公園の前にある交差点で遠くからだが、みきちゃんの姿を確認する。もちろん走ることはできないので、歩きながら彼女に近寄っていく。



 当然距離があるため彼女が僕に気付くことはない。みきちゃんが待っている横断歩道の信号とは別の信号が点滅し始める。



 なぜだか、胸のあたりにモヤがかかったような不安に襲われる。一見して見るとごく普通の日常の風景。しかし、この時の僕は視界がものすごく開けていた。



 みきちゃんの右奥から交差点の信号が赤色になりかけているのに、スピードを緩めず走ってくる車。このままではいけないような予感がして、大きく息を吸い込み声を上げる。



「みきちゃーん!!! 信号渡らないで!!!」



 今まで僕がこんな大声を上げたことがあるのかというくらい全力で叫んだが、彼女は振り向かない。



 電話でもいいかと思ったが、携帯には先ほどのメールの送信画面が。焦っていたためか、電話をかけたらこのメールが消えてしまうと思い、電話するのを諦める。その瞬間にも鉄の塊はスピードを上げたままみきちゃんの元へと向かっている。



 "このままではみきちゃんが..."走ったらかろうじて助けられる距離...でも走ったら今度こそ僕の命は...



 ふと幼少期の頃に父さんが僕に言っていたことを思い出す。



 『大切な人を守りたいなら命をかけてでも守れ!』



 少々古典的な考えかもしれないが、今僕が走らず目の前で大好きな人が轢かれていく姿だけは絶対に見たくない。



 父さんの言葉と同じように、母さんの言葉も脳内に蘇ってくる。



 『何があっても走ってはいけないからね』



 どちらの言い分も今となればよくわかる気がする。でも、僕は彼女にはこれからもずっと笑って生きていってほしい。



 例え、僕が死んで彼女から笑顔が消えても僕がまた君を迎えに行くから、その時はまた笑顔で僕に笑いかけて...



 儚い願いを胸に抱え、足を大きく一歩踏み出そうとする。金属の鉄球が足に付けられているのではというくらい足が重い。見えない何かにも引き摺られている感じもする。死へと歩み進めているからなのかもしれない。



 手に持っている携帯を握り締め足に力を入れると、ゆっくりではあるが地面に足が着く。そのまま片足を上げると今度はすんなりと足が地面に着いてしまう。覚悟は決まった。



 僕はみんなとの約束を破り、人生で二度目の過ちを犯す。