そんな話を帰ってから自室で鹿島さんに話せば、何とも不憫そうなまなざしで私を見た。

「何ですかその表情」
「天然小悪魔か。言い当て妙だな」
「ほんと何なんですか二人して」

私が腹を立てていると机に置いていたスマートフォンから着信の音楽が鳴る。
ディスプレイには颯真の名前。
何だろうかと電話に出た。

『ちょっと急ぎの話なんだけど』

挨拶もなく颯真が切り出してきた。
どうやら声と一緒にガヤガヤした人の声も聞こえる。
どこかのスタジオとかから電話しているのだろうか。

「どうしたの?」
『急なんだけど明日、時間あるか?』
「ほんと急だね。
明日の予定は要件による、まずはそこから」

こういう場合は先に用件を言うものだ。
空いてる?と言って嫌な内容なら断れなくなる。
マナーとして用件を伝えてから、空いているのかどうか聞くべきだ。

『実はさ、俺たちのグループ二ヶ月連続で新曲出すんだけど、そのミュージックビデオとは別にCM用のプロモーションのも急遽撮ることになったんだ。
それで髪の長い綺麗系の女子探してるって聞いてお前がピッタリだと思ってさ、プロデューサーに写真見せながら話したら乗り気になって是非来られるか聞いてみてくれって。
ちゃんとギャラも出るしやってみねぇ?』

聞こえてきたのは弾んだ声に唐突な話。
私がCM用の撮影に出る?
男性アイドルグループに女子が出るのは御法度だろう。
どんな状況で出演するのかさっぱり見当がつかない。
詳しい話しを聞こうとしたら、颯真が誰かに呼ばれたのかちょっと待って下さい!と颯真が声をかけている。

『なぁ頼むって!もう明日で探してる時間ないんだ』
「ようは誰か急遽キャンセルになって急いで探してると」
『そっか。
俺が連絡したのに見てもくれないし、さっさと寝てて朝も既読スルーだし。
どんだけ俺が悲しい思いをしたと』
「わかった!それに関してはほんと申し訳なかった!
手伝う、手伝うから!」

それを言われると申し訳なく思っているので逃げようがない。
でも困っているところを助けられるなら何よりだ。

『あー!マジ助かる!!
実は後ろで返事待ちされてるんだ。
プロデューサーとそっちの事務所の確認とってから詳しい内容今日中に連絡するから。
今度はすぐさま寝たりするなよ!』
「わかってる!起きてるから!」

大きな声を出して通話を終了すれば、聞き耳を立てていた鹿島さんがニヤリと笑った。

「やるな、小僧」
「そりゃ沢山の候補生いる中からデビューですからね。
元々ダンスも歌も上手かったし私は当然だと思うんですけど」
「いや、そうじゃなくてヤツのしたたかさに感動してたんだよ」
「リサにも言われるんですよね、芸能界にいるならしたたかに生きろって。
颯真はストイックなのにあの明るい性格から自然と人が集まるし、世渡りというかそういうのが上手くやれるんだろうな」
「あー、この天然小悪魔と会話が噛み合わない」

がくりと床に両手をついた鹿島さんに首をかしげる。
何故そこまで大きなため息をつかれなければならないのだろう。

「とりあえずちょうど千世との予定が延びてて良かったな。
こういう縁が舞い込んでくるのも実力のうちだぞ」

身体を起こして鹿島さんが私の肩を叩く。
すっかり千世さんと会うことを忘れかけていた私は、この日常がどれだけ普通になっているか実感してしまう。
本来この状況の方がおかしいというのに。
鹿島さんがいなくなれば、私はこうやって気兼ねなく同じ世界のことをアドバイスしてくれる人なんていない。
友人達だってみんな悩み苦しんだりしているわけで。
それを考えれば私はとても恵まれている。

そんなことを考えていたら、颯真から明日の詳細について連絡が届いた。
既読がついた途端、よし、起きてたなとメッセージが来て私は眉間に皺を寄せた。
このネタで当分颯真にいじられそうだ。
私は送られてきた内容を確認し、颯真に了解との返信をした。