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日曜日お昼過ぎ、見事に晴れて私は一人、遊園地の中にいた。
日差しの中周囲を見れば家族連れ、カップル、友人同士。
恐らくこの多くの客の中で一人でここに来ているのは私だけのような気がする。
ここは撮影に使われる場所では無いが、家からの距離と入園料、そしてドラマで使うのに似たようなアトラクションがある事などを総合的に考えてここにした。

今回私の好きな人として演じてくれる鹿島さんは、入場ゲートを過ぎて遊園地の中に入ると建物やアトラクションを懐かしそうに眺めている。
もうそれだけで、ここは鹿島さんと千世さんにとって思い出の場なのだとわかった。
確かにこの場所ならあの鹿島さん達が住んでいた街からも近い。

「千世さんとここに来たことが?」

我慢できずに聞いてみれば、鹿島さんははは、と笑って頭を掻く。

「中学の時かな、千世の母親とうちの母親の四人で来たんだよ。
その日どっちの父親も仕事で行けなくなって、また今度にしようと言い出した母親達を千世が珍しく行きたいとごねて。
俺としては二人で来たかったけれど、母親だけでも一緒に行くことに俺も賛成した。
千世の家は両親共働きであまりでかけることもなかったから、ずっと前から楽しみにしてたしそれを壊したくなかった。
で、結局母親達が折れて四人で来たんだよ。
千世は嬉しいのか何なのか、泣きべそかきながら喜んで遊んでたっけ」

遊園地で遊ぶ人々を優しい目で見つめる鹿島さんを見て、まだ彼女に未練が残っているのが十分にわかる。
もう少し消化するのに時間がかかるなら一緒にいられるかもしれない。
だけど鹿島さんは千世さんばかり見ていることが、当然だけれど苦しい。

ずるく生きるのも大切。
それは今後あの世界に生きる為に必要なのだ。

だから私だって。

「鹿島さん、今日はきっちり相手役お願いしますよ。
まさか台詞覚えてないとか無いでしょうね」

私に気持ちを引き戻すようにそうけしかければ、彼は不敵な笑みを浮かべた。

「良い度胸だ。
先輩がきっちり指導してやる」



流石に途中独り言を言って回るのはまずい。
台本は頭に叩き込んできた。
似たような場面で、こっそり練習するしか無い。

ドラマの流れは、まず遊園地の入り口にて四人で待ち合わせ。
私と彼はぎこちない挨拶をかわし、中に入って私と彼を二人だけにしようというあからさまな態度に苦笑いしつつ遊園地を四人で遊ぶ。
二人をくっつけたい主人公の妹に、無理矢理お目当ての彼と観覧車に押し込められる。
そして主人公の妹達は、後はあの二人だけにしようと遊園地を歩いていたら殺人事件に出くわすのだ。
だから私が最後に映るのは観覧車のところまで。
それをなぞるようにこそこそと演技というか確認を鹿島さんとしていった。

悔しいことに鹿島さんは見事に台詞を覚えていた。
それもここで出演する私の役含めた四名全ての台詞を。
そして初っぱなからダメ出しの嵐。
私が主人公の妹に遠慮しすぎているとか、ここは罠にはまってもその気遣いを嬉しく思う表情をしろとか、好きな男と隣に座ることになってそんなに距離感が近いわけないだろ、とか。

それはガミガミと注意されるのだが、熱心さと楽しそうにするその表情を見て、彼自身やはり演技することがどれだけ好きだったのかが伝わってくる。
だからこそ今回付き合わせることは、彼にとって良いことなのか悪いことなのかは判断できなかった。

しばらくそういう時間が続き、小さな休憩を挟みつつもあっという間に数時間が経っていた。

「休憩するぞ。
飲み物でも買ってきてやりたいがそうも出来ないからな、自分で行ってこい」
「普通彼がそういう気遣いしてくれてキュンとするってのが定番なんですが」
「幽霊にハードル高いこと要求するなよ」

特に傷ついた様子も無く笑う彼に、そこのベンチで待ってて下さいと言って自販機でアイスレモンティーのペットボトルを買ってきた。
彼のすぐ横に座り、ペットボトルの蓋を開ける。
冷たさが手に伝わってきて気持ちが良い。
独り言とはいえ何度もしゃべっていたせいか思ったより喉が渇いていて、半分以上も気がつけば飲み干してしまった。

私達の前を楽しげな子供達や女子のグループ、もちろんカップルも通る。
お揃いのグッズを下げているカップルを見て、羨ましいと思った。
本当に好きな人とならきっと同じものを一緒に持ちたい。
こんな感情を抱いたのは初めてだ。
けど隣に座って前を向いている鹿島さんの服装は出会った時のまま。
季節が変わっても同じ。
一緒にお揃いのグッズなんてもの、幽霊と持てるわけなんかない。

「後は観覧車のシーンだな」

ぽつりと言った彼に、そうですね、と返す。

「どういうカメラアングルになるかはわからないが、二人だけにされてしまった困惑、そして恥じらいと隠せない嬉しさ、そんなとこだろうな」
「夕暮れの観覧車なんて最高のお膳立てですからね。
どっちかが告白した、なんてあるんでしょうか」

私だって役作りをする以上そこまで考えていたい。
それによりそこに入るときの表情だって違うはずだ。

「どうだろうなぁ。
こういう場合なら勢いってのが多いんじゃ無いか?
雰囲気に流されたとか、結局勇気が無くて楽しかったですね、と締めくくるか」

鹿島さんの意見にそういうものかもしれないですね、と賛同する。

私なら。
もしかしたら鹿島さんと最後のデート、というか二人の時間になるなら。

好きな人はこの世に残るほど好きな人がいて、未だにその気持ちを消化出来ずに私の側にいる。
やはりそんな相手に告白するなんて事はただの自己満足じゃ無いだろうか。
どうせ伝えたって実ることの無い恋なのだから。
何度そうやって自分で考えただろう。
そう自分に言い聞かせる度に、私の気持ちは沈んでしまっていた。