*
咲仁くんには悪いけど、正直チャンスだと思った。
放課後、保健室で寝てる咲仁くんを幸夜くんと迎えに行くことになったけど、私はお手洗いと言って離脱した。
咲仁くんの荷物を持って、幸夜くんは先に保健室へ行ってしまった。
保健室の目の前のトイレだから、幸夜くんも油断したんだと思う。
まさか、トイレの窓から帰宅するとは思うまい。
ここまでする必要が? とも思ったけど、今夜も三人川の字を回避して、一人自室で安眠するためにはカギは必須だった。
今朝、車に轢かれてしまった傘の代わりに置き傘にしていた折り畳み傘を広げて、私は一人河川敷を歩いていた。
二人が追いかけてくることを考えて、いつもと違う道で帰っていた。
いつもとは違う路線でホームセンターに寄って、カギと工具を買って二人が私の部屋に入ってこないようにしないと。
木や茂みの多い河川敷の道を、傘を片手に一人走る。
人気のない道で、雨音と自分の呼吸音だけが傘の中で聞こえる。
ガサリと、進む先の茂みが揺れた。
視線を向けながらも揺れる枝を気にせず進んでいると、白い影が顔を出した。ヤギだった。
立派なアゴヒゲと控えめな角を生やした、黄色い目をしたヤギ。
雑草を食べさせるために飼う人もいるらしいけど、それだろうか。
鎖で繋がれているかが茂みで見えなくて、歩みを緩めて様子をうかがう。
そしたら、ヤギの顔の茂みが揺れて、ヘビが顔を出した。
足が止まる。
アオダイショウとか、マムシとか、そういうヘビの大きさじゃなかった。
テレビで見るようなアナコンダとか、そういう大きさだった。
たぶん、隣のヤギも頑張れば丸のみ出来てしまいそう。
なんで、こんなのが!?
ヤギと一緒に、どこかの家からペットだったのが逃げたんだろうか。
どうしたらいいんだろう。
警察に連絡?
混乱しながらも身の危険を感じて、無意識のうちに後ずさり始めていた。
目が逸らせない。
じっと並んだヤギの頭とヘビの頭が生えた茂みを見つめる。
また、茂みが揺れた。
「は?」
思わず声が出た。
ヤギとヘビの頭に続いて出てきたのは、ライオンだった。
立派なたてがみのついた、百獣の王。
どこかの家じゃなくて、動物園から逃げ出してきたの?
でも、この辺りに動物園なんてない。
驚きのあまり、後退していた足が止まっていた。
茂みが揺れて、ライオンの足が出てくる。今まで見たどんな大型犬よりも大きくて立派な足。
ライオンの体が茂みの中から出てくる。
それに合わせて、ヤギとヘビも出てきた。
「なに、これ……」
雨のせいで目がかすんで、錯覚を起こしているだけだと思いたかった。
茂みから全身を現したライオンの姿は、異様の一言だった。
動物園でよく見るライオンの体だった。でも、そのライオンの頭の横に最初に見たヤギの頭がついていた。
ヤギに体はなて、首を切り取ってそのままライオンの頭の横に移植したような形で、それでも生きて耳や目を動かしている。
本当なら筆みたいな形をしたライオンのしっぽも、普通じゃなかった。ヘビだった。
ライオンの背骨の形に添うように、次第に毛皮がウロコに移り変わって、そのままヘビの体になりふさふさとした毛が束になっているはずの場所にヘビの頭がある。
ライオンとヤギとヘビをつなぎ合わせた歪な生き物が茂みの中から全身を現して、昼寝から起きたばかりの猫のようにそれぞれの口があくびをして、ゆっくりと伸びをした。
そして――私を見た。
ライオンとヤギとヘビの六つの目が全て私の目を捕らえた。
本能的な身の危険を感じて、私は踵を返して走り出す。
背後で、あの奇妙な生き物が地面を蹴り駆けだす気配がした。
あれに本気で追われて、逃げ切れるなんて思えなかった。
それでも、走らずにはいられない。
冷や汗が背筋を伝うのを感じた。
なんなのよ、アレ!
