「……なに?」

 立ち上がって、彼を見ると、やっぱりその唇は弧を描いている。

「いやだって……、髪に花びらついてるからさ」
「え?」
「お前、全然気づかないんだもんな。取ってやるから、動くなよ」

 くつくつと笑う彼に、眉が寄った。

「怒んなって」
「べつに、怒ってない」

 彼の手が伸びて、私の髪に触れた。
 そうして、なぜだか、その手が離れていかない。

「――お前、身長縮んだ?」

 言われてみれば、彼と目を合わせるのが、前より疲れるような気がする。

「そっちが伸びたんじゃない?」

 私たちは子どもなんだから、身長だっていつのまにか伸びるものだろう、と思ったが、彼はなぜだかため息をついた。

「えー、まじかあ」
「バスケしてる人って、身長伸びたら嬉しいんじゃないの?」
「やー、まあ、それはそうなんだけどさ」
「なに?」
「……抱きしめやすい身長差とか、あるじゃん。あれ、俺らぴったりだったのに」

 ぶすっと言う彼に、私は首を傾げた。

「そうなの?」
「そうだよ。十五センチ差がいいって、言うだろ」
「知らない」
「とにかく、そうなんだよ」
「へえ。……じゃあ、私、明日から牛乳飲む」

 今度は彼が首を傾げた。

「私が身長伸ばせば、問題ないでしょ?」

 彼はぽかんとした。それから、「駄目」と笑う。

「今日から飲んで」

 私はふっと吹き出した。