*
「Happy Birthday」
玄関を開けた瞬間、耳に飛び込んできた流暢な英語。
玄関先に立っていた人と目が合って、私は目が点になっていた。
ふわふわの猫っ毛に緑がかったグレーの瞳。年はたぶん私よりも年上? の男の人。でも、外国の人って日本人より大人っぽく見えるからわからない。
そう、わからないってことは私はこの人を知らないし、年齢の判断がつけられるようになるほど親しい外国人の知り合いもいない。
「やっと、会えた……嬉しい!」
その外国の人は持っていた花束を私に向けると距離を詰めてきた。
ちょうど玄関にいたからってチャイムの音にいきなり出ないで、せめてドアスコープから相手を確認することぐらいすればよかった。
「どちら様ですか?」
今更な問いかけを、外国の人は聞いてるんだか聞いていないんだか。
私の手をつかんで花束を握らせると、整った顔が私の視界いっぱいに映る。
雑誌の表紙を飾っていたも違和感がないぐらいキレイな顔。外国の人って、みんなこうなの?
うっかり見とれたその一瞬に、チュッとリップ音がした。
頬に感じたやわらかさと少し湿った体温。
――ほっぺに、キスされた!?
一気に顔に熱が集まるのを感じた。
「人違いです!」
ドアチェーンも掛けてなかったことを後悔しながら、私はその人の肩を押して距離をとると玄関扉を思いっきり閉めた。
ガチャチャリンと、相手に音が聞こえる失礼さなんて投げ捨てて、速攻カギとチェーンをかける。
――なに今の!?
ホッとして玄関扉の前にそのまま座り込んでしまう。
見れば押し付けられたままの花束が私の手の中にあった。
ピンクやイエローのひらひらした花びらの可愛い花が中心になった、丸っこいブーケタイプの花束。そこの中心に、カードが刺さっているのが見えた。
『高良珠子様』
それは、間違いなく私の名前だった。
「人違いじゃ、ない?」
でも、私はあんな人知らない。
幼稚園まで記憶を遡っても海外の血が入っている知り合いはいないし、高校デビューで髪を染めた日本人の知り合いっている顔立ちでもなかった。
頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになってしまう。
わかるのは、イケメンにほっぺにちゅーされたっていうことだけで……やばい、絶対顔真っ赤になってる。
キスされた頬を押さえながら熱くなってると、コンコンと玄関扉がノックされた。
「は、はい!?」
驚いて飛び上がりそうになりながら、反射で返事をしてしまう。
ゆっくりと立ち上がってドアスコープを覗くと、さっきと同じ顔があった。でも、さっきはしていなかったマスクをしていて、髪も黒のストレート。瞳の色も赤みの強い茶色をしている。
――双子?
「弟が急に済まない。俺たちは高良喜久の紹介で来た」
ドアスコープの向こうでマスクがずらされ、落ち着いた声が聞こえてくる。
マスクを外すと、やっぱりさっきの人と同じ顔だった。
髪の色とか雰囲気とか全然違うのに同じ顔。なんだか、不思議な感じ。
「パパの、知り合いなの?」
黒髪の彼が口にした名前――高良喜久はパパの名前だった。
海外でも仕事をしているパパの知り合いって考えると、不思議はなかった。でも、私に会いたかったってどういうことだろう。
「俺たちのこと、聞いていないのか?」
ドア越しに返事をした私の言葉に、困ったような声が返ってくる。
「聞いてないです!」
そんな声を出されても、私も困ってしまう。
パパから海外の知り合いが訪ねてくる話なんて聞いてないし……うーん、もしかして昨日の取って置きのプレゼントってこの花束のことで宅配を頼んでた? でも、パパからのプレゼントなら昨日のメッセージみたいに珠子って下の名前だけだろうし、私のフルネームが入ってるなんてなんかおかしい。猫っ毛の彼からのプレゼントって、感じがする。
「そうか……それは済まないことをした。なにか手違いがあったのかもしれない。改めて出直すことにする」
私が一人で悩んでいると、声が遠のいた。
慌ててドアスコープをもう一回除くと、黒髪の彼がぺこりと頭を下げていた。
振り返って猫っ毛の彼と何かを話していたけど、内容までは聞き取れない。
猫っ毛の彼は渋るような仕草をしていたけど、黒髪の彼に説得されたみたいで大人しく二人並んで帰っていくのが見えた。
ドアスコープから二人の姿が見えなくなって、ホッと息を吐いた。
なんだったんだろう。
ようやく気持ちが落ち着いて靴箱の上にある時計を見ると、とっくに家を出る時間を過ぎていた。
「いけない、遅刻しちゃう!」
ちょうど家を出るところだったから、思わずそのままチャイムの音に扉を開けちゃったんだった。
慌てて家を飛び出しても、あの二人の姿はどこにもなかった。
「Happy Birthday」
玄関を開けた瞬間、耳に飛び込んできた流暢な英語。
玄関先に立っていた人と目が合って、私は目が点になっていた。
ふわふわの猫っ毛に緑がかったグレーの瞳。年はたぶん私よりも年上? の男の人。でも、外国の人って日本人より大人っぽく見えるからわからない。
そう、わからないってことは私はこの人を知らないし、年齢の判断がつけられるようになるほど親しい外国人の知り合いもいない。
「やっと、会えた……嬉しい!」
その外国の人は持っていた花束を私に向けると距離を詰めてきた。
ちょうど玄関にいたからってチャイムの音にいきなり出ないで、せめてドアスコープから相手を確認することぐらいすればよかった。
「どちら様ですか?」
今更な問いかけを、外国の人は聞いてるんだか聞いていないんだか。
私の手をつかんで花束を握らせると、整った顔が私の視界いっぱいに映る。
雑誌の表紙を飾っていたも違和感がないぐらいキレイな顔。外国の人って、みんなこうなの?
