バットだ、覚悟しろやぁぁぁ! ……あああああ、速っ!?」
ざりざりとバットを地面にこすり付けながらゆっくり歩いてく首を鳴らし、一気に駆け出すと自分でもびっくりするくらい足が速かった。
「まあいい、食らえや!」
「や、やるってのか!? おう……!?」
頭……ではなく角材に向かって全力でバットを振るう。キレちまったとはいえ、頭はまずい。全体的に命の危険がありそうな本体は狙わず、威嚇のため角材狙いなのだ。
手でも痺れればびびって逃げんだろと思っていると――
「お、折れた……!? あんなに硬そうな角材が一撃で……!」
サリアの言う通り角材は一撃でぶち折れてしまった。俺は尻もちをついた男の胸倉を掴んで、持ち上げてやるとメンチを切って口を開く。
「ひぃっ!?」
「おい、ボルボが弱いのは自分のせいだ。それはいい。だが親父さんがこいつを嫌っているっていうのを憶測で喋るのは止めろや。周りの嘘や吹聴でそう思い込んじまうヤツだっているんだ」
「わ、分かった、俺が悪かった……! か、勘弁してくれ……逃げたこいつが許せなかったんだ」
「そう思うんならこいつが逃げねえように根性つけてやりゃいいじゃねえか。町に住んでる仲間なんだろ?」
「……! ああ……そうだな……」
俺が戦っていた男は取り巻きと一緒にどこかへ歩いていく。それを見て俺はバットを肩に担いで息を吐くと、ボルボが俺の前に回りこんで目を輝かせて言う。
「すっげー! あいつ、Bランクの冒険者なんだぜ、それをびびらせるなんてヒサトラのあんちゃんつええんだな!」
「あいつがどのくらい強いかは分からんけど、まあ俺が勝手にやったことだから気にすんな。それよりお前」
「な、なんだい」
「お前も兄貴がどうとか親父がどうとか腐っているんじゃねえよ。構って欲しいから危ないことをしたりすんだろ? ちゃんと話せ、なにがしてぇのかをよ。俺は母ちゃんに苦労をかけて後悔した。だからお前はそうなるな」
「あんちゃん……ああ、分かったよ!」
俺はボルボの目は卑屈な感じから決意の目に変わったような気がする。頭をくしゃりと撫でたあと、バットを片付けてからサリアに目を向ける。
「んじゃ、そろそろ戻るか。いつトライドさんが戻ってくるか分からないからな」
「そうですね! ちょっと格好良かったですよ」
「お、おい、くっつくなって」
「おう、兄ちゃんいいこと言うじゃねえか。こいつをやるよ! 彼女と仲良くな」
「気に入ったよ、クルミパンもっていきな」
なんか野次馬が集まっていたらしく、次々と俺に食料やらを渡してくきて俺とサリアの手はいっぱいになっていた。
「帰ったらちょっと喧嘩に仕方を教えてくれよ」
「んなもんねえよ。根性だ根性!」
「ええー!?」
素人が教えるよりはちゃんと戦えるやつから教われよと言いながら帰路に着く。
……うーむ、親のことを言われるとやっぱ気になるな……母ちゃん大丈夫かな?
「そう言ってんだ、びびってんのか? 軽くジャブを打っただけだぞ」
俺は構えてステップを踏みながら挑発する。鼻血を出したボルボはサリアに任せておけばいいだろう。
ガラの悪い男は一瞬、面食らっていたがすぐに俺へ向き直りパンチを繰り出してきた。
「そのクソガキを庇うのかよ!」
「そうじゃねえ、てめえの喋っている言葉がムカつくからだ!」
「お、おう……!? ぐえ!? は、速い!?」
パリィングからのワンツーが綺麗に決まり、顔が左右にぶれて鼻血を流す男。
こいつもイキっているが見た目より強くはないな。
「親が子供を愛してねえ、なんてことはないんだよ。俺みたいなクズでも母ちゃんは見捨てなかった。領主なんてストレスのたまりそうな仕事をしている人間がそんなことをするとは思えねえ。だから……適当なこと言ってんじゃねえぞコラぁ!!」
「あんちゃん……」
ボクシング以外も見よう見まねで格闘技を練習して喧嘩に活かしていたし、こういう手合いと戦うこともよくあった。
だが小手先の技術よりも大切なものは――
「ボルボ、喧嘩するときゃ相手の目を見て覚悟を決めろ。そうすりゃ相手がびびってくれるもんだ」
「……! う、うん!」
「こ、こいつ……! くそ!」
「……!? チッ」
「ヒサトラさん!」
近くにあった角材を手にした男が勢いよくそいつをスイングしてきたので俺は慌てて両腕でガード。ヒビくらいは入りそうだったが、自分から後ろに飛んだのでダメージは少ないはず。サリアが声をあげるが、大丈夫アピールをして正面を向く。
「もう許さねえ……! てめぇは病院送りだ」
どうやら角材で戦うつもりらしいな……素手の勝負に得物を持ち込むたぁいい度胸してやがんぜ?
