思い出の公園までは歩いて数分。海にもらったイヤホンを耳につけ歩き始める。もちろん、ノイズキャンセリング機能で。



 この機能を考えた人は本当にすごい。ほとんど、外部音が聞こえないので自分だけの世界観に没頭することができる。外では少し危ない気もするが、私なら大丈夫だろう。



 時間にも少し余裕があるのでちょっとだけ遠回りをしていく。今日は平日なので歩いている人は、お年寄りや主婦の方たちばかりで少しだけ優越感に浸る。



 桜並木が立ち並ぶ一本道の隣には緩やかに流れる小川。輝くような小川の水面を花筏(はないかだ)が流れ、春の終わりを静かに私たちに告げているように見える。その流れと共に鳥たちも空では桜の花びらと共に舞い踊っている様子。



 目に余る程綺麗だったので、立ち止まって写真を一枚撮る。帰りはここで海と一緒に写真を撮れたらいいなと思いながら。



 広い交差点の奥に思い出の待ち合わせ場所の公園が見えてきた。信号を待っている間に曲が変わる。



 流れてきた曲は海と二人で聴いた『モーツァルトのレクイエム』。



 信号が青になり私は足を進める。どこからか、誰かが叫ぶ声が音楽越しに徐々に近づいて聞こえてくる。



 こんな昼間から大声を出すなんて変な人もいるのだなと思いながら、歩き続ける。



 この時イヤホンをしていなかったら、私はきっとあなたに気がついたでしょう。でもそれはできなかった。



 だって、あなたにもらった大切なイヤホンだったから...



 "ピコン"私の携帯にメールの着信音が鳴る。携帯の画面を見ようとした時には遅かった。右から黒い何かが私目掛けて突っ込んでくる。



 一瞬で私の体全体が影に飲み込まれる。怖さのあまりぎゅっと目を瞑ってしまった。



 次の瞬間、耳を鋭く刺すような甲高いブレーキ音と共に私の体に衝撃が走り、意識がぷつりと途切れた。