「春だなあ」
「そうだね」

 桜並木を、一緒に歩く。私たちの他にも家へと帰る生徒がちらほらといた。真新しい制服姿の彼らは、今年の新入生だろう。

 春風が頬を撫でて、髪を揺らし、通り過ぎていく。ぱらぱらっと、上から雫が降ってきた。昼に雨が降っていたのだ。見上げれば、桜の花に乗った雫がきらきらと輝いている。

 浮足立った春の空気、優しい風。
 そういうものも写真に切り取ることができたらいいのに。

「さっき、桜を撮ってたんだろ? やっぱ、春だと桜だよなあ。写真見せてよ」

 私はうなずいて、カメラを操作する。彼が私の手元を覗き込む。近づく距離に、鼓動が速くなる。

「お、綺麗じゃん」
「――ん、でも、なんか物足りなくて」
「えー、十分だと思うけどなあ。写真部のこだわりってやつ? ここの桜で再チャレンジしてみたら?」
「うーん」

 私は辺りを見渡す。
 他の生徒もいるから、落ち着いて写真を撮るのは難しそうだった。

「あ、そうだ。俺、いいとこ知ってるぞ」

 彼はふいに、ニッと笑った。