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「「お誕生日、おめでとう!」」

 花と榴先輩が声を合わせてお祝いしてくれる。

 私はその言葉に合わせて、ケーキに刺さったろうそくを吹き消した。

 Happy Birthday to Tamakoとチョコレートで書かれたお皿に、たった今吹き消したロウソクが一本刺さっているデコレーションケーキ。

 一人で食べきれるサイズだからそこまでの派手さはないけど、フルーツたっぷりでおいしそう。

 他のお客さんの邪魔にならない控えめな拍手でもお祝いされて、自然と頬が緩む。

「ありがとう」

 私のケーキの他にも、花の前にはティラミス、榴先輩の前にはチョコレートパフェが置かれている。

「それじゃ、食べよっか」

 主役である私がフォークを手に取ると、花と榴先輩も食べ始める。

「花の家って厳しいから、なかなか二人っきりでデート出来なくて大変ですね」

 意外と甘い物好きの榴先輩に話しかけると、神妙な顔を返されてしまう。

「でも、別に花と会う口実で来たわけじゃないからな。純粋に、花の友達を祝いしたくて……」

「わ、わかってますよ! 大丈夫です」

 榴先輩がそんな人じゃないのはわかってる。

 でも、二人がなかなかゆっくりデート出来ないのは本当だから、こういう機会に花と楽しんでほしい気持ちがある。

「花、ついてる」

 榴先輩が花の口元にティラミスがついているのに気が付いて、親指でぬぐうとそのままパクっと食べた。

「おいしい」

「一口食べる?」

 榴先輩の言葉に花がティラミスを一口分、榴先輩の口に運ぶ。

「俺のもやる」

 花のティラミスを食べた榴先輩は、お返しにパフェのチョコレートアイスをスプーンですくうと花の口に……

 うん、目の前でいちゃつかれているね!

 嫌な人も多いだろうけど、私は全然嫌じゃない。むしろ、もっとやって欲しい。

 私は花が大好きだし、花を大切にしてくれている榴先輩も大好きだ。二人が幸せそうにしていると私も嬉しいし、なんて言うのかな、言い方合ってるかわからないけど、箱推しって感じ。

「私も彼氏欲しー」

 でもついつい、本音も漏れてしまった。

「幸夜くんは!?」

「婚約者なんだろ?」

 独り言のようなものだったのに、お互いを見つめていたはずの花と榴先輩の視線が私に集まる。

「なんで榴先輩まで知ってるんですか!?」

 同じクラスの花はともかく、学年の違う榴先輩まで幸夜くんの婚約者発言を知ってるんだろう。もう花が話したのかなって思ったけど、違った。

「目立つ双子だからな。もう三年の教室まで噂が流れてきた」

 それって、ほぼほぼ全校生徒に知れ渡っているってことでは?

 軽いめまいがした。

「婚約者って言っても、パパと幸夜くんがが勝手に言ってるだけだし、今朝初めて会ったばっかりなんだよ」

「でも、幸夜くんカッコいいじゃん。優しそうだしさ、結構ラッキーじゃない?」

 花はそう言うけど、とてもラッキーとは……ラッキー、かも。言われてみれば、確かに。

 幸夜くんは本当にカッコイイし、しかも私なんかのことを好いてくれている。私も幸夜くんを好きになれば両想い確定だし、親も公認で交際は順調にすすむこと間違いなし。他に類を見ない優良物件であることに間違いない。でも……

「でも、私にとっては榴が一番カッコいいし一番好きだからね」

「知ってる。俺にとっても、花が一番だよ」

 また二人がいちゃつきだしていた。

 実は私、初恋もまだだったりする。愛だの恋だのよくわからない。幸夜くんを好きになれたら、きっと幸せになれるんだろうなとは思うんだけど……