「皆川くんはもうとっくに約束なんて忘れてるよ。きっと新しい人生を歩んでいるはず」
気持ちの温度差に胸が締め付けられると、肩を震わせながら可愛げもなくボソリと返事を跳ね返した。
「いいや、奴はあんたとの約束を忘れてないかもよ」
「え……?」
悲観的に返事をした私とは対照的に、彼は過去の話を繋ぐ。
今は皆川くんよりも、隣にいるセイくんの事で頭が一杯なのに。
皆川くんとの再会に期待を持たすひと言は、まるで目の前に閉ざされたカーテンのよう。
私との間に一線を引いている。
ーーすると、突然彼は咳き込み始めた。
「ゴホッゴホッ。あの……さ、喉の調子が悪いから、いつもの飴ちょうだい」
「えっ、大丈夫? ちょっと待ってね」
すかさずブレザーのポケットから飴を出すと、いつものようにカーテンの下から手を目一杯伸ばして差し出した。
「はい、どうぞ」
「ん、サンキュー」
だが、セイがカーテンの下から伸びた手が包み込んだのは飴ではなくて、飴を握りしめていた紗南の手。
紗南の手の平は、飴を受け取るはずだったセイの手の温もりに包まれた。
離れたベッドのそれぞれのカーテンの下から伸びた手と手。
それは、まるで橋渡しのように宙でしっかりと繋がれている。



