紗南は一度会話を交わしてから親近感が湧いた事もあって、養護教諭が部屋から居なくなった隙を狙って、あの日と同様カーテン越しから声をかけた。



「あの……、先日ここで★マークについて質問した者ですけど、私の事を覚えていますか? 今日も質問したいんですけど、★さんって芸能科なんですか?」

「……え、またあんた? これ以上質問しないって、あの時約束しただろ」



あの日と同様、ぶっきらぼうな返事が響く。
しかし、彼の声が届いた瞬間、不思議と目元が緩んだ。

まだ彼の顔も知らないのに……。



「あの約束はあの日限りです」

「なっ……」


「あっ! ベッドサイドからベージュ色のブレザー見えていますよ」

「マジか?!」



ガバッと起き上がった後に服が擦れるような音。
多分、指摘されて制服をカーテンの向こう側に隠したと思われる。

ちゃんと横になっているのならベッドサイドからブレザーなんて見える訳ないのに。
単にカマをかけただけなのに。
なぁんか、かわいい。


それがあまりにも単純だったから可笑しくて笑った。



「ふふっ、嘘ですよ。でも、あなたの態度で芸能科という事がバレバレ」

「冗談とかやめてくんねー?」



軽い冗談を言ったら会話のキャッチボールになりそうだったので、前回途中だった話を続けた。



「上履きと書類の名前を★マークにしたのは、ひょっとして名字が星とか」

「ブーッ。ほしじゃない、セイ。いっせいのせいのセイ」



彼は秘密主義者と思いきや、案外素直に答えてくれる。



「いっせーのせっのセイ? そんな名称のアイドルグループ名なんですか? 私、芸能人にはちょっと疎くて……」

「うわっ、そんなダサいグループ名あるかよ。まぁ、別にいいや。……ゴホッゴホッ」


「あれ、セイくん風邪引いてるの?」

「昨日は仕事がハードだったから、今朝から喉の調子が悪くて」


「いま飴持ってるけど、いる?」

「持ってるならちょーだい」



ご本人の口から仕事と言ってたから、やっぱり芸能人なんだね。
調子が悪いとはいえ、彼の声は何度聞いても耳に残る素敵な声の持ち主だ。