養護教諭は職員室で用事を済ませ保健室へと戻って、セイに仕事の出発時間を伝える為に窓際のベッドのカーテンに手をかけた。



「セイ、そろそろ出発の時間だよ」



カーテンの隙間から顔を覗かせていつもと変わらず軽やかな声を届けたが⋯⋯。
目線の先にはベッドで熟睡しているセイと、セイの腕枕でスヤスヤ眠っている紗南の姿が。
驚愕的な現場を目撃すると、思わず悲鳴が漏れた。



「きゃあっ!」



セイ達はたかが1分程度の添い寝のつもりが、お互いの心地良さにつられ眠りに落ちていた。
ベッドに寄り添って眠っているのは保健室の常連者の2人と知ると、強張った表情が徐々に緩んでいく。



「……大スクープね。マスコミに知れたらセイは世間に瞬殺されるわよ」



男女交際禁止の学校のベッドでぐっすり眠っている2人に呆れると、フゥと深いため息が漏れた。



「福嶋さんがセイに会いに来てるのは気付いてたけど、セイは福嶋さんとは昔からの友達だって言ってたっけ。お互い気があったのかしら⋯⋯。この様子からすると関係は上手くいったようね」



養護教諭は事情を知っていただけに、今回の件は2人の交際を確信付けた。
入学当初からセイの体調を気遣っている分、セイが学校と職場の往復が続いて息苦しい毎日を送っている事を熟知している。
だから、幸せそうに眠ってる様子を見てそっとしておく事に。



「本来なら校則で禁止なんだけど、特別に目を瞑ってあげる。きっと秘密で交際をしてるだろうから誰か1人くらい味方がいてあげないとね」



養護教諭は足音を立てずにベッドから離れて、壁掛け時計で時間を確認した。



「あと5分経ったらセイの電話でも鳴らして起こすか。添い寝現場を目撃した事がバレてないフリでもしてあげないとね〜」



養護教諭は仲睦まじくベッドに眠る2人を残して再び席を外した。
まるでハーモニーを奏でているように平和に寝息を漏らしている2人は、すぐ手前に迫っている残酷な未来を知らない。