その日はたまたま熱が三日間下がらなかったので、近くの大きい病院に診察に行っていた。先生からはただの熱だから、薬を飲めば良くなるよと言われ、待合室で待っている時だった。



 遠くの廊下を歩き診察室へと入っていく男子中学生。一目でそれが誰だかわかった。



 本来なら盗み聞きは絶対にしてはいけないのだが、どうしても彼の苦しみがなんなのか知りたかった私は、ドアに耳を当て話を聞くことにした。生憎周りに人はおらず、集中して中の声を聞くことに専念できた。



「海君・・・今はとても安定しているよ・・・油断は禁物だからね」



「・・・僕はあと・・・どれくらい生きられるんですか?」



 絶句した。詳しい部分は聞き取ることができなかったが、彼は確実に『どれくらい生きられるのか』を聞いていた。信じたくなかった。



 でも思い返してみれば辻褄が合うことに、冷や汗が身体中から止まらなかった。



 熱を出して病院に行っていたのを忘れて無我夢中で海の家へと走る。若干熱が原因で視界が歪んで見えたが、気にならなかった。そんなことよりも海のことで頭がいっぱいだった。



 海の両親は私のただならぬ様子に驚いていたが、私の一言で顔色が変化する。嘘であってほしかったが、二人のその表情が本当だと物語っていた。



 海パパはお店があるからと言い、私は海ママと話をすることになった。最初は何も語ろうとしなかったが、とうとう諦めたのか本当のことを話し出した海ママ。



 ショックだった。余命はないけれど、運動したり走ったりしたら命に関わるなんて、普通に生活する上でも大変なのに、私や想太、いっちゃんに気を遣わせないために隠し続けてきたなんて...信頼されていないという悲しさよりも海の辛さが、中学生の私の未熟な心には重すぎた。



 みんなと外で遊びたいけれど遊べない辛さ、走ることのできないもどかしさ。彼はそれを我慢しながらこれまで私たちに気づかれないように、生きてきたことを考えると涙が止まらなかった。



 自分には何もしてあげられないという悔しさが詰まった涙だった。