「いいのか、そいつを使ったら洒落にならなくなるぜ?」
「へ、へへ、怖いか? 土下座して謝れば許してやるぜ……」
角材なんかで頭を殴れば下手をすると死ぬ。
もしかしたら重傷を負って日常生活にも支障をきたすかもしれないのに、そいつを脅しで使うのか……。
俺はヤンキーでクズだったが、こういうヤツが大嫌いでよ? 痛い目見せなきゃ気が済まねえんだよな……!!
「……」
「あ、さっきとらっくから降ろしてた棒。ここで使うんですね」
俺が肩からバットケースを降ろすのを見て、サリアが不思議そうな顔で口を開く。
ゆっくりと俺の動作を見ていた周囲の人は気にせず、俺はバットを握り、男を見据えてから一気に駆け出した。
「相手が角材ならこっちは金属バットだ、覚悟しろやぁぁぁ! ……あああああ、速っ!?」
ざりざりとバットを地面にこすり付けながらゆっくり歩いてく首を鳴らし、一気に駆け出すと自分でもびっくりするくらい足が速かった。
「まあいい、食らえや!」
「や、やるってのか!? おう……!?」
頭……ではなく角材に向かって全力でバットを振るう。キレちまったとはいえ、頭はまずい。全体的に命の危険がありそうな本体は狙わず、威嚇のため角材狙いなのだ。
手でも痺れればびびって逃げんだろと思っていると――
「お、折れた……!? あんなに硬そうな角材が一撃で……!」
サリアの言う通り角材は一撃でぶち折れてしまった。俺は尻もちをついた男の胸倉を掴んで、持ち上げてやるとメンチを切って口を開く。
「ひぃっ!?」
「おい、ボルボが弱いのは自分のせいだ。それはいい。だが親父さんがこいつを嫌っているっていうのを憶測で喋るのは止めろや。周りの嘘や吹聴でそう思い込んじまうヤツだっているんだ」
「わ、分かった、俺が悪かった……! か、勘弁してくれ……逃げたこいつが許せなかったんだ」
「そう思うんならこいつが逃げねえように根性つけてやりゃいいじゃねえか。町に住んでる仲間なんだろ?」
「……! ああ……そうだな……」
俺が戦っていた男は取り巻きと一緒にどこかへ歩いていく。それを見て俺はバットを肩に担いで息を吐くと、ボルボが俺の前に回りこんで目を輝かせて言う。
「すっげー! あいつ、Bランクの冒険者なんだぜ、それをびびらせるなんてヒサトラのあんちゃんつええんだな!」
「あいつがどのくらい強いかは分からんけど、まあ俺が勝手にやったことだから気にすんな。それよりお前」
「な、なんだい」
「お前も兄貴がどうとか親父がどうとか腐っているんじゃねえよ。構って欲しいから危ないことをしたりすんだろ? ちゃんと話せ、なにがしてぇのかをよ。俺は母ちゃんに苦労をかけて後悔した。だからお前はそうなるな」
「あんちゃん……ああ、分かったよ!」
俺はボルボの目は卑屈な感じから決意の目に変わったような気がする。頭をくしゃりと撫でたあと、バットを片付けてからサリアに目を向ける。
「んじゃ、そろそろ戻るか。いつトライドさんが戻ってくるか分からないからな」
「そうですね! ちょっと格好良かったですよ」
「お、おい、くっつくなって」
「おう、兄ちゃんいいこと言うじゃねえか。こいつをやるよ! 彼女と仲良くな」
「気に入ったよ、クルミパンもっていきな」
なんか野次馬が集まっていたらしく、次々と俺に食料やらを渡してくきて俺とサリアの手はいっぱいになっていた。
「帰ったらちょっと喧嘩に仕方を教えてくれよ」
「んなもんねえよ。根性だ根性!」
「ええー!?」
素人が教えるよりはちゃんと戦えるやつから教われよと言いながら帰路に着く。
……うーむ、親のことを言われるとやっぱ気になるな……母ちゃん大丈夫かな?