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「珠子から目を離すなって言っただろ、このバカ!」

「女子トイレにまで着いていくわけにはいかないでしょ!?」

 珠子がいないことに気が付いた双子が、学校の廊下で言い争っている。

「兄さんもなんで予見できないんだよ!」

「寝てたんだから仕方がなっ……」

 幸夜に言い返そうとした咲仁が咳き込み、マスク越しに口元を押さえる。
 言い募っていた言葉を引っ込め、幸夜は咲仁の背中を撫でる。

「もしかして、怪我してる?」

「いや……今朝のは黒鷲アエトスが偵察に来ていただけだった。戦闘にはなってない」

 咳が収まり幸夜に答えるが、咲仁は顔をしかめて右脇を押さえている。

「あ〜、なるほど。それは古傷トラウマが開くねぇ」

 苦笑する幸夜を咲仁は睨みつける。

「そんなことより、珠子だろ」

「見えないの?」

 奇妙な会話をする二人に、すれ違った生徒が不思議そうな顔をしている。

「見えてる、が……不確定要素が多すぎて収束しない。今、どこにいるのか推測できてない」

 咲仁の言葉に、渋い顔をする幸夜。

「花ちゃんと榴にも連絡するね」

「そうししてくれ」

 スマートフォンを取り出す幸夜に、周囲を気にしながら耳打ちをする咲仁。

「キマイラに襲われる。最悪――珠子は死ぬ」