「お邪魔します！」



　さっきまでの恥じらいが嘘かのように、元気に挨拶をして我が家に入ってくる彼女。一度家に帰り今日泊まる準備をしてきたらしく、リュックがパンパンになるほど荷物を詰めている。



　一日だけのはずなのに"その荷物の量はなんだ"と言いたくなるほどの量。それに家も隣同士なので何かあれば取りに行けばいいのに。



「いらっしゃい、希美ちゃん！」



　笑顔で迎え入れる僕の両親。どちらもみきちゃんのことを自分の娘だと思い込んでいるらしく非常に仲がいい。時として僕に不利に働く時もあるが...



「今日はよろしくお願いします！」



「ゆっくりしていってね」



「はい、ありがとうございます！」



「それじゃ、夕食にしようか！」



　僕たち二人は洗面所に行き手を念入りに洗う。手にはまだ先ほどのみきちゃんの手の温もりがあった。それを汚れと一緒に水で流してしまうのはなんだか寂しい。もちろん風邪は引きたくないのでうがいまでしっかりする。



　リビングに向かい僕たちは隣同士に座り、僕の両親と向かい合う形で着席する。昔から彼女が泊まりに来た時はこの形で食事をとっていたが、今は違和感でしかない。



　多分、この違和感は僕が彼女を一人の女性、好きな人として考えているからこそ湧き上がってくるものなのだろう。両親へのお付き合いの挨拶みたいで心が落ち着かない。



　本来なら、彼女がソワソワするはずなのに先ほどから彼女は楽しげに両親と会話しながら食事をしている。



「ところで二人は明日、創立記念日で学校お休みだけれど何しているの？」



　明日は僕らの高校の創立記念日で休日らしい。



「私は、特にはないかな〜。海は？」



「僕は明日、想太と会おうかなと思っているところ」



「へぇー、珍しいね。海から想太を誘うなんて」



「ま、まぁね。たまにはいいかなって」



　どうか顔に現れませんようにと心の中で必死に祈りながら、苦手なトマトを口にする。"美味しくない..."