「やっぱ無いか。
だよなーそんな感じ」
「どんな感じですか、失礼な」

今まで彼氏はいたことが無いし、男子と仲良く遊園地なんて女子交えて少人数すら無い。
そもそも遊園地に行ったのは小学生の頃親に連れられて行ったくらいだろうか。

「じゃぁさ、俺が付き合ってやるよ」

立てた親指を自分の方に向け、ドヤ顔で言った鹿島さんを冷めた目で見た。
幽霊が何を言っているのだろう。

「何だよ!
せっかくこのドラマで有名になった鹿島渉様直々に練習付き合ってやろうと思ったのに!」
「よく考えてください、鹿島さん幽霊なんですよ?
外からは女子高生一人で遊園地来ている状況になるんです。
凄く痛くありません?それ」

彼の顔がハッとしたようになり、そうだ、俺死んでいたっけ、と呟いた。
頭が痛い。
気持ちは嬉しいが何だか幽霊としての自覚が薄くなってきてないだろうか。
まぁ自分も時々鹿島さんが幽霊である事を忘れてしまうけれど。
もしかしてそれが原因で成仏出来ない、なんて可能性もありそうに思えてくる。

「遊園地より私達はまずお寺とかに行くべきなのでは」

じっと鹿島さんを見ながら言うと、彼はギョッとした顔で、

「待て待て、そう消そうとしないでくれよ。
でもさ、そんなに長い間行ってないなら下準備がてら一人だろうと観に行くのは、プロとして何も恥ずかしくないと思うけど」

彼は真面目に言っている。
消えたくないからというのはゼロとは思えないけれど、やはりそのアドバイスは正しいだろう。
私だって早く鹿島さんに消えて欲しいなんて本心では思っていない。
だけど何が引っかかっているのか、心配になっているのは本当。
ううむ、と頭を悩ませる。
ここは恥を捨てて役者の経験を積むべきだ。
鹿島さんだっていつまでいるかわからないのだから。

そうだ、そもそも演じる少女は好きな彼と行く遊園地デートに行くのだが、そんな彼は彼女の気持ちなど気付かず、数あわせで来ていると思うほど鈍感な男子。
彼を意識してギクシャクする彼女とマイペースな彼。
そんな状況は台本にあるものの、その後の二人がどうなったかについては当然書かれていない。
まるでその二人が、私と鹿島さんと重なるように思えた。

そして鹿島さんの申し出を受ければ、私も好きな思いを隠している人と遊園地へデートに行ける。
思い出がまた増える、そんな貴重な機会を逃したくない。

「わかりました。
撮影は約三週間後です。
今度の週末は学校と撮影なので、その翌週日曜日に行きましょう。
それまで完璧に覚えます、約束ですよ」

覚悟を決めた私の顔に、鹿島さんは優しく微笑む。
なんて綺麗な笑顔だろうか。
この笑顔に見惚れたファンだって沢山いたはずなのに、今は、せめて私だけに向けて欲しいなんて思っている。
むしろ、今彼を独り占めしているのは彼が思っている千世さんでは無く私。
それが優越感にも、そして罪悪感にも思えた。

「あぁ約束だ。
日曜日、楽しみにしてるよ、知世」

鹿島さんは手を出して小指を私に向ける。
私もその指に絡めて指切りげんまんをした。
針、俺飲めないから問題ないけどなんて彼は笑う。
私の汚い感情なんて何一つ気付かずに、彼はとても楽しそうに笑った。