なんだか重たい脚を抱えて扉を開けた。
「ただいま」


無論、返事は返ってこない。
私は名目上、父方の妹の真澄さんの家に暮らしている。
ただ仕事一筋でほとんど帰ってくることはない。
定期的に私の銀行口座にお金を入れてくれて、定期的に家に来て会う。
契約のような、歪な親子関係なのだ。
真澄さんからしたら私は、ただの金を貪り食う邪魔な存在でしかないだろう。
そうだとしても、私は真澄さんにとても感謝している。
私には、両親が居ないからだ。
父は10年前に癌で亡くなり、母は父が亡くなった直後、私を置いて出て行った。
他の親戚も、私のことをあしらい、誰も気にかけてはくれない。
唯一、真澄さんだけが、身寄りのない私を引き取ってくれたのだ。
真澄さんから、真澄さん自身の話や、私の両親の話は聞いたことがない。
子供の頃、何度も聞いてはみたものの彼女はいつも、大人になるまで聞いちゃいけない秘密のお話なんだと、笑っていた。
彼女に抱擁されたことも、ましてや一緒にご飯を食べたことも、片手で数えられてしまうくらいしかなっかったけれど、私なんかいないと同然の扱いの私の親戚の中でただ一人だけ信頼している大人だった。
家に居ても、孤独が私を覆うだけ。
それは退屈な日々より嫌な味がするものだった。
だから私はいつも、外にいる。
かといって、学校に行ったとて、気を使ってばかりで疲れてしまう。
昔は学校が好きだった、ような気もするけど。
簡素なコンビニ弁当を食べながら窓の外を見つめる。
分厚くて、黒い雲が空一面を覆っていた。