咲仁くんには悪いけど、正直チャンスだと思った。
放課後、保健室で寝てる咲仁くんを幸夜くんと迎えに行くことになったけど、私はお手洗いと言って離脱した。
咲仁くんの荷物を持って、幸夜くんは先に保健室へ行ってしまった。
保健室の目の前のトイレだから、幸夜くんも油断したんだと思う。
まさか、トイレの窓から帰宅するとは思うまい。
ここまでする必要が? とも思ったけど、今夜も三人川の字を回避して、一人自室で安眠するためにはカギは必須だった。
今朝、車に轢かれてしまった傘の代わりに置き傘にしていた折り畳み傘を広げて、私は一人河川敷を歩いていた。
二人が追いかけてくることを考えて、いつもと違う道で帰っていた。
いつもとは違う路線でホームセンターに寄って、カギと工具を買って二人が私の部屋に入ってこないようにしないと。
木や茂みの多い河川敷の道を、傘を片手に一人走る。
人気のない道で、雨音と自分の呼吸音だけが傘の中で聞こえる。
ガサリと、進む先の茂みが揺れた。
視線を向けながらも揺れる枝を気にせず進んでいると、白い影が顔を出した。ヤギだった。
立派なアゴヒゲと控えめな角を生やした、黄色い目をしたヤギ。
雑草を食べさせるために飼う人もいるらしいけど、それだろうか。
鎖で繋がれているかが茂みで見えなくて、歩みを緩めて様子をうかがう。
そしたら、ヤギの顔の茂みが揺れて、ヘビが顔を出した。
足が止まる。
アオダイショウとか、マムシとか、そういうヘビの大きさじゃなかった。
テレビで見るようなアナコンダとか、そういう大きさだった。
たぶん、隣のヤギも頑張れば丸のみ出来てしまいそう。
なんで、こんなのが!?
ヤギと一緒に、どこかの家からペットだったのが逃げたんだろうか。
どうしたらいいんだろう。
警察に連絡?
混乱しながらも身の危険を感じて、無意識のうちに後ずさり始めていた。
目が逸らせない。
じっと並んだヤギの頭とヘビの頭が生えた茂みを見つめる。
また、茂みが揺れた。
「は?」
思わず声が出た。
ヤギとヘビの頭に続いて出てきたのは、ライオンだった。
立派なたてがみのついた、百獣の王。
どこかの家じゃなくて、動物園から逃げ出してきたの?
でも、この辺りに動物園なんてない。
驚きのあまり、後退していた足が止まっていた。
茂みが揺れて、ライオンの足が出てくる。今まで見たどんな大型犬よりも大きくて立派な足。
ライオンの体が茂みの中から出てくる。
それに合わせて、ヤギとヘビも出てきた。
「なに、これ……」
雨のせいで目がかすんで、錯覚を起こしているだけだと思いたかった。
茂みから全身を現したライオンの姿は、異様の一言だった。
動物園でよく見るライオンの体だった。でも、そのライオンの頭の横に最初に見たヤギの頭がついていた。
ヤギに体はなて、首を切り取ってそのままライオンの頭の横に移植したような形で、それでも生きて耳や目を動かしている。
本当なら筆みたいな形をしたライオンのしっぽも、普通じゃなかった。ヘビだった。
ライオンの背骨の形に添うように、次第に毛皮がウロコに移り変わって、そのままヘビの体になりふさふさとした毛が束になっているはずの場所にヘビの頭がある。
ライオンとヤギとヘビをつなぎ合わせた歪な生き物が茂みの中から全身を現して、昼寝から起きたばかりの猫のようにそれぞれの口があくびをして、ゆっくりと伸びをした。
そして――私を見た。
ライオンとヤギとヘビの六つの目が全て私の目を捕らえた。
本能的な身の危険を感じて、私は踵を返して走り出す。
背後で、あの奇妙な生き物が地面を蹴り駆けだす気配がした。
あれに本気で追われて、逃げ切れるなんて思えなかった。
それでも、走らずにはいられない。
冷や汗が背筋を伝うのを感じた。
なんなのよ、アレ!