それからはみきちゃんが上がってくるまで部屋に溜まっていた、未読の途中まで読んでいる本を一冊手に取り、読み始める。僕は本の中でも小説が一番好きだ。



 小説は自分が体験したことがないような疑似体験ができるみたいに、僕をその空間へと連れて行ってくれる。



 文字で描かれているだけなのに、まるで自分がその場にいるかのような景色を我々読者に見せてくれる。時には僕らに寄り添うような書き方をして僕らの気持ちを代弁してくれる。それが何よりも楽しく感情移入できる理由の一つだと僕は思う。



 ざっと部屋を見渡すと、僕の部屋は本でできているのかというくらい本で囲まれている。その数はだいたい五百冊は超えているだろう。全部小説だけれども。



 もちろん多種多様なジャンルの小説を読むが、一番好きなジャンルは推理小説かもしれない。



 推理小説は読み進めながら事件の謎やトリックといった頭を使った内容のものが多いので、自分もその場にいるような錯覚と共に一緒に謎を解き明かしていくのが僕の心をくすぐるのだ。



 探偵役として物語にのめり込むのも楽しいが、意外と犯人役になって読んでみると"いつバレるのか"、"次はどんなトリックを使おう"などといったハラハラ感がたまらないので、おすすめしたいのが本音。



 今まさに僕の読んでいる小説は最大の山場を迎えている。とある洋館で起こった残忍な連続殺人事件の犯人が明らかになる場面...



「さて、今回は誰が犯人なんだろうな・・・」



 今回は、ただの傍観者の立ち位置で物語に溶け込んだ。胸の高揚感を抑えつつ、指を次のページへとかける。



「かーい! お風呂いいよー!」



 ぺージをめくろうとしていた指がぴたりと止まる。この次が見たい...でも見てしまったらお風呂に入るのが遅くなってしまう。



 迷いに迷った末、僕は静かに栞を小説に挟んで本棚へと本を戻す。



「う、うん。今入るよ・・・」



 本から視線を外し、みきちゃんを探す。目の前にはパジャマ姿の彼女。普段とはまた違いオフさが際立っていて、これはこれで破壊力がエグい...言葉に詰まっていると彼女の方から近づいてくる。



「早く入らないと冷めちゃうよ?」



「あぁ、うん。行ってくるね」



 本の内容で埋まっていた頭が、彼女のことでいっぱいになっていくのに時間はかからなかった。