私は、確かにひどく澄んだ青空に飛び乗った。



はずだった。
「なーにやってんの」
ふわりと、お日様のような匂いがした。
気が付くと私は、後ろから誰かに手を回され、片脚のみを橋から泳がせたまま、立ち尽くしていた。
「なんで」
低く唸る私は、後ろを振り返る。
ふわふわと靡く薄茶色の柔らかそうな髪。
眠たそうな瞳。
すっとした鼻筋。
そこに居たのは、私と同じ制服を来た男の子だった。
決まり文句で慰められるのでは、という考えが頭を過り、めんどくさいなと思う。
男の子は、私の顔を見るなり、眠たそうな瞳を一瞬、大きく開けた。
そして、また眠たそうに、でも、芯のある目で私を見つめ、言った。
「死にたくないって顔をしてたから」
なんて馬鹿げた理由なんだろう。
この人はきっと死にたいなんて微塵も思ったことがないからそう言えるんだろう。
大きなため息をつき、手すりに座る。
すると、その男の子も私の横にすとん、と座った。
そして彼が私に尋ねる。
「なんで死のうとしてたの?」
その質問にため息をつきそうになる。
無駄に長い励ましや、分からないくせに頷く相づちや慰めの言葉が嫌いだから。
どうせ、言われるだろうと思った。この人だって、私の頭の中のデータにある、「つまらない人」なんだろうと思った。
そう、思ったけど、最後なんだ。
これが私の最後の会話になるのなら、本当のことを、言ってみてもいいんじゃないかと思った。
つまらない人だとしても、私が生きていたことを覚えていてくれる人が居るなら、生きた意味があるような気がした。
だから、ほんの少しだけ、息を吸った。
「人生が、ゲームみたいだから」
私は自嘲的な笑みを浮かべ、呟いた。
すると彼は、大声をあげて笑った。
まあ、予想していた反応だった。
痛いだのなんだの言われるのだろう。彼と別れた後、死ねば何も関係ない。
学校に伝わってしまったって、死ぬのだから、大丈夫。
そう考えるとどうでもよかった。
「それを、面白くないと感じてる訳だ?」
予想していなかった言葉が突然出てきたことに私は驚いた。
私の言葉を本気で考えている人に出会ったのは初めてだったから。
「だって本当に退屈だし、死ぬほうが生きるよりよっぽど楽じゃん」
私がそういうと、彼が突然、真剣な瞳で私を見つめてきた。
彼の目は透き通っていて、私の事なんか見てないんじゃないかと思うほど、綺麗だった。
何か、とても大事なものを見るような、とてもとても美しく繊細なものを見るような瞳に吸い込まれてしまいそうだった。



「ゲームだって人生だって面白くするのは、君次第なんじゃない?」




心臓が、ドキッとした。
意表を突かれて少ししり込みしてしまう。
「チートでも何でもやればいいさ、面白ければね」
とにかく、てきとうな人だと思った。
自分を中心に世界が回っているような、それを信じて疑わないような、そんな顔をしていた。
「明日の放課後、屋上に来るように」
彼は笑顔で私にそう告げ、居なくなった。
自殺を止めるだけ止めといて、放っておくやつがいるだろうか。
もう一度死んでやろう。
そう思ったが、彼がやけに遅い歩幅で歩いていくのを見て、思わず笑ってしまう。


「明日でも、別にいいや」



わざと、大きな声でつぶやいた。




今日は少しだけ、いつもとは違う1日だった。