強い北風が肌寒く感じるようになった、11月下旬のある日。

保健室という名目のハードルが下がっていた私は、二時間目の授業を終えたと同時に席を立って、通りすがりに机の中を整理し始めた菜乃花に一声かけた。



「貧血気味だから保健室に行って休んでくるね」



そうは言ったものの、本当はどこも悪くはない。
単にセイくんの声が聞きたかった。


彼の声を最後に聞いたのは、およそ一週間前。
その間、保健室には行ってない。
理由はよくわからないけど、今は彼の声が無性に聞きたい。
今から保健室に行っても会えるかどうかわからないのに。

声だけが聞きたいだなんて不思議。


すると、菜乃花は口角を上げてニヤケ眼で言った。



「ふーん。最近保健室に通う回数が増えたねぇ。随分、楽しそうじゃん」

「そっ、そう見えるかな……」


「保健室に行けばまたセイくんに会えると思ってるんでしょ」

「あはは、ち……違うよ。かっ、身体を休めに行くんだってばぁ」



うっ、図星。
私の言動を見透かすとは、さすが親友。



「いよいよ、新しい恋が始まった？」

「そんなんじゃないよ。じゃあ行ってくるね」


「ごゆっくり〜」

「もう！」



今までは二度も会えたから、また今回も会えるんじゃないかと思って三度目の奇跡に期待をしていた。