「さっきの、工藤くん、ですよね?」
着替える部屋に入った途端、三名の女子達に囲まれた。
あぁ何度も経験した光景だ。
中学の頃なんて颯真は私だけ構ってくるせいで何度女子達に呼び出されたことか。
「工藤くんと仲いいんですか?」
「単に同じ高校で同じクラスなんです」
「えっ!どこの高校か教えてもらえませんか?!」
代わる代わる質問してくるが、どうやら私と颯真がどこの学校に通っているかは知らないらしい。
「ごめんなさい。
彼に関することというか、そういう内容はお互いの事務所や学校から外に漏らさないようにきつく言われているんです」
「でもここから通える距離って事ですよね?
そう言えばこの近くにあの事務所の育成スクールあったはず!
後でのぞきに行こうか」
三人の中で盛り上がる二人、そしてショートヘアの一人は私を冷めた目で見ていた。
「じゃぁ単にクラスメイトだから工藤くんと話せるってだけなんですね。
こんな風に誤解されるから、彼のために軽はずみな行動は控えた方が良いんじゃ無いですか?
彼のその後を思えばあなたの行動は迷惑だと思われますよ」
そう言うと彼女はくるりと私に背中を向けて、自分の荷物のある方へ行ってしまった。
残された二人も驚いたような顔をしている。
「あー、あの子、工藤くんガチファンで」
「かなりファン歴長いみたいなこと言ってたよね。
うちらみたく、ただのミーハーとは重さが違うってのはいつも感じるんだけど」
それだけ言って彼女たちは先に戻った彼女の元に行くために挨拶もせず私から離れた。
確かにあのショートヘアの女の子の目も声も、私に対して敵意をむき出しで威嚇するかのようだった。
そんなことされたって私は無関係なのにと思うけれど、中学から一緒だから颯真がそれなりにファンの対応で大変だったのは知っている。
まだ中学の頃は格好いい男子の延長くらいだったから、事務所に所属しているとは言え何かあっても別に事務所は何もしてくれない。
告白、逆恨み、学校で泣かれたりとか、颯真に色々あったことを思い出す。
側で見ていて颯真には何の非もなかったのを知っている。
颯真はただ真摯に対応していただけで、それを思わせぶりだったなどと言うのは違うだろう。
ファンを大切にしようとする颯真の気持ちを傷つける子は、本当のファンでは無いといつも思う。
自分だけの颯真でいて欲しい、ずっと前から応援してたのは自分なのにと思う気持ちはわからなくはない。
だけど颯真は先を目指し努力しているわけで、彼が目指すモノを邪魔せずにそれを応援するのがファンでは無いのだろうか。
リサが人気急上昇と話していたし、これからもっと颯真は露出が多くなって注目されていくのだろう。
そうなったことでまた嫌な目に遭わなければ良いな、と思うのだけれど、それが芸能人というものだと言われて切り捨てられるのは納得出来ない。
颯真だって一人の人間なのだから。
そんなため息を飲み込んで着替えることにした。