目の前から泣きながら歩いてくる男の子を目にする。平日の昼間にしては異様すぎる光景。見たところ小学校低学年くらいだろう。



 一体この時間にどうして泣いて歩いているのか、僕には全く見当もつかない。見過ごすことだってできたが、それだけは僕の良心が許さなかった。



 僕の将来の夢は、この子のような小さい子を助けることだから。



「どうしたの、ボク?」



 怖がらせないように彼の目線に合わせて話すために足を曲げてしゃがむ。少し彼を見上げるような形になる。



「お兄ちゃん、だ、れ?」



 当然といえば、当然の反応。見知らぬ人に話しかけられても、"ついて行ってはだめだよ"と周りの大人たちに言われているのだろう。彼の瞳には不安が宿っているようにも見える。



「お兄さんは正義のヒーローさ。泣いている君を助けに来たのだよ!」



 柄にもないことを言って彼の不安を取り消そうとつい言ってしまったが、大丈夫だろうか。余計怪しまれたりするかも...



「え、お兄さんぼくをたすけに来てくれたの!」



 どうやら効果はあったらしい。彼の目は大きく見開かれ、輝きを放っているようにも見える。まさかここまで食いついてくるとは思わず、ヒーローとはどんなのだったか思い出してみる。



「も、もちろん。ところでどうして泣いていたの?」



「じ、じつはね。ぼくね、もうすぐお兄ちゃんになるの。でもね、ママいつもおなか大きくてたいへんそうだから元気づけようとおもって、ひみつでためてたお金でお花をプレゼントしようとおもったんだけど、さっきそこでころんじゃってお金おとしちゃったの・・・」



 そうか、だからこの子は泣いていたのか。僕に見せてきたお金だけでは到底花なんて買える金額ではない。



 多分、彼の中で一番価値のある五百円玉を落としてしまったに違いない。この歳で母親を気遣うことができるなんて、"この子はいいお兄ちゃんになるのだろうな"と感心してしまう。