「じゃ、ちゃんと牛乳飲めよ」
「はいはい」

 私たちの家は近い。でも学校に近いのは彼の家の方で、彼の家を通り越して三軒目にあるのが私の家だった。それでも彼は、毎日私を玄関まで送り届けてくれる。

「……牛乳、飲めよ」
「分かってるよ。しつこい」

 彼は身長を確かめるように、ぽんぽんっと私の頭に手を置く。やっぱり、そんな彼を見上げるのは、すこし疲れた。

「身長差が戻ったら、さ」

 彼は、急にぼそぼそとした声でつぶやいた。

「うん?」
「そんときに……」

 後半は、何を言っているのか、よく分からなかった。
 だけど多分、抱きしめてもいいか、とか、そういう言葉だったと思う。

 ――べつに、いいのに、身長なんて。

 でも真面目な顔をする彼が面白いから、「うん」とうなずいた。
 彼はぱっと笑顔になる。

「よし、じゃあ俺は身長伸びないように頑張るな!」
「私が伸びすぎて、また身長差ずれるかもね」
「えー、そうなったら次は俺が伸ばす」
「頑張って」
「お前も頑張るの」
「はいはい」

 目を合わせて、ふっと同じタイミングで吹き出した。

「じゃあな」

 彼は、もう一度私の頭を撫でてから、手を振って自分の家に帰って行った。

「牛乳、飲まなきゃなあ」

 私は笑いが抑えられなくて、くすくす一人で笑いながら自分の部屋に入り、そうして、引き出しから一枚の写真を取り出した。去年、初めて彼を好きだと思った、その一瞬。それと、今日の写真を見比べた。

 彼の表情が柔らかくなっている。
 今日の彼の方が、素敵だ。

 機嫌のいい私は、夜ご飯を作る母を手伝い、構ってほしそうにする父とソファで語るという、とっておきのサービスをした。そうしてお風呂に入ってから宿題をしていたとき、スマホが鳴った。

 画面に彼の名前を確認して、鼓動が打つ。
 メッセージを開いてみて、私は目を丸めた。