何ともない、普通の日々が俺は好きだった。
中堅国立大学を出て、幸いなことに大企業と呼ばれる会社に入社し、無難に日々を過ごしてきた。
家族は両親は死に、祖父母もいない。
天涯孤独ってやつだ。
身長も低いわけではなく、顔はそれなりにいいとよく言われる。
現在は彼女はいない。

そんな典型的な独身サラリーマンの俺ー佐藤道長は、タバコのくぐもった白煙を口から噴き出す。
それは少し空中で止まったあと、ふわふわと消えていく。
その儚い煙は、なぜか俺の今後の人生を占っているかのように見えた。

今日は、贔屓の野球チームの中継がある。
さっさとビールを買って、そそくさと帰ろう。

そう思ったときだった。

「ふざけんじゃねぇ!!」

「お前!!ぶっ殺してやる!!」

と、居酒屋の前で酔っ払いが喧嘩をしている。
俺は事なかれ主義なもんで、他人の喧嘩を進んで止めにいくようなお人好しではない。
大体、大の大人が酒に呑まれて喧嘩するなど恥ずかしい限りである。

そんなことを思いながらその場を通り過ぎると、喧嘩はさらに、ヒートアップしているようだった。

「「きゃーーーー!!」」

背後から悲鳴が聞こえてくる。
さて、どうしたものかと振り返ると先ほどのケンカしていた男の1人がこちらに走ってくる。
その奥には刃物を持った男が先ほど走り去った男を追いかけていた。

そういうことかよ!!

と思ったのも束の間だった。

「どけ!!殺すぞ!!」

そこからは全てスローに見えた。
男の刃物が、何かに決められたことのように俺の腹に吸い込まれていくところを。
腹に、深々と刃物が刺さった瞬間、全身をめぐる血が暴れ回るように脈打って、尋常じゃないほどの血が出てきた。
俺はその痛みに耐えきれず、そのままぐたりと地面に倒れ込んだ。
何がどうなってるんだ!?
動きたくても動けない。

「う、うわあああああ!!!」

と、狂乱しながら、俺を刺した刃物男は走り去っていく。

「だ、大丈夫か!!」

周囲の人々が俺に叫び声に近い大声を出しながら近寄ってくる。
生憎、俺はそれに応える余裕もない。
しかし、熱い、腹が尋常じゃないほど熱い。
灼熱のマグマを腹に植え付けられたぐらいの痛みだ。
くそ、、、こんな時、メラ●ラの実を食ってれば痛くないんだろうけど。

《『蒼炎魔法』の習得に成功しました》

な、なんて!?
魔法!!魔法があったら治してくれ!痛くて敵わん!!

《『神聖魔法』の習得に成功しました》

「い、今、救急車を呼ぶ!!耐えるんだ!!」

た、耐える??無理だよ・・・・
もう、最悪だよ。
あの時喧嘩を止めればよかったってことかよ??
畜生め!!
あ、熱い、誰か冷やしてくれ!!

《『氷獄魔法』を習得に成功しました》

だ、誰か、何いってんだ?さっきから。
こっちは意識が朦朧としてきてヤベェんだよ!
が、ガチで死ぬかも。

身動き取ろうとするも体が微塵も動かない。
やりたかったこと、山ほどあるんだけどな。
チッ・・・
しゃあないか、これが運命ってことだろ?
来世にでも期待しますよ。

《強力な意志の力を感知。転生を開始します》

意志の力?
なんだそれ?
転生??
転生したら無限の可能性がある天才にでも生まれ変わりたいね。

《固有スキル『無限(インフィニティ)』を獲得しました』

あ?固有スキル?
さっきから魔法だのスキルだの、うるさいんだよ!!
馬鹿にしてんのか!!こっちは苦しんでるっつーのに。

そんなことを心で叫びながら俺は死へ誘う睡魔に身を任せた。