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 時間が経てば忘れるのだろうか。胸が張り裂けそうなほど痛いこの気持ちを。
 時間が経てば忘れるのだろうか。笑い合うだけで満たされる幸せな気持ちを。


 あれからずっと考えているが、どう行動したらいいのか。自分がどうしたいのか。答えは出ないままだった。凛のことを綺麗さっぱり忘れたいのに、それが出来なくて悔しい。

 

 
 諦めの悪い俺は、校内で凜を見かけるたびに話しかけるがすべて無視された。もちろん何十通と送ったメールに返信もない。
 
 無視されても、避けられても、彼女が心配で仕方ない。
 話しかけることを辞めなかった。どうしても諦めたくなかったんだ。
 彼女に本当の笑顔が戻るまでは。
 
 すると、いつからか俺の異名は「告白大魔王」から、「ストーカー」に変更されたという噂が風に乗って流れてきた。

「咲弥ー。俺の女神と喧嘩でもした?」
「だから、いつから大地の女神になったんだよ。凜は」
「親し気に凜とか呼んじゃってさー」
「うるせ」

 いつものようにからかってきた大地は深く息を吸って、真剣なまなざしで言葉を投げかける。

「で? なにがあったんだ? 話しか聞けないけど……。二人で考えればいい案生まれるかもよ?」
「大地……」

 視線を大地に向けると、真面目な顔で深く頷いた。いつもおちゃらけているが、ここぞという時には親身になって話を聞いてくれる。大地はそういう奴だった。

「……やっぱり大丈夫」
「まあ、言いたくなったら言えよ」
「ああ、ありがとうな」
「好きなんだなー。凜ちゃんのこと」
「……別に」

 そうだ。俺は無視されて避けられて「ストーカー」という異名が広がっているというのに、なんで自ら関わろうとしているんだろう。
 凜本人から俺たちの関係は終わりだと遮断されたんだ。
 俺たちの変な関係は終わったんだ。ただそれだけじゃないか。

 そうだよ。俺が首を突っ込んでいい問題の範疇を明らかに超えている。
 面倒ごとは誰よりも嫌いだろ?「めんどくさい」そう思って切り捨てればいいだけなのに、心に重ぐるしいものがのしかかったままだ。

 話しかけようとしてるが、実際、凜と何を話せばいいのだろう。凛が心に抱えている闇をわかってやることはできない。今の現状から救い出すこともできない。自分の不甲斐なさを痛感して辛くなるだけだ。

 だけど。
 だけど、このまま放っておくことはできない。放っておきたくないんだ。

「俺、凜のこと好きなのかな?」
「咲弥、最近の自分の顔鏡で見たか? 凜ちゃんがこなくなってから、表情死んでるよ?」
「……」
「なんか面倒そうだな。だったら、凜ちゃんは諦めて、前みたいにいけそうな子に告白すれば? 彼女乗り換えちゃえよ」
「ばっ! そんなことできるかよ! 俺は凛以外となんて考えてな……」

 大地の挑発とも感じ取れる言葉に勢いよく反発した。ガタっと椅子から立ち上がり前のめりで反論する。
 誰でもいいわけじゃない。凜だから。他の誰でもいいわけじゃない。

 眉間にしわをよせる俺とは対照的に、大地は口角を上げてニヤリと悪戯に笑った。

「分かってんじゃん。自分の気持ち」
「あ、」

 やられた。俺の気持ちを知っていてわざと挑発してきたのだ。大地のニヤリと笑う表情から瞬時に感じ取れた。「助けたい。何とかしてやりたい」そう思っている時点で、本当は自分の気持ちにとっくに気づいていた。気づいていたけど、凜との恋には弊害がありすぎる。そう思うから、芽生えた恋心を消し去ろうとしていたんだ。ただ、簡単に消えてはくれなかった。

 想いを言葉にして改めて感じた。俺は凜が好きなんだ。
 面倒ごとでも自ら首を突っ込みたくなるほど、恋をしてるんだ。

 改めて自分の気持ちに気づいたとして。
 これからどうすればいいんだ。
 どう行動していいのか分からなかった。

 助けたいと思うこの気持ちだって、俺のエゴなのかもしれない。凛は助けを求めてすらないのかもしれない。

 
 
 分からない。
 分からなくて、頭を抱えた。
  
 もう一度話して。そして、諦めよう。
 凛が俺を必要としないのならば、静かに身を引こう。
 最後に足掻いても許してもらえるかな。自分がこんなに諦めが悪かったなんて、知らなかった。