うっかり見とれたその一瞬に、チュッとリップ音がした。
頬に感じたやわらかさと少し湿った体温。
――ほっぺに、キスされた!?
一気に顔に熱が集まるのを感じた。
「人違いです!」
ドアチェーンも掛けてなかったことを後悔しながら、私はその人の肩を押して距離をとると玄関扉を思いっきり閉めた。
ガチャチャリンと、相手に音が聞こえる失礼さなんて投げ捨てて、速攻カギとチェーンをかける。
――なに今の!?
ホッとして玄関扉の前にそのまま座り込んでしまう。
見れば押し付けられたままの花束が私の手の中にあった。
ピンクやイエローのひらひらした花びらの可愛い花が中心になった、丸っこいブーケタイプの花束。そこの中心に、カードが刺さっているのが見えた。
『高良珠子様』
それは、間違いなく私の名前だった。
「人違いじゃ、ない?」
でも、私はあんな人知らない。
幼稚園まで記憶を遡っても海外の血が入っている知り合いはいないし、高校デビューで髪を染めた日本人の知り合いっている顔立ちでもなかった。
頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになってしまう。
わかるのは、イケメンにほっぺにちゅーされたっていうことだけで……やばい、絶対顔真っ赤になってる。
キスされた頬を押さえながら熱くなってると、コンコンと玄関扉がノックされた。
「は、はい!?」
驚いて飛び上がりそうになりながら、反射で返事をしてしまう。
ゆっくりと立ち上がってドアスコープを覗くと、さっきと同じ顔があった。でも、さっきはしていなかったマスクをしていて、髪も黒のストレート。瞳の色も赤みの強い茶色をしている。
――双子?
「弟が急に済まない。俺たちは高良喜久の紹介で来た」
ドアスコープの向こうでマスクがずらされ、落ち着いた声が聞こえてくる。
マスクを外すと、やっぱりさっきの人と同じ顔だった。
髪の色とか雰囲気とか全然違うのに同じ顔。なんだか、不思議な感じ。
「パパの、知り合いなの?」
黒髪の彼が口にした名前――高良喜久はパパの名前だった。
海外でも仕事をしているパパの知り合いって考えると、不思議はなかった。でも、私に会いたかったってどういうことだろう。
「俺たちのこと、聞いていないのか?」
ドア越しに返事をした私の言葉に、困ったような声が返ってくる。
「聞いてないです!」
そんな声を出されても、私も困ってしまう。
パパから海外の知り合いが訪ねてくる話なんて聞いてないし……うーん、もしかして昨日の取って置きのプレゼントってこの花束のことで宅配を頼んでた? でも、パパからのプレゼントなら昨日のメッセージみたいに珠子って下の名前だけだろうし、私のフルネームが入ってるなんてなんかおかしい。猫っ毛の彼からのプレゼントって、感じがする。
「そうか……それは済まないことをした。なにか手違いがあったのかもしれない。改めて出直すことにする」
私が一人で悩んでいると、声が遠のいた。
慌ててドアスコープをもう一回除くと、黒髪の彼がぺこりと頭を下げていた。
振り返って猫っ毛の彼と何かを話していたけど、内容までは聞き取れない。
猫っ毛の彼は渋るような仕草をしていたけど、黒髪の彼に説得されたみたいで大人しく二人並んで帰っていくのが見えた。
ドアスコープから二人の姿が見えなくなって、ホッと息を吐いた。
なんだったんだろう。
ようやく気持ちが落ち着いて靴箱の上にある時計を見ると、とっくに家を出る時間を過ぎていた。
「いけない、遅刻しちゃう!」
ちょうど家を出るところだったから、思わずそのままチャイムの音に扉を開けちゃったんだった。
慌てて家を飛び出しても、あの二人の姿はどこにもなかった。