「珠子、帰るぞ」

 帰りの支度をしていると、私の机に手をついて咲仁くんが言ってくる。

「珠子ちゃん、一緒に帰ろ」

 反対側からも、幸夜くんが誘ってくる。

 当然のように言ってくるけど、二人と一緒に帰る約束なんてしていない。約束してるのは……

「花とケーキ食べて帰る約束してるから」

「花……だけか?」

「う、うん……」

 咲仁くんの目が、なんだか怖かった。

「ごめん、珠ちゃん!」

 緊迫した空気が流れそうになった瞬間、花が駆けてきた。

「榴も行きたいって言ってるんだけど、いい?」

「え、いいけど……」

 私がそう答えると、咲仁くんの手が私の机から離れた。

「花と榴と行くのか……ならいい」

「ざんねーん。気をつけて帰ってね」

 手を離してさっさと行ってしまう咲仁くんを追いかけて、幸夜くんも手をひらひら振りながら教室を出て行ってしまう。

 今、咲仁くん、榴先輩のこと呼び捨てにした? 二年も上の先輩を呼び捨てにする勇気に乾杯しながら、あれ、でも、咲仁くん榴先輩のこと知ってるのかな?

「急にごめんね」

 二人を見送って、花が改めて手を合わせて謝ってくる。

「榴先輩もお祝いしてくれるんでしょ? もちろん大歓迎だよ! 三人で行こ行こ!」

 塾で来れない友達の代わりに、榴先輩が増えるのは大歓迎だ。花の恋人っていうだけで榴先輩とはそんなに親しいわけじゃないけど、お祝いしてくれる人が多くて嫌なわけがない。

「榴! オッケーだって!」

 花が廊下に声を掛けると、榴先輩がひょっこり顔を出した。

 学校指定のジャージを着ているけど、なんでだろう……榴先輩が着てるとすっごくおしゃれに見える。

「急な申し出で悪かったな」

 花に続いて私も榴先輩に駆け寄ると、謝られてしまう。

「いえいえ、全然!」

 私がぶんぶんと首を振ると、榴先輩は首を傾げた。

「あれ……花と同じ匂いがする」

 そう言われて、ドキッとする。

 花からもらったボディーミスト、実はさっきこっそりトイレで使ってみていた。

「高良にもよく似合うな」

 そう言って微笑まれてしまうと、花の彼氏だってわかっていてもドキドキしてしまう。

「お揃い! いいでしょ~。珠ちゃん、毎日使ってね!」

 花が腕を組んできて、嬉しそうに笑ってくれる。

 花が喜んでくれるなら、使い切るまで毎日使おう。