「先に言っておく。魔法とはイメージだ。その前提を崩すな」

その通り、魔法はイメージ。
魔法自体は魔力があれば努力次第で使える、魔力をイメージ通りに変換すればいいのだ。
それができたら魔法は自身のスキルとなって、力となる。

「スキルが有れば使えるなんぞ、俺は認めない。魔法は緻密なコントロールと鮮明なイメージを持って始めて魔法となる。スキルなんぞを利用して魔法を使うな。それは魔法の本質を失う行為だ。よってテメェらには今、テメェらが持っている魔法スキルではなく、別の属性を操れるようにしろ」

つまり、後天的に魔法スキルを習得しろって言うことか。
こりゃ無茶苦茶だな。
だけど、面白い。
これが現代では"大賢者"に最も近づいた魔術師か。

大賢者とは、魔法を極めし人間に与えられる究極の称号。
世界で魔法の実力が歴代でトップ3に入った者にだけ、与えられる称号だ。
称号とは、持っているとスキルの効果が上がったり、いろいろの効率が良くなる。持っていたら持ってるだけいい者、それが称号だ。
賢者の称号を持つリグランは、歴代でも序列五位以内には入っていると言われており、実力的にはSランク冒険者を優に勝ると言われているが、本人が極度のめんどくさがりなのでランク自体はAに止まっているが。

「とは言っても、まずは基本の魔力コントロールがなってないと魔法の習得なんぞ不可能。最初に、テメェらには魔力操作で空を飛ぶ『舞空術』を習得してもらう」

なんだそれは?ドラゴン〇ール?

「まずは俺が手本を見せる」

そう言うと、リグランの服がバタバタと音を立てて体が浮き上がる。
魔力操作が見られた形跡もなく、まるで、帰り道にふと立ち止まる、そんな自然な感じで浮き上がった。

俺たち兄妹は空いた口が塞がらない。
空を飛ぶのは高度な技術を持つ風魔術師が飛ぶことができると言うことが常識だった。

俺たちが驚いていると父様が言う。

「凄いだろ?あいつは」

「はい。凄いです。魔術書に全く書いてない技術です」

「それは俺のオリジナルの魔術だからな。言ってしまえば無属性魔法?とでも言えばいいか?全ての魔法の基本となる、教本のような魔法だ。これさえ出来ればあらゆる魔法に応用できる。特に長男。お前には確実にものにしてもらう」

名指しで呼ばれたルアスはビクッと反応して、

「は、はい!」

と言う。
反応が年相応の男の子で可愛らしいものだ。
ん?俺?俺は某有名名探偵もびっくりの見た目は子供、頭脳は大人状態だぞ?

「まず、やってみろ。と言いてぇところだが、俺のスキルで鑑定したんだがそこの長男は魔力量が低い。低すぎる、最低5000は欲しい。これからお前には毎日魔力を空にし、その状態でマルスとの鍛錬を行なってもらう」

「わかりました」

どうやらリグランは鑑定スキルを持っているようだ。
俺もいつか欲しいスキルの一つである。

「魔力を空にすれば、外界の魔力を取り込んでいく。人体の活動には魔力が必要であり、魔力が空の状態で鍛錬でもすれば、当然魔力の取り込み量も多くなり、魔力の許容量を強引かつ効率よく増やしていくことができる」


そうか、ルアス兄ちゃんは魔力に限りがあるのでこのような工程を踏まないといけないのか。
俺にはない悩みだな。

「次男の方は、魔力コントロールからだ。」

「あ、それはそこそこできます」

魔力コントロールは家にあった魔術書の内容なら、今は9割はできる。
以前は結構難しかったのだが、【無限】の権能の一つである詠唱破棄、術式構築の高速化を活用したら思いのほかコントロールが安定した。

「ほう、術式は何乗できる?」

「魔術書に書いてあった範囲でしか試したことはありませんが、12段ですね」

「ふむ。まぁまぁやるな。あのマルスが魔法に関しては天才的だと言うだけあるな」

リグランは納得した様子で頷く。

「よし。ならテメェには、無属性魔法の習得に勤しんでもらおう。長男と次男じゃどうやら目指す場所が違うらしいしな。」

ルアス兄ちゃんは、将来的に父様と同じように魔剣士になるようだ。
俺は現状は魔法しか興味ないので、魔法に打ち込める現在の環境は有難い。

「よし、なら始めるぞ」

家庭教師が来てすぐ、俺たち兄弟の修行の毎日が始